ビルから旅館へもどる道は、すぐに分かった。夜には何とも得体の知れぬ細い道、という印象があったが、朝日が昇ってしまえば、あくまでも爽やかな田舎の島の風景である。昨夜の散歩のとき、私がおそるおそるのぞいた廃墟スナックにも、今は朝日が照らされ、朽ち果てた古い扉が露呈されている。
旅館にもどると、お女将が私をむかえ、
「おかえりなさい。朝ごはんは八時に出来ますのでね、八時になったら階下に来てくださいねー」
と言った。私は、昨夜女と遊んできたことによる倦怠感がなるべく匂わぬよう、出来るだけ爽やかに、それに返答した。
部屋にもどって、八時に間に合うよう急いで入浴をする。まだ体に残っているエリーの体の匂いや部屋の匂いを洗い落としてしまうのは少し勿体ない気がしたが、夜中に彼女につけられた大きなキスマークが胸元にひとつ残っているので、それで良しとしよう…。
風呂から出て金庫からスマホを出すと、さっきエリーがかけた着信が一件と、再びもう一件、エリーからのものがあり、
「もしもし?旅館帰ったー?」
と留守電が入っている。
ひと晩じゅう一緒に居ると気にならなくなるが、こうして音声だけ聴くと、やはりイントネーションがおかしいところがある。そのことは私を、優しい気持ちにさせた。