西山女流三冠対佐々木慎七段のNHK杯戦の対局を見た。佐々木姓は強い棋士が多い。佐々木慎七段もB級2組で竜王戦は4組なので弱い棋士ではない。佐々木勇気七段や佐々木大地五段の影に隠れているが、その実力は高く評価されている。NHK杯は女流枠が設けられるようになって楽しみが増えた。その昔中井広恵女流六段が青野照市九段を破った時は元A級棋士を破ったと評判になった。最近では加藤桃子女流三段が及川拓馬六段に勝った時も奨励会初段は強いなあと思った。この年及川六段は年間勝率7割を記録したと思う。詰将棋の得意な及川六段が加藤女流に見事な寄せで敗れたのが印象的だった。ここで佐々木慎七段を破ると随分と自信になるなと思った。

 西山女流三冠の先手で始まった。解説は中村太地七段である。両者は研究会で2局指したことがあると紹介していた。西山女流の3間飛車対佐々木慎七段の居飛車で始まった。佐々木慎七段は本来は振り飛車党で居飛車も指しこなすという解説があった。互いに美濃囲いから佐々木慎七段は銀冠に変えようとしていた。佐々木慎七段の誘いに乗って開戦したがやはり反撃が厳しかった。無理攻めを強要された感じで西山女流三冠が指しにくくなった。その後丁寧に対応されて佐々木玉は遠く固く、西山玉は一方的に攻められる展開になった。かなり辛抱強く防戦一方の戦いを指していたが、突如として投了してしまった。攻防とも見込みがないと判断しての投了だったと思うが、最後の時間攻めを見たかった。西山女流三冠が2分残っていたからな。佐々木慎七段は1分だった。早く5四歩を指して、5九歩と粘れなかったかなと思ったが、時期すでに遅しだったかな。佐々木慎七段の実力を認めていたのであろう。

 現在の西山三段の実力はフリークラスの棋士には勝てるが、C級の若手棋士には分が悪いといったところかな。年配者の高段棋士には分がいいようだ。順位戦に入ってC級2組で昇級候補にはなれないと思うが、そう簡単には降級しないであろう。何せあの佐々木大地五段もまだC級2組を抜けれていないのだから。王位戦リーグで勝ち越す棋士が昇級できないのは、制度の不備である。そもそも奨励会は四段五段の棋士を生み出す為の制度ではないという。名人八段を生み出す制度だという。そこで生み出された新四段が最初にぶつかる試練が3人の昇級枠である。4人が昇級してきて、3人しか昇級できない。必ず一人は取り残される。ようやく3人枠に残って昇級してもC級1組は2人だった。今年から3人に増やされた。遅すぎる。屋敷九段もC級1組に14年も在籍した、「お化け屋敷」が普通の元棋聖になってしまった。

 しかし遅らせばかりながら、昇級枠を増やしたのはいいことである。これで9勝1敗で昇級を逃す棋士は激減するであろう。A級では6勝4敗で名人挑戦者になったり、B級1組では8勝4敗でもA級昇級を果たした棋士は数多い。しかし2勝1敗ペースの棋士は超一流棋士である。1000局以上指して2勝1敗以上の棋士は現役では羽生九段だけである。相手はプロ棋士である。「勝つことはエライことである」といったのは故塚田名誉十段と聞いている。実力制第二代名人の言葉と聞くと意味深いが、坂田三吉名人の言葉とした方がぴったりかな。