藤井二冠が信じられないような大逆転負けを喫してしまった。

 昨日、王将戦挑戦者決定リーグで豊島将之竜王対藤井聡太二冠戦があった。囲碁将棋チャンネルで生放送であった。解説は深浦康市九段、聞き手は中村桃子女流初段、ダブル解説は豊川孝弘七段と石田直裕五段であった。相居飛車の対局はずっと互角で長い中盤戦に入った。豊島竜王が誘導した形であったので、やや藤井二冠が指しにくいようであった。しかし両者の互角の中盤戦は、藤井二冠が2四飛と豊島竜王の飛車にぶつけてからは、藤井二冠がやや有利になった。まあ大抵の対戦者に対しては、藤井二冠はそのまま有利を優勢にして、勝勢を築き上げ、そのまま押し切って勝ってしまうのだが、どういうわけか対豊島戦になると、見違えるような終盤戦の悪手によって、負けてしまう。私は4局終わった時点でも、内容的には2勝2敗の五分で、いずれ対豊島戦も対菅井竜也八段戦のように連敗の後の連勝というようになるのであろうと思っていた。しかし前回の対局、日本シリーズでも信じられないような終盤戦の悪手を連発して、二転三転どころか四転してしまい、負けてしまった。その頃から豊島竜王の対藤井戦用の最善手を指さないという戦法を疑っていたが、今対局ではそれが意識的に行われていることを確信した。藤井二冠が飛車角交換した後からは、はっきりと藤井二冠が優勢になった。解説の豊川七段は六分四分で藤井二冠が有利と言っていたが、すでにAIの見立てでは七分三分で藤井二冠の優勢になっていた。豊島竜王はこの辺りから長考を繰り返していたが、変な手を指し始めた。後に深浦九段が豊島竜王がこんな手を指すなんて信じられないと言っていた2六桂。解説陣を意味不明と言わしめた1二龍など手の善悪でいえば悪手と言っていい手である。結果的には両方とも生きて、勝利につながるわけだが、少なくともこの段階では藤井二冠の思考を狂わすための最善手外しと言っていいと思う。藤井二冠は6四歩や5五桂を指せばそのまま押し切ったと思うが、指さない。8九角など信じられない手を指してしまう。6四歩も5五桂も後に指しているわけだから、浮かばなかったわけではない。ともかく私が指しついでも勝てるだろうと思われる局面を何度か作り出しながら、豊島竜王の変な手に惑わされて悪手の連発である。豊川七段も勝ちましたねと言っていたが、豊島竜王の1九香を取ったあたりから、あれれという感じになった。よく言えば大山流の最善手外しと言えるが、あまり豊島竜王の指し手は感心しない。勝てば官軍というが、将棋は棋譜が残る。稀代の勝負師大山十五世名人のようになる前に、渡辺名人や永瀬王座、ひょっとしたら羽生九段の前に膝を屈することになるかもしれない。やはり最善手の追及をやめないでほしい。

 心配なのは藤井二冠のメンタル面である。あのような敗戦は公式戦では初であろう。他の対局者も最善手外しをしてくるかもしれないが、多分豊島竜王だから成功しているものと思う。豊島竜王の真似をすると惨めな負け方になるであろう。藤井二冠は今期初の勝率8割を切ってしまった。試練の時を迎えたのかもしれない。高校を卒業すると容赦ない試練が押し寄せると思うが、乗り切ってほしいと願っている。