息子のタローは、ちょっと変わった子だ。お小遣いを欲しがらないし、マンガも友達から借りてくる。ゲームに夢中になるわけでもない。けれど、彼には隠れた才能があった。韓国ドラマの子役として活躍しているのだ。

そのおかげで、学校ではちょっとした有名人。バレンタインデーともなると、教室の机がチョコで埋め尽くされるほどの人気ぶりだ。しかし、タローはもらったチョコを全部食べるわけじゃない。ホワイトデーには、お返しを用意するのだ。

ある年、タローはホワイトデーのお返しに、一風変わったクッキーを贈ることにした。それは、東京都庁クッキーという、なんともユニークな名前のクッキーだった。

クッキーの材料は、なんと都内に落ちているどんぐり。それを特殊加工して食べられるようにし、クッキーに焼き込んだのだ。しかも、クッキーの製造は、なんと父親の会社の食品部門にお願いしたというから驚きだ。

クッキーは、学校中に配られた。その数、なんと4トントラックいっぱい。さらに、住所のわかるファンにも発送したため、その量は膨大なものになった。クッキーの製造費用は、工場から直送だったため安く済んだらしいが、それでもドラマ1話分の出演料くらいはかかってしまったそうだ。

タローは、ホワイトデーのお返しに、お金ではなくアイデアで勝負した。彼のユニークな発想と行動力には、感心するばかりだ。


野原サクラ