私は以前、メタモア(恋人の恋人)とお互いに嫉妬してしまい非常に苦しい思いをしたことがありますが、私だけでなく多くの人にとって「嫉妬にどう対処するか」は永遠のテーマのようです。
「私は嫉妬深いから、ポリアモリーは無理」という意見を見聞きすることも多々あります。
そんなわけで、今回は「嫉妬」について考えていきましょう。
まず「嫉妬」という言葉を国語辞典「大辞林」で引いてみると、以下のように説明されています。
しっ と【嫉妬】
①人の愛情が他に向けられるのを憎むこと。また、その気持ち。特に、男女間の感情についていう。やきもち。悋気(りんき)。 「-心」 「夫の愛人に-する」
②すぐれた者に対して抱くねたみの気持ち。ねたみ。そねみ。 「友の才能に-をおぼえる」
恋愛関係における「嫉妬」は、主に①の意味であることが多いように思います。
②の嫉妬は、恋愛以外の人間関係においても感じることがありますよね。
また、小島雄一郎は、嫉妬を「コワい」と「ズルい」に区別しています。
不安からくる嫉妬は「コワい」という感情の嫉妬、もう1つは我慢からくる嫉妬、つまり「(あなたばかり)ズルい」という感情から生じる嫉妬だった。
(略)
まず2つの嫉妬は全く別の感情であることがわかる。コワいと感じる嫉妬(不安から生じる嫉妬)は、恋人の愛情が他の人に向いてしまうことに対して向かう感情だ。
それに対して「ズルい」方の嫉妬は、恋人が自分がなりたい立場にいることに対する感情だ。
(小島雄一郎「嫉妬を構造化したらポリアモリーになった。」)
辞典の意味に照らせば、「コワい」は①の嫉妬、「ズルい」は②の嫉妬ということができるでしょう。
さらに、「嫉妬」は英語でいうと「jealousy」や「envy」です。
jealousyは自分の持っているものを奪われることに対するネガティブな気持ち。
一方、envyは自分が持っていないものを他人が持っていることに対するネガティブな気持ちです。
つまり、jealousyが「コワい」という①の嫉妬、envyが「ズルい」という②の嫉妬に相当すると思います。
jealousyにせよenvyにせよ、「自分が何かを持っている/持っていない」という「所有」の感覚が、その前提にあるのではないでしょうか。
「所有」は人間の文化のなかで生まれた概念ですから、それと結びついた「嫉妬」も文化に基づく感情といえます。
『ポリアモリー 恋愛革命』の著者デボラ・アナポールは、次のように述べています。
私の見るところ、人間も動物である以上、縄張り本能がそなわっているにしても、恋人は自分の縄張りというか持ち物とみなして、財産のひとつとして所有し、支配する権利があるとする見方は、後天的に身につけたものであるはずだ。
(デボラ・アナポール『ポリアモリー 恋愛革命』p.77)
さて、その嫉妬に対して、私たちはどう対処すればよいのでしょうか。
嫉妬を感じている最中はとても苦しいものですが、自分の嫉妬をよく見つめて、どの種類の嫉妬なのか見極めることが重要だと思います。
むしろそれができれば、私たちは嫉妬の激流に押し流されて衝動的に他人や自分を傷つけるのではなく、自分自身のこと、そしてパートナーやメタモアのことを理解する良いきっかけを作れると思うのです。
アナポールはこのことを、嫉妬は“門番”であると表現しています。
ポリアモリーを心理や精神面の成長への道だとするなら、嫉妬はその道の門番である。このすさまじい力と対決しないかぎり、だれも前に進むことはできない。成長への道すがら嫉妬がおこるたびに、ひとつまたひとつと手痛い教訓を学んでいく
(『ポリアモリー 恋愛革命』p.76)
嫉妬がjealousyとenvyとに分類されるなら、その嫉妬への対処法、そして対処することで得られる嫉妬の効用も、2種類に分けることができると思います。
jealousyは、自分の持っているものが奪われることを「コワい」と思う、自分自身に対する内向きの感情。
これは、他人が何かしてくれるのではなく、自分の物事の捉え方を見つめなおすことで解消される嫉妬です。
無自覚だった自分の欲求やコンプレックス、過去のトラウマなどに気付き、自分自身をより良く知るきっかけになると思います。
対してenvyは、自分の持っていないものを持っている人を「ズルい」と思う、他人に対する外向きの感情。
自分の現状と理想のギャップのせいで起こる嫉妬ですから、その嫉妬を「向上心」や「ハングリー精神」として昇華させ、ギャップを埋めるために努力する(ここで他人の足をひっぱるのは、嫉妬の解消法として健全ではないと思います)ことで、自分をより高めてゆくために使えるでしょう。
私は嫉妬を感じたとき、自分が本当に望んでいることは何かを、改めて自分に問いかけるようにしています。
たとえば「そもそもなぜポリアモリーを実践したいのか?」「この関係を続けていきたいのか?」「どんな状況が自分たちにとってベストか?」といったように。
頭の中で考えるだけでなく、紙に手で書き出したり、それを声に出して読み上げたりしてみるとなお効果的です(ただし、Twitterなどに呟くのはオススメしません)。
そして、そういった問いをパートナーたちとも共有し、嫉妬に一緒に向き合うように心がけています。
苦しくてやっかいだけれど、うまく使えば、自分をより良く知りより高めていくための道しるべとなる嫉妬。
皆さんも人間関係において嫉妬を感じたら、まずはその嫉妬を深く見つめてみてくださいね。