この間から昔の映画をよく見ている。昔見た映画の場合もあり、昔見たかったが見ないで終わった映画もある。「切腹」は昔見たかったが見ないで終わった映画である。

 「切腹」は昭和37年製作の映画であるのでリアルタイムでは見られなかった。この間紹介した「文芸地下」でも見られなかった。「時代劇専門チャンネル」で録画をして見ることができた。小林正樹監督の作品で、仲代達矢主演で三國連太郎が敵役であった。まだ若かった岩下志麻が仲代の娘役で出演していた。脚本は橋本忍であった。時代背景は大阪夏の陣が終わって、まだしばらくしかたっていない頃のようだ。巷には浪人がうようよいて、仕官を求めているが思うにまかせない状況である。岩下志麻の夫役が石浜朗で、妻も息子も病気で苦しんでいるが、医者にも見せることができない、切羽詰まった状況で出かけた。井伊家上屋敷を訪問し、庭先で切腹することになってしまった。大小の刀は竹光で切腹することも出来ないような状態である。しかし井伊家江戸家老の三國連太郎はその竹光で切腹することを無理強いしたのである。あまつさえ介錯することさえ拒否するのであった。石浜は切腹するので一両日の猶予をお願いするが、聞き入れてもらえず、とうとう竹光で切腹することになった。当然のことながら竹光では突き刺すことは出来ても横に掻っ捌くことは出来ない。結局舌を噛み切って果てる訳だが、見苦しいということで、粗末な扱いに終始する。井伊家家中から3名の武士が仲代の元に死体を運んでくる。二日後に孫が亡くなり三日後には娘も亡くなる。

 そこで仲代は事の仔細をただすべく井伊家上屋敷に赴くことになる。井伊家には井伊家なりの名分や体裁もあろうが、何故一両日の猶予が与えられなかったのか。最後は仲代の大立ち回りで終わるのだが、私にとっては後味の悪い幕切れだった。井伊家の始末は、亡くなったものは皆病死で処理された。仲代に斬られて死んだ者も詰め腹を斬らされた者も等しく病死で処理である。仲代達矢の演技で心に残っているものは「人間の条件」の梶上等兵役であった。オールナイトで上映された「人間の条件」を小学生の時に母に連れられた見たことがある。長い映画で途中何度も寝てしまったっが、いつまでもやっていた。ラストの雪に覆われていくシーンは記憶に残っている。重い課題を突き付けられるが、個人ではどうしようもないことである。徳川幕府のご政道を批判しても、井伊家の粗略な扱いを批判しても、仲代の頑なな士道を貫く生き方を批判しても、どうにもならぬことである。結局「諦」の一字に落ち着くのかな。暗い気持ちになったのは白黒映画のせいでもあるまい。