父は、またしてもやらかしてしまったらしい。

いつものように、早朝から釣りに出かけた父。しかし、帰って来たのは昼過ぎ。それも、興奮冷めやらぬ様子で、信じられない話を始めたのだ。

「中国の最新鋭戦闘機が、日本の領空を侵犯して、東京のすぐ近くの海岸に不時着したんだ!」

最初は冗談かと思った。しかし、父の目は真剣そのもの。どうやら、釣りの最中に、砂浜に乗り上げている戦闘機を発見したらしい。しかも、搭乗者は2人とも女性だったという。

父はすぐに警察に通報し、2人は無事に救助されたそうだ。怪我はしていたものの、命に別状はなかったと聞いて、胸を撫で下ろした。

しかし、これで一件落着とはいかないのが、我が家の父である。なんと、救助された後も、日がな一日、戦闘機をつぶさに観察し、スケッチを描き続けたというのだ。

「だって、こんな貴重な機会、滅多にないだろ?」

そう言って、父は得意げにスケッチブックを見せてくれた。そこには、細部まで丁寧に描かれた戦闘機の姿が。まるで、プラモデルの設計図のようだった。

案の定、その日の夜から、父は模型作りに没頭し始めた。一体、何機の戦闘機を作れば気が済むのか…。呆れながらも、父の少年のような笑顔を見ると、つい許してしまう自分がいる。

「本当に、この手のものが大好きなんだから…」

そう呟きながら、私は満開の桜を見上げた。散りゆく桜吹雪の中で、父の姿が重なる。いつまでも少年の心を忘れない父。そんな父を、私は誇りに思う。


野原サクラ