フィルは窓の外を見ていた。


私がここにいることは

こちらを見ていなくてもわかるはず。

フィルの左側へ 少し近付いてみた。


こちらを振り向くが私に視線は合わせず

静かに歩いて来た。

何も言わず、フィルの顔を見上げると

私の横を少し通り過ぎ、足を止めた。


上半身は何も着ていなかった。

振り向いてフィルの背中を見ると

フィルは突然 翼を出し、


「ミリアス!君は本当に悪いコだ!」と言って


私を翼で背中の間に挟み

イルカのように頭から横向きになってジャンプし

そのまま体を2回転位横にクルクルっと回したあげく

3~4m先の壁に横付けてあるベッドに向かって

更に体をひとひねりして翼ごとベッドに横倒しにされた。


一瞬だったので、驚いたけど、

それにしても、助走も無しで

なんという バネと瞬発力!

いつも穏やかで、品良く振る舞ってくれてはいるが、

戦闘能力の高さを思い知らされた。

というか、かっコよすぎて惚れ直した。


そのウルトラC級のアクロバティックな移動が楽しくて私はつい笑ってしまっていたけど、

フィルのリアクションは違っていた。


何か言いたげなのに、何も言わず、

むしろ 私からの言葉を、何か待っている様だった。



この時、 私はまだ 気付いていなかった。



フィルの家に行く。


という、その意味を。



私が全てを思い出したから、

船ではなく、

自分の所へ  来た…  と思った のか。


私が無言で現れて、すぐに言葉を発しなかったのも

それを確定付けるようなものだったのか。



それで「最初の一言」を待っていたのだ。


記憶を戻した私が 一体、何を言うのか。

息を飲んで その一瞬を待っていたのだ。


その意味がわかる記憶が戻った今にして思えば、

この時、フィルは

「最後の審判」にも似た心境だったかもしれない。


私はただ、光に集まる虫のように、

フィルの氣を察知して やって来ただけなのに。


ミリアス!君は悪いコだ…   悪い…  こ?


まだ記憶が戻っていなかった私には、

そのセリフにどれだけの意味が込められていたかなんてその時は想像も出来なかった。


アポ無しで 突然お宅訪問したから叱られた?

この前は 船でやらかしたし。


それで「悪いコ」なのだと思った。


でも、そうではなかった。

全く違っていたのだ。


悪いコ、の意味は… 


本当は文句の100や200は言って、

私の体をこれでもかと揺すり続け

号泣して謝罪し制止を訴えても止められない程

私を責めたてたい心境だったろう。


なのに、フィルの感情を抑えたお説教は

とりあえず これで済んでいた。


それを思い出すことになったのは

この後本体に戻り、数時間後 からのことだった。