「相見積もりお断り」 | あなたをサポートし,あなたの未来を応援する部屋のつくり方

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ルームスタイリスト・マダム Norikoのお部屋レッスン&個別コンサルティング 神戸(垂水区舞子)&東京(表参道)

あの時、私は魂を売ったんだ。

 

心の奥から、そう聞こえてきました。

 

今から何年前でしょう。

震災の前のような気がしますから、20数年前かもしれません。

過ぎたことに関する記憶の詳細はことごとく飛んで行くので、ほとんどは忘却の彼方。

キッチンとリビングを含むある程度の規模のリフォームだったと思います。

 

相見積もりの案件でした。リピートと紹介、新規の場合も

特命でご依頼を頂く比率が高くありました。

 

そして、相見積もりであったとしても、一旦そのことは横に置いて

駆け引きなしに、誠心誠意のプランをすることが信条でした。

とはいえ、相手のあること、打ち合わせのやり取りの中で相性もあるし、

方針や考えにミスマッチがある時は期待値は自然に低くなっていきます。

 

そして、あの時、そうではなかったのです。

 

打ち合わせ、現場を実測して、プランを提出。打ち合わせとプランを

重ねていった後、ヒックリ返ったのでした。

対価0になる瞬間。

 

業界では、今もまだ、見積もり無料をうたっている会社がほとんどです。

それに伴うプラン、設計に関しても、工事も含めて提供される場合は無料で行われるケースが多くあります。

自社もそうでした。

その場合、打ち合わせ、現場調査、プランニング、設計などなどの

ハードを作るにあたって必要なソフトに関する対価は、契約を戴いて

初めて、対価が発生するという仕組みです。

そのことに関しては受け入れているつもりでした。

 

ショックでした。あんまりだと思いました。情けなくもありました。

もう相見積もりは嫌だと思いました。

 

私は自分の気持ちがわからなかったんだ、、、ということに

心理的プロセスを通して気づいたのはごく最近です。

自分の気持ちを心の奥底に沈めるのは得意だったのです。

その気持ちも押し込めたのでした。

 

その後、大規模なリフォーム、リノヴェーションに関しては設計契約を

交わす仕組みも作りました。

 

時折やってくる相見積もりの案件には、心の奥底の気持ちを感じないところで

対応してきました。すでに魂を売った後、金輪際、ごめんだわ! と感じた

にも関わらず、私はその気持ちを尊重しませんでした。

ビジネスだから当たり前? はたして、そうでしょうか?

 

今となっては、わかります。気持ちを押し込めるのは、幼少期からの筋金入りです。

 

それから数年後。

そんな私に、魂の救世主のようなクライアントが現れました。

 

その間に、私はヒノキに出会いました。

日本の森の木を使うことを伝え、体感できるヒノキと自然素材でできた

スペースをオープンし、興味ある方々が参加できるイベントも開催していました。

その中で出会ったクライアント様。

初めて訪問した時、打ち合わせの終わりに、お願いしますと、依頼されました。

間取りの変更も伴う、大規模なリノベーション。プランも見積もりも未だ白紙でした。
心の奥で信頼を受け取る体験でした。この時ほど嬉しかったことはありません。

 

そんな素晴らしい体験もさせていただきましたが
一度売ってしまった私の魂はそのままでした。

 

相変わらず、打ち合わせ、プラン、設計は無料。

私の仕事はソフトの提供。であるのに、工事を伴う契約をしない限り対価は0。

そのことに大いなる不満を持ちながら、ずっとそれは見ないふりをして

仕事を続けてきたのです。

 

そのことが、どれだけ自分を裏切る行為だったかと、気づいた時に

心の奥底から聞こえてきたのです。

 

あの時、私は魂を売ったんだ、と。

 

今、相見積もりは、どこからともなく推奨されています。

ところが、この相見積もり、実は、業界のプロでも見積もりを比較するのは難しいのです。明らかに、問題があれば別ですが。諸条件をすべて揃えた上で、

金額の比較のみを行うならその違いはわかるかもしれませんが

今現在、新築やリフォームで行なわれている相見積もりは、そうではありません。

そもそもプランが違うことがほとんどで、最初の最初から条件が異なります。

その上、工法も違えば、見積もりの仕方、書式もそれぞれ。

 

設計事務所に設計を依頼し、プランを決定した後、見積もりを複数社とる場合は

プランに関しては同じ、が成立します。

見積もりに関して仕様を決定し行えば、ある程度の条件は揃えられます。

それでも、詳細な部分、目に見えない箇所や現場で決定されていくことに至ると、

それは事前に比較のできないゾーンに入ってきます。

 

相見積もりのプロセスを経て、自分たちにあった「人」と出会うことを意図されていれば、それは素晴らしい選択です。

そうではなくて、比較検討のための相見積もりには注意が必要です。

先ほども、お伝えしたように、実はプロでもその比較検討は難しいのです。

 

ならば、どうする?

 

相見積もりを思う時、いつも胸に浮かぶ一文があります。

浮かびながら、公言することはなかったのですが。

そこまで言い切る勇気がなかったのかもしれません。

何しろ、魂を売ってしまっていたのですから。

 

「選ぶとは、物を直かに見届ける意味である。裏から言えば、概念によらず、

直下に物の価値を見極めることである。

(中略)物を直に観る前に、誰の作か、いつ出来たか、どこで作られたか、

どうして出来るかを問うものは、ものの本質をつかむことが出来ない。

ちょうど信ずる前に、知ろうと試みるのと同じである」

 

柳宗悦氏 蒐集物語より

 

これは蒐集(しゅうしゅう)についての文章です。

物を選ぶ時においての心について触れられています。

 

すでにお気づきかもしれません。そうです、家を新築する際、リフォームする際は

その「物」さえ、まだできていない状態で選ぶことが必要なのです。

つまり、最上級の物選びなのです。

さらに、人生で初めての、となれば、究極です。

 

父が言った言葉があります

「一か八かです。私にかけてください」

と。これは、本質を突いています。

 

究極は目の前の人に、あなたの人生で初めての家づくりを、リフォームを

かけられるかどうか?

 

それでも、相見積もりは推奨されています。

それでも、相見積もりを選択するなら、覚悟が決まったら聞いてみてほしいのです。

 

「あなたに、賭けていいですか?」と

 

もしも、あの時、私が本当の自分の気持ちを尊重できたなら

こう言ったでしょう。

 

「相見積もりお断り」と。

 

ヒックリ返った、と書きましたが

それを予期できず、本質を見極められなかった私が甘かったのです。

 

魂が帰還した今、もう私が

相見積もりのプランをお受けすることはありません。