新卒くんと息子のタロー

うちの旦那は、大手企業でエンジニアをしている。今年4月、旦那の部署に、有名大学の工学部を卒業したばかりの真新しい新卒くん、Sくんが入社してきた。

Sくんは、頭の良さそうな顔立ちで、入社早々から自信満々の態度だった。旦那は、新卒だから仕方ないよね、と気長に教えてあげようと、色々と仕事を任せていた。

ところが、Sくんは期待に反して、なかなか仕事を覚えられない。簡単な指示も何度も聞き返したり、ミスをしたりで、旦那は困り果てていた。

「Sくん、大丈夫かな? ちょっと飲み込みが遅い気がするんだけど・・・」

旦那が心配そうに言うと、Sくんは

「いや、だって…こんなの大学で習ったことないし…」

と、不服そうな顔で答えた。

旦那は、Sくんのプライドを傷つけないように、

「そうなんだ… まだ入社して間もないからね。ゆっくり覚えればいいよ。」

と、優しくフォローする。しかし、内心は呆れてしまっていた。

そんなある日、旦那はこっそりと、息子のタローをSくんのLINE友達にした。

タローは、小学生ながら、旦那2人で、独学でプログラミングを学んでいた。今では、ちょっとしたアプリ開発ができるほどの実力を持っている。

旦那は、タローの方がよっぽどSくんよりも使えるんじゃないか、と密かに期待していた。

案の定、タローはSくんが苦手とする仕事をあっという間にこなしてみせた。Sくんは、タローの仕事ぶりを見て、目を丸くしていた。

「すごい…タローさん、どうやってこんなことできるんですか?」

Sくんが尋ねると、タローは

「まあ、色々やっててね。」

と、得意げに答えた。

それからというもの、Sくんはタローを師匠のように慕い、積極的に質問するようになった。タローも、最初は面倒くさそうに答えていたが、Sくんの熱意に押されて、いつの間にか丁寧に教えるようになっていた。

そんな様子を見て、旦那は思わず微笑んだ。

新卒だからといって、必ずしも優秀とは限らない。肩書きや学歴よりも、その人のやる気と能力の方が大切なのだと、改めて実感した。

Sくんは、タローのおかげで少しずつ仕事を覚え始め、今では戦力になりつつある。旦那は、Sくんが成長していく姿を見て、嬉しく思っている。

そして、タローもまた、Sくんに教えることで、自分の知識を整理することができ、さらにスキルアップできたと満足しているようだ。

こうして、新卒くんと息子のタローの、奇妙な師弟関係が生まれたのであった。