昔、恋人と別れた時の話です。

別れたからには、付き合っていた時には我慢していてできなかったことをしたい…と思い、私はとある女性用風俗店に電話をかけました。
電話に出た男性スタッフは丁寧な口調で、当店の利用経験、希望の日時や場所、キャストの好みやプレイの要望などを尋ねます。
私としてはあまり細かいリクエストはありませんでしたが、ただ一点だけ、元恋人と同い年のキャストをお願いしました。

彼と同年齢の他の男性って、どんな容姿で、どんなセックスをするんだろう…と興味があったのです。

次の日、待ち合わせ場所に着いた時には、さすがに緊張で膝が震えました。

なにしろ、男性が女性にサービスするという「女性用風俗」を体験するのは初めてです。

そわそわしていた私に「きのコさんですか?」と柔らかい笑顔で声をかけてきたのは、丸メガネにヒゲを生やしたクリエイター風の男性、ミツル(仮)さんでした。
「私のような年齢のキャストに、きのコさんのような若いお客様は珍しいので、驚きました。どうして私を選んでくれたんですか?」と尋ねられ、私は率直に、恋人と別れたので彼と同い年の人とセックスしてみたいこと、自分がポリアモリーであること、元恋人や私にも他にパートナーがいることなどを語りました。

話を聞いて、ミツルさんは感心した様子で言います。

「その方、僕と同い年なのに、きのコさんやもう1人彼女さんがいるんですね。いいなぁ、モテるんだなぁ」

なるほど、そういう感想になるのか…と、私は新鮮な感じがしました。

複数のパートナーがいるって、世間的には「モテる」と認識されるんだな…ポリアモリーって「楽しそう」とか「恋愛の勝ち組」とか言われるのってこういうことか…

いや、必ずしもその認識が間違っているとは思わないけれど、「モテるんですね」と言われるたびに、なんだか不思議な気がするのも事実です。
 

ミツルさんと一緒にお風呂に入り、丁寧に身体の隅々まで洗ってもらってからベッドへ促されます。
彼のプレイはソフトながら濃厚そのもの。

全身をくまなく柔らかく舐め尽くされて、私は2時間で6回絶頂に達しました。
こんな短時間でこんなにイかされたのは初めてで、次の日には腹筋が筋肉痛になったほどです。

もちろん、エクスタシーの回数が多いことが偉いわけではありませんが、へとへとになるほど気持ちよくしてもらえた、という悦びは計りしれないものがありました。

絶頂に達する瞬間、毎回元恋人の顔が脳裏に浮かんでしまうのには閉口しましたが…

考えてみれば、私は元来、男性とのセックスにおいてはつい「してあげなきゃ」という強迫観念にかられてしまう人間でした。

勃起させてあげなきゃ、挿入させてあげなきゃ、射精させてあげなきゃ…

元恋人に対しても、「射精させてあげなきゃ、嫌われちゃう」みたいな意識があり、ある意味で自分のセックスや自分の身体、ひいては自分が愛されているかどうかに自信がなかったのだと思います。

そういう気持ちを拗らせるあまり、逆に、彼が射精しない時にはそのことを責めてしまっていた。

特に、元恋人がもう1人の彼女とお付き合いを始めてからは、「メタモアがそういうプレイをするなら、私だってしなきゃ」という気持ちで、本当に自分がしたいわけでもないプレイを変に頑張ってしまい、しかもそれを彼が悦んでくれないことがつらくて、「私より、若いメタモアとのセックスの方がいいの?」と苛立ちを露わにしてしまっていました。

彼らのセックスにすごく気持ちが引きずられて、本当に自分と彼とが心地よくなれるセックスを見失っていたように思います。

いま思えば、「彼とセックスしたい、でも満足してもらえなかったら嫉妬するからしたくない」という気持ちに引き裂かれていたのです。

自分が心からセックスが好きで、セックスで好きな人を喜ばせたいと思っているからこそ、彼とメタモアとのセックスに心が乱され、嫉妬に駆られて拗らせたセックスになってしまっていました。
 

だからこそ、初めて女性用風俗を利用して、私は不思議な解放感を感じました。
風俗には一般的に「本番禁止」というルールがあります。

「本番」とは挿入行為のこと。
私から言わせれば、挿入もさせなくていいし、射精もさせなくていい。

だってそれが風俗のルールだから。
フェラチオや手コキだって、「してあげなきゃ」という無用の焦燥に駆られなくていい。

自分のセックスを、誰かと比べる必要もない。
それがとても楽で、心地いい、と感じたのです。

自分が、元恋人とのセックスの何がつらかったのか、何を拗らせ、何を見失っていたのか、他の人とのセックスを通して改めて気付くことができました。

そのことで、自分で自分に嵌めていた「セックスはこうじゃなきゃ」という箍が、また一つ緩んだような気がします。

風俗なんて恥ずかしい、とか、汚らわしい、という感覚をもっている女性も多いかとは思うのですが、ぜひ自分のセックス観を振りかえる機会として、あるいは頑張っている自分へのご褒美やリフレッシュとして、女性用風俗を楽しく利用してみてほしいな、と思えた体験でした。