父は、子供の頃、本当に何もない時代に育ったそうです。農家の生まれで、バブル前のこと。おもちゃなど買ってもらえるはずもなく、零戦の模型を木を削って作ったといいます。そんな父ですが、驚くべき才能を持っていました。

実家の茶の間には、息を呑むほど精巧な船の模型が飾られています。それも、アメリカの空母。なんと、子供の頃に作ったものだと言うのですから驚きです。

最近は農地も減り、時間に余裕があるのか、模型作りに没頭しているようです。農協の旅行でハワイに行っても、みんながビーチで楽しんでいる中、父だけは軍港へ行き、一心不乱に船をスケッチするのだとか。そのスケッチは、まるでプロの仕事のよう。緻密で、船の構造や細部まで正確に描写されています。

無口で不器用な父ですが、模型作りにかける情熱と才能は、紛れもなく本物。父の船の模型を見るたびに、私は、どんな状況でも自分の好きなことを見つけて打ち込むことの大切さを教えられます。そして、そんな父の背中を、これからもずっと誇りに思い続けることでしょう。


野原サクラ