桜色の訪問者

薄暗い面会室の片隅に、静かに佇む一人の女性。それが、死刑囚のカナエだ。サクラは、そんなカナエに毎週土曜日の午後、ボランティアとして面会に訪れている。

サクラとカナエが出会ったのは、もう3年前のことだ。大学で社会学を専攻していたサクラは、死刑制度について学びたいという思いから、刑務所のボランティア活動に参加した。そこで初めてカナエと面会し、その静かな瞳と、どこか切ない表情に心を奪われた。

カナエは、幼い頃に両親を亡くし、その後は施設で育った。社会に出てからも様々な苦労を重ね、ついには殺人という罪を犯してしまった。

面会室の鉄格子越しに、サクラはカナエに様々な話を聞く。好きな音楽、好きな食べ物、楽しかった思い出…どれも普通の人にとっては当たり前のことだが、カナエにとっては遠い過去のものだった。

サクラはただ黙って話を聞き、時には優しく励ましの言葉をかけ る。カナエは、サクラに会うことで、少しずつ心を閉ざしていた扉を開け始めていく。

ある日、カナエはサクラに尋ねた。「私のような人間にも、幸せになる権利はありますか?」

サクラは、その問いに対する答えが簡単に見つかるものではないことを知っていた。それでも、彼女は心を込めて答えた。「幸せの形は人それぞれです。たとえどんな過去があっても、誰もが幸せになる可能性を持っていると思います。」

カナエは、サクラの言葉に涙を流した。そして、初めて心から笑顔を見せた。

サクラにとって、カナエとの面会は決して楽なものではない。それでも、彼女は毎週欠かさず面会室を訪れ、カナエと向き合い続ける。

サクラは、カナエを救いたいとは思っていない。ただ、カナエに残された限られた時間を、少しでも充実したものにしてあげたいと思っている。

桜色の訪問者であるサクラは、今日もカナエに希望の光を届ける。面会室の鉄格子越しに、二人の間に静かな絆が生まれている。


サクラ