汗にまみれた父の背中が、夕日に照らされて赤く染まる。鍬を振るう音、土の匂い。ここは、祖父から受け継いだ農園。父の青春は、この土とともにあった。

バブル景気。浮かれた世の中とは裏腹に、農閑期の父は都内の道路工事で汗を流していた。まだ二十歳にも満たない若者が、慣れない肉体労働で稼いだお金は、全て祖父に渡していたという。

そんな父が、先日納屋を片付けていると、古いお菓子の缶を見つけた。中には、聖徳太子の肖像が印刷されたお札がぎっしりと詰まっていた。祖父は、父が苦労して稼いだお金を、一円たりとも使わずに貯めていたのだ。

缶を見せられた祖父は、「お前が持ってなさい」と一言。父の驚いた顔が忘れられない。

父は、そのお金を有効活用することを決めた。夏はビニールハウスを冷やし、冬は温める地下水設備。それは、祖父の愛と、父の未来への投資だった。

初めてビニールハウスに足を踏み入れた時、私は息を呑んだ。青々と育つ野菜たち。それは、祖父の深い愛情と、父のたゆまぬ努力の結晶だった。

「これは、お前のじいちゃんの汗と涙だ。大切に育てろよ」

父の言葉が、私の心に深く刻まれた。私は、この農園を、そして家族の絆を、これからもずっと守り続けていきたい。


野原サクラ