近所のStarbucksで珈琲を飲みながら,向こう側の書店をぼんやりと眺めていたら,じんわりと本が読みたくなった。
仕事がひと段落したこともあり,久しぶりに本を物色する。
往来する人々が立ち止まりやすい店先に,夏の海を想わせる真っ青な帯紙で占められた一角があった。
『ナツイチ』と書かれたポップのまわりには,夏に読みたいオススメの一冊が隙間なく埋められている。
レストランのメニューから「今,食べたい」料理を探すように,今の気分に寄り添うタイトルを慎重に手繰り寄せる。
ふと一冊の帯に目が留まった。
“全6章,あなた自身がつくる720通りの物語。「一冊の本」の概念を変える体験型小説!」
どうやら,読者が全章を好きな順番で読み進め,それぞれに違う結末が視える・・・らしい。
720通りもあれば,1年間は楽しめる。しかも990円で。
娯楽性に期待して,『N』と書かれた“それ”を持ち帰った。
なるほど。確かに6章から成る物語のようだ。さて,どれから読もう。
『毒』という文字が視界に飛び込んでくる。
はじまりの物語は,これにしよう。
『名のない毒液と花』
島に捨てられた犬。犬を捨てた夫。浮気する妻。島で遭遇した少年。
少年は埋めたのではなく,掘り起こしてしまった。殺すのはアイツではなく僕。
少年の命は繋ぎ止められ,愛する人の命は失われた。
最後に残ったのは,同じ哀しみを背負うあの男性(ひと)と犬だけ。
あれから13年。後味の悪い毒の後遺症を今も飲み込んでいる。
誰のせいでもない。誰かのせいにしてはいけない。
だから『名のない毒液』なのだ。
では,私が欲しかった『花』とは何だったのだろう・・・
それは,また違う物語で視えてくるのかも知れない。
