矢田部さんのタイムカプセル

あの日、いつものように昼休みが始まると、息子のタローのクラスメイトの浩二くんが興奮気味に話始めた。「おじいちゃんちで面白いビデオ山ほど見つけたんだ!」

どうやら、浩二くんのお祖父さんが入居することになった老人ホームの部屋から、大量のビデオテープが出てきたらしい。それは、お祖父さんが長年かけて集めた、昔の洋画劇場の録画だった。

「X線の目を持つ男とか、蠅男の恐怖とか、めっちゃヤバいやつばっかり!」

浩二くんは、そう言いながら、パソコンにダウンロードしたビデオのサムネイルを見せてくれた。懐かしの映画ポスターが目に飛び込んできて、クラスのみんなはわくわくした。

私たちが生まれたころには、もうこんな映画館はなくなっていたけど、浩二くんの話しを聞いているうちに、昔の映画の世界にタイムスリップしたような気分になった。

昼休みは、みんなで交代しながら、浩二くんが持ってきたビデオを鑑賞会。笑ったり、驚いたり、時にはゾッとしたりしながら、午後の授業が始まるのを忘れてしまうほど夢中になった。

矢田部さんというお祖父さんが、一体どんな気持ちでこれらのビデオを録画していたのだろう?

きっと、お気に入りの映画を何度も見返して、その度に当時のことを思い出していたのかもしれない。

私たちが今、こうして矢田部さんのビデオを見ているのも、なんだか不思議な縁を感じた。

このビデオは、矢田部さんから私たちへのタイムカプセルのようだ。

遠い昔の映画を通して、私たちは、今の自分たちとつながっていることを感じることができた。

放課後、浩二くんに「ありがとう」と伝えると、彼は照れながら「どういたしまして」と答えた。

矢田部さんのビデオは、私たちみんなにとって、忘れられない宝物になった。

(野原サクラ)