昨日退院された一人の患者さんは、
いつも笑顔で、
周囲に気を遣って生きている感じの人だった。

若干辛気臭い顔はしてるんだけど、
笑顔だから、
うだつの上がらないお地蔵さんのみたいな雰囲気の人だったんだよ。


吃音がある人で、
それ故に人と接するのが下手くそになったみたいだから、
あまり同室の人と進んで話をしようとしないところがあった。

でも、
こちらが声をかけると、
無視するようなことはしないし、
それどころか、
夢中になって話すところもあったから、
吃音と言うコンプレックスが邪魔をしているだけで、
根は明るく楽しい人だろうと思う。

何度も書いているが、
僕の入院している病棟は、
基本的に循環器系のトラブルを抱えている患者さんばかりで、
盲腸病みとか、
骨折をした人などは一人もいない。

とはいえ、
総合病院だから、
ベッドが空いていない時に、
暫定的に脳梗塞の認知老人や、
強度の糖尿病患者さんなどが、
専門病棟のベッドの空きを待って身を寄せることがある。

その気遣いの患者さんは、
強度の糖尿病で、
もう何度も入退院を繰り返しているみたいで、
今回は2泊ほどの検査入院だったらしく、
僕ら心臓病みの患者と、
一緒に過ごすことになったみたい。

だから、
僕らの部屋の患者さんは、
みんな入院中は食事制限をされているんだよ。

骨折した人みたいに、
見舞いのフルーツ盛り合わせを食べたり出来ないわけよ。

僕だって、
現時点では一切の間食を禁じられているし、
飲み物は、
水とお茶だけに制限されている。

部屋の中の患者さんはみんな同じだから、
まあ、
苦しいとも思わないし、
惨めな思いをすることもない。

ところが、
件の気遣いさんが、
昨日退院したんだけど、
退院した後のゴミ箱を偶然見てさ、
僕ら同室の患者さんは、
みんな一様に驚きを隠せなかったんだよ。

あ、
たまたま誰かが見て、

「おいおい、ちょっとちょっと!」

になったわけで、
僕らが人のゴミ箱漁りをして、
喜んでいるわけじゃないからね。

なんと、
ゴミ箱からは、
夥しいスナックの空袋と、
想像を絶する、
甘い飲み物の空ボトルの数々。


さっきも書いたけど、
強度の糖尿病で検査入院していたんだからね、
その人は。

「そうやろうな〜。夜になると、隣からボリボリ言う音が聞こえてくるんよね。絶対に煎餅を食ってると思ってた。聞こえてくるのは、煎餅かじる音と屁の音だけなんやけん!」

隣のベッドの、
例の近江俊郎先生風のジジイが、
ゲラッゲラ笑いながらそう言った。

すごいよね、
強度の糖尿病なのに、
スナック菓子食べ放題、
甘い飲み物飲み放題の、
人生ジャンク野郎!

病院に入院しても、
その日常のジャンクっぷりを改めようとしないそのパンキッシュな精神に、
僕は真の不良性を見たような気がする。

街のチンピラや、
学校の不良なんか、
気遣い糖尿さんに比べれば、
全然弱いよな〜。


BGMは、ザ・ローリング・ストーンズで『ブラウン・シュガー』をどうぞ。