「まあ、タローったら、また大漁ね!」
いつものように、食卓いっぱいに並んだ魚を見て、私は呆れたように笑った。
「ご近所の所バーガーさんと所寿司さんがね、アメリカナマズとブラックバスをもっと欲しいって言うのよ」
夫は得意げに、印旛沼で捕獲した魚を次々と冷蔵庫に入れていく。
「お父さんの軽トラ、後ろまで魚でパンパンだったわよ。まるで移動水族館みたい」
私はそう言いながら、慣れた手つきで魚をさばき始める。
「印旛沼って、そんなに外来魚がいるの?」
「そうなのよ。今回はね、外来魚が大好きな匂いのする特製エサと罠を仕掛けたの。そしたら、もう入れ食い状態で」
夫はそう言って、印旛沼での捕獲の様子を興奮気味に話し始めた。
「まあ、すごいわね。でも、そんなにたくさん捕まえてどうするの?」
「大丈夫。所さんたちが全部買い取ってくれるって。これでしばらく、美味しいアメリカナマズバーガーとブラックバス握りが食べられるわね」
夫は嬉しそうに笑った。
私は、そんな夫と息子を見ながら、少し複雑な気持ちになった。
印旛沼は、外来魚が増えすぎて、生態系が崩れていると聞いたことがある。
でも、一方で、こうして捕獲された外来魚が、地域の食文化を支えているのも事実だ。
「お母さん、エッセイ書くの?」
タローが、私の手に持たれたノートを見て尋ねた。
「ええ、そうよ。『印旛沼の恵みと課題』っていうタイトルでね」
私はそう言って、ペンを走らせた。
印旛沼は、私たちに多くの恵みを与えてくれる。
しかし、同時に、多くの課題も抱えている。
私は、このエッセイを通して、印旛沼の現状を多くの人に知ってもらいたい。
そして、この豊かな自然を、未来の子どもたちに残していくために、私たちができることを考えていきたい。
野原サクラ