今回は、ポリアモリーに関する本をご紹介したいと思います。

タイトルは『ポリアモリー 複数の愛を生きる』。

主にアメリカにおけるポリアモリーの現状を紹介するという内容の著作です。

著者は、一橋大学の社会人類学者・深海菊絵さん。

ポリーラウンジにも参加されたことがあり、私個人も彼女からインタビューを受け、その内容がこの本に反映されています。

また、ポリーラウンジについても取り上げていただいたことで、多くのポリアモリー当事者同士が知り合うきっかけになったと感じています。
 

私がこの本を面白いと思う理由は、「ポリアモリーに関する用語が解説されていること」「”嫉妬”について丁寧に論じられていること」「ポリアモリーを”ライフスタイル”として論じていること」の3つです。

以下、具体的にみていきましょう。

まず、ポリアモリーに関する用語について。

「メタモア」や「コンパージョン」という概念は重要なものですが、こういった聞き慣れない横文字について、本書では丁寧な解説が加えられています。

ちなみに、「メタモア」とは「自分の恋人の恋人」のこと、「コンパージョン」とは嫉妬の対義語で「愛する者が自分以外のパートナーを愛していることを感じたときに生じるハッピーな感情」のことをいいます。

何もこれが特殊な人間関係や特殊な感情だというわけではないのですが、このように名前がついていることで、理解しやすくなったり、他人に説明しやすくなったりという利点はあると思います。

次に、嫉妬について。

嫉妬はポリアモリーにおける最も大きなハードルであり、この感情にどう対応するかが多くの人にとっての関心事となっています。

この本では、嫉妬を

  1. 「独占欲からの嫉妬」
  2. 「疎外感からの嫉妬」
  3. 「ライバル意識からの嫉妬」
  4. 「エゴからの嫉妬」
  5. 「不安からの嫉妬」

の5種類に分類して丁寧に論じています。

この5つの嫉妬でいうと私自身は、恋人が私の知らない人と仲良くしていると「不安からの嫉妬」を感じることがあります。

自分がどのタイプの嫉妬を感じやすいのか知ったり、それをパートナーやメタモアにも伝えてどうすれば良いか一緒に考えたりするためにも、嫉妬の感情を深く掘り下げて理解することは大切だと考えます。
 

それから、「ポリアモリーを”ライフスタイル”として論じていること」について。

私には、この本の中の「ポリアモリーの実践に必要なのは『理性』『知性』『コミュニケーション能力』」とか、「選びとった家族(family-by-choice)」といった言葉が印象的でした。

「あなたは愛する人と『ちゃんと』交渉していますか?」という言葉にも、はっとさせられました。

(略)ルールや約束は決して固定したものではなく、状況に応じて柔軟に刷新されるべきものだという。ルールや約束を守ることは大切だが、より重要なことは、互いに向き合い交渉することなのである。
交渉において理性や感性は対立するものではなく、ともに総動員されるべきものとなる。交渉とは、自分の気持ちを一方的に押し付けることでも、なにもいわなくても自分の気持ちを汲み取ってくれ、という相手任せの態度でもない。期待や希望、葛藤や悩みを伝えながら、自身をパートナーに素直に差し出すことである。そして、パートナーの悩みや葛藤、希望や期待に応答することでもある。

(『ポリアモリー 複数の愛を生きる』p125-126より抜粋)

「安定したポリアモリー関係にはコミュニケーションが欠かせない」ということはこの連載でも繰り返し述べてきましたが、この本に出てくるポリアモリーの当事者たちは、悩んだり苦しんだりして試行錯誤しながらも、どこまでも自分の自由と責任とにおいて他人との関係性を選択し構築していこうとしているのだな、と感じました。

「ポリアモリーは性質(セクシャリティ)か?ライフスタイルか?」という議論はよく聞かれますが、この本で紹介されているポリアモリーはあくまでも自らの意志によって選び取るライフスタイルであり、「ポリアモラスな性質」のことはあまり描かれていません。

私自身は、「自分は望んでポリアモリーになったのではない、消去法でポリアモリーに生きざるを得なかっただけだ」という自認が強かったのですが、この本を読んで自らを振りかえる中で、「自分が『どう人を好きになるか』という性質は選んだものではないが、その性質に沿った生き方は自分で選び、考え、築き上げてゆけるものだ」と考えるようになりました。

『ポリアモリー 複数の愛を生きる』は、ポリアモリー当事者ではない研究者によって第三者的な視点から書かれた本ということで、ポリアモリーのことを知らない人にとっても、ポリアモリー当事者の私にとっても、さまざまな発見があり、説得力をもった良書だと思います。

周囲の人から「ポリアモリーについて知りたいのですが、オススメの本などはありませんか?」というご質問をいただいた時に、私が必ずご紹介している1冊です。