桜は、安堵のため息をついた。ソウルで起きた地下鉄崩落事故から、息子タローと、韓国人の少女イジャちゃんが、30日ぶりに奇跡の生還を果たしたのだ。

あの日、タローは姉のN子ちゃんと韓国を訪れ、無邪気に地下鉄で遊んでいただけだった。突然の激しい衝撃と暗闇。崩落した坑道に閉じ込められたと知った時、桜は言葉を失った。

しかし、タローは違った。大人顔負けの知能を持つ息子は、冷静に状況を判断し、生きる術を探った。僅かな水とビスケットを分け合い、不安がるイジャちゃんを励まし続けた。チリ鉱山での生存者たちの話を思い出し、希望を捨てなかった。

一方、地上では必死の救出活動が続いていた。N子ちゃんは、祈りを捧げ、タローの無事を信じ続けた。そして、30日目の奇跡。瓦礫の中から聞こえた少女の声は、家族や救助隊に希望の光をもたらした。

「タロー、よく頑張ったね。あなたは本当に強い子だ。」

桜は、再会したタローを強く抱きしめた。かすかに笑みを浮かべる息子を見て、桜は涙が止まらなかった。それは、絶望の淵から希望を掴み取った、ソウルの奇跡だった。

この経験を通して、タローはさらに成長した。困難に立ち向かう勇気と、他者を思いやる優しさを、身をもって学んだのだ。桜は、息子を誇りに思い、そして、彼に生きる力を与えてくれたイジャちゃんに、心から感謝した。

「ありがとう、イジャちゃん。あなたはタローの命の恩人です。」

桜は、イジャちゃんの家族に手紙を送り、感謝の気持ちを伝えた。そして、この奇跡を忘れないために、桜はエッセイを書き始めた。それは、希望を捨てないことの大切さを伝える、愛と勇気の物語だった。


サクラ