今回は、「ワンダー・ウーマンとマーストン教授の秘密」という映画についてお伝えしたいと思います。

「ワンダー・ウーマンとマーストン教授の秘密」は、心理学者 ウィリアム・モールトン・マーストン教授と、妻のエリザベス、そして夫婦の助手 オリーブ・バーンの3人が送っていた共同生活を映画化した、実話に基づいた物語です。

劇中に”ポリアモリー”という単語こそ出てこないものの、ポリアモリーが重要なテーマのひとつになっている作品だと思います。

ウィリアムは嘘発見器の発明者であると同時に、今日では企業の人事やチームワークの参考にされている「DiSC理論」の提唱者でもあり、フェミニズムにも関心をもっていました。

共同生活の中でエリザベスとオリーブに触発された彼は、1941年「ワンダー ウーマン」というアメコミのヒロインを生み出します。

嘘発見器のデザインは、ワンダー ウーマンが使う道具「真実の投げ縄」に似ています。

投げ縄に絡めとられた者たちは、嘘がつけなくなり、何でも白状してしまうのです。

エリザベスが嘘発見器でウィリアムに”核心に触れる質問”をするシーンから、物語は大きく動き出します。

嘘発見器を着けた夫に対して、「妻を愛してる?」という質問に続けて、「オリーブを愛してる?」と尋ねるエリザベス。

ウィリアムの本心を確かめた後で、彼女はさらに問いかけます。

「オリーブのどこに惹かれるの?」

「美しい。無邪気で優しく純真だ。君は頭脳明晰で気性が激しくユーモアがある。おまけに一流の悪女だ。2人を足せば完璧になる」
 

ウィリアムの気持ち、私にはとてもよく分かります。

ポリアモリーにもいろいろな人がいて、恋人たちが全員似たタイプ、という人もいますが、エリザベスとオリーブは火と水のように真逆。

エリザベスとオリーブは、片方が片方の”予備”というわけではなく、2人がまったく違うからこそ、ウィリアムは両方に惹かれたのだと思います。

やがて、3人はお互いに愛し合うようになり、オリーブが妊娠したのを期に共同生活を始めます。

ウィリアムのエリザベスに対する「君の子でもある」という言葉、オリーブの「家族で育てたい」という言葉が印象的です。

そして、エリザベスの「子供が変な目で見られないようにうまい説明を考えなきゃ。ウソをつくの。この先ずっと」という言葉も。

エリザベスはいちばん破天荒に見えるにも関わらず、実は劇中、ずっと”世間体”を気にし続けているのです。

3人での交際を始める時も、3人で暮らして子供を育てる時も、ボンデージや緊縛の世界に踏み込む時も、ワンダー ウーマンのアイディアが生まれた時も、「世間が許さない」「うまくいくはずない」とブレーキをかけるのはいつもエリザベスで、「それでもやってみたい」とアクセルを踏むのはいつもオリーブです。

そして最後にはエリザベスも、オリーブに導かれて新しい世界へと踏み出してゆく。

オリーブは一見、優しく純真な”服従タイプ”でありながら、実際のところは3人の関係を力強く後押しする存在なのです。
 

しかしそんな関係も、彼らの子供が親のことを理由にイジメを受けたことで崩壊します。

「子供たちに悪い影響が出るわ」「普通の生活じゃないわ」と近所の人々から非難され蔑まれ、エリザベスは「もう無理よ。私たちは嫌われても殴られても文句は言えないわ」と、オリーブに家を出ていくよう促します。

ところがある日ウィリアムが病に倒れ、もう長くないことが分かります。

彼は死ぬ前に、エリザベスとオリーブを再会させ、謝罪し仲直りさせようとします。

「君たちは幸せを諦めてる。僕が死んだら君は独りだ。苦しみと怒りと彼女への愛を抱えたまま、世間のために犠牲にした」

私も、もし自分の命が尽きてゆくことを知ったら、きっと最期の時はパートナー達と過ごしたいと願うでしょう。

もしも、パートナー達が疎遠だったり仲違いしていれば、どうにか再会してほしい、仲直りして自分の死後も仲良く幸せに過ごしてほしいと思うかもしれません。

私はパートナー達に、「私が死んだら、私の思い出話を肴に酒でも飲んでほしい。できれば、困った時にはお互い助け合ったりして生きていってほしい」とよく言っています。

パートナー達に、私が死んだあとに孤独になってほしくないのです。

この作品には、エリザベスがオリーブを拒絶したのちに、ウィリアムに促されてオリーブに許しを乞うシーンが3度出てきます。

この最後の謝罪のシーンで、オリーブは「生涯、私のことを愛して」と2人を受け入れます。
 

この3人の関係は、「ウィリアムがエリザベス・オリーブの2人と交際している」のではなく、あくまでもオリーブの存在が核となっているのだと思います。

ウィリアムとエリザベスはもともと夫婦ではあったけれど、そこにオリーブが現れたことでウィリアムとエリザベスの関係性も変化し、オリーブなしでは営めない関係になった。

だからこそ、オリーブに戻ってきてほしいとここまで切願するのです。

3人で眠るとき、ウィリアムではなくオリーブを真ん中にして寝ることからも、3人の関係性の中心にはオリーブがいることが分かります。

オリーブあってのウィリアムとエリザベスなのです。

ウィリアムの死後も38年間、オリーブが亡くなるまで彼女たちは一緒に暮らしていたそうです。

エリザベスは、何度も葛藤しながら、最後には真実の気持ちに沿って生きる勇気を得て、オリーブと最期まで過ごす人生に踏み出していったのだと思います。

彼の台詞に「(ワンダー ウーマンは)真実のために戦ってる」というものがあります。

エリザベス自身の中ではまさに、世間体と真実の気持ち(オリーブへの愛)とがずっと戦っていたのでしょう。

エリザベスが最後には”世間体”でなく自分の真実の気持ちを語るのを観て、私はこの作品から「真実の気持ちを語ることの難しさと大切さ」を知ることができました。