今回は、セクシュアリティの言葉の細分化とその意味について、考えてみたいと思います。
 

私は自分のセクシュアリティを、ジェンダークィアでパンセクシュアルだと自認してきました。

この表現は、セクシュアリティを表す際に使われる3つの軸、「身体の性」「心の性(性自認)」「好きになる性(性的指向)」に基づくものです。

私は身体の性が女性で、性自認がジェンダークィア、性的指向がパンセクシュアルというわけです。

ちなみに、最近使われているSOGIという言葉は、この「性的指向(Sexual Orientation)」と「性自認(Gender Identity)」の頭文字をとったものです。

性的指向を示す「XXXセクシュアル」という言葉は、「特定のセクシュアリティやジェンダーを“好きになる”人」という意味で使われてきました。

この場合の“好きになる”というのは、「(性欲も含む)恋愛感情を抱く」という意味です。

この使い方においては、恋愛感情と性欲とはセットのように扱われ、あまり厳密に区別されていなかったように思います。

近頃、この「好きになる性」が「恋愛感情を感じる性」と「性欲を感じる性」とに細分化されて、軸が4つになりつつあるようです。

この新しい軸が「恋愛的指向(Romantic orientation)」と呼ばれるもので、「XXXロマンティック」という言葉で表現されます。

どのセクシュアリティやジェンダーに対して恋愛感情を感じるか、という傾向のことです。

少し複雑なのですが、従来の(広義の)性的指向という言葉が、恋愛的指向と(狭義の)性的指向に分かれた、ということができるでしょう。

ここを区別する必要があるのは、人によっては、「どんなセクシュアリティやジェンダーの人に恋愛感情を感じるか」と「どんなセクシュアリティやジェンダーの人に性欲を感じるか」が必ずしも一致しないからです。

特にアセクシュアルの人たちにとって、この区別は重要なものだといえます。

広義にアセクシュアルと呼ばれる人たちの中にも、細かく分ければ「恋愛感情を感じないが、性欲を感じる人」「性欲を感じないが、恋愛感情を感じる人」「恋愛感情も性欲も感じない人」がいるからです。

狭義にいうなら、性欲を感じないのがアセクシュアル、恋愛感情を感じないのがアロマンティックということになります。

これがヘテロセクシュアルとヘテロロマンティックなら、ヘテロセクシュアルは異性に性欲を感じる人、ヘテロロマンティックは異性に恋愛感情を感じる人、という使い分けになるでしょう。

ポリアモリーは必ずしもセクシュアリティの言葉ではありませんが、ポリアモリーとはまた別に「“複数人に対して同時に恋愛感情を感じる”というセクシュアリティ」「“複数人に対して同時に性欲を感じる”というセクシュアリティ」というものは想定することができます。

XXXセクシュアルとXXXロマンティックの名付けルールに従えば、複数人に性欲を感じるのを「ポリセクシュアル」、複数人に恋愛感情を感じるのを「ポリロマンティック」ということもできそうですが、実はポリセクシュアルもポリロマンティックも、ポリアモリーとは無関係なセクシュアリティの言葉としてすでに別の意味で使われているのです。

ポリセクシュアルは複数のセクシュアリティやジェンダーに対して性欲を感じる人、ポリロマンティックは複数のセクシュアリティやジェンダーに対して恋愛感情を感じる人のことです。

なので、「複数人に恋愛感情を感じるセクシュアリティ」「複数人に性欲を感じるセクシュアリティ」を示す言葉は、私の知る限りまだないと言うことができそうです。

しかし、実際にこのような人達はきっといるでしょうし、それを示すセクシュアリティの言葉が必要になるかもしれません。

「誰に性欲を感じるか」ということがセクシュアリティの概念の中で切り出して語られてこなかったのは、”恋愛感情に付随する感覚”として、性欲を恋愛感情より一段下に置くような価値観があったからではないか、と思います。

特に、「恋愛感情は感じないけれど性欲は感じる」とか「恋愛感情は1人にしか感じないけれど性欲は複数人に感じる」などといったあり方は、セクシュアリティを語る中ではそれとなく無視されてきたのではないでしょうか。

誰に性欲を感じるか、誰とセックスしたくなるかという感覚はとても重要だし間違いなくセクシュアリティの一部だと私は思うのですが、LGBTの文脈においては、今までここだけにフォーカスされることがなかった。

誰を好きかということはもちろん重要なテーマだけれど、それに比べて、誰とセックスしたいかということはあまり大切にされてこなかったような気がします。

その意識が、少しずつ変わってきているのかもしれません。

このようにセクシュアリティを細分化して幾つもの軸で自分の性を表現する流れは、今後も進んでいくのではないかと思います。

皆さんも改めて、「自分が恋愛感情を感じる性、性欲を感じる性はそれぞれ何だろう?」と分けて考えてみることで、自分のことがよりよく理解できるかもしれません。