「50万で手を打たねえか?」

 

そもそもこの言葉から、

僕らの怒りが頂点に達したんだよ。

 

あ、

唐突すぎたね。

 

今回は例の盗作騒動の話ね。

 

僕らの原稿を管理しているT編集長が、

僕らの過去の作品が無断で盗用されている雑誌を発見した。

 

一字一句、

句点読点さえもそのまんま盗用しているってだけでも驚きなのに、

その僕らの原稿にT編集長がつけた、

中見出しやアオリのリードまでそのまんま盗用していた雑誌を見つけて、

 

「こいつら頑張ってるな〜」

 

なんて盗まれた側が感心するわけないじゃん。

 

早速T編集長が盗用した版元に苦情の電話を入れたわけ。

 

そうしたらさ、

向こうの責任者が電話に出て、

T編集長に言ったのが冒頭の台詞なのね。

 

いや、

まずは順番から行くと、

 

「盗作しちゃって申し訳ありません」

 

じゃん。

 

ところが、

謝罪を一切省いちゃって、

いきなり金の話って、

それじゃT編集長がまるで金目当てみたいで、

さらに相手を貶めるやり方だよね。

 

さらにT編集長の後ろには、

盗作された数人のマヌケな文章書きがいるわけだから、

その文章書きたちも踏みにじるような態度だよね。

 

盗作された側が貶められるって、

匿名でネットの外国の役者が死んだってなニュース記事に、

 

「全然知りませんが、ご冥福をお祈りします」

 

なんて書き込む、

ノンデリカシー野郎共と同じレベルだよな。

 

まあそうなると、

T編集長も穏やかじゃないわな。

 

「そっちの非をまずは詫びるべきだろう? フザケンナ!」

 

って感じになっちゃうよね。

 

そうしたら、

盗作した版元の責任者が、

 

「なら弁護士同士で話し合わせりゃいいだろう?」

 

って、

図々しくも、

出るとこ出て話そうって提案したんだよ。

 

 

おそらく、

盗作した版元は、

そうやって強気に出れば、

T編集長がトーンダウンするとでも思ってたんだろう。

 

だけど、

こちらのプライドを踏みにじられちゃったわけだから、

T編集長も引けないわな。

 

「わかったよ、なら弁護士同士で話し合ってもらおう」

 

ってことになっちゃって、

なんだか、

本人たちの真剣さとは裏腹に、

俯瞰しちゃうと、

かなり喜劇的なT編集長を旗頭にした僕らの戦いが始まったわけだよ。

 

こちらは、

盗作されたわけだから、

盗作を認めて謝罪をしてほしいっていうのがまずあったんだよ。

 

T編集長についた弁護士の意見としては、

 

「これは十分刑事事件として立件できる案件ですよ」

 

らしくて、

まあ負ける気はしなかったんだよね。

 

そこを民事でなんとかしようとしてんだから、

随分僕らって人情に厚いと思わない?

 

ただし、

盗作作品1点ずつ争っちゃうと、

僕のような貧乏な田舎住みの文章書きが、

しょうもない訴訟で東京の裁判所に出向くようなことになるかもしれないから、

一旦僕らの著作権をT編集長に譲渡して、

僕らの代表としてT編集長と、

盗作した版元と話を詰めるってことにしたんだよ。

 

とにかく、

僕の作品も含めて、

59作品盗用されていたわけだから、

最早雑誌というより、

泥棒の戦利品自慢みたいなもんだよね。

 

でもさ、

10年以上前の作品だから、

当時の執筆者の中には、

亡くなられた方や、

行方不明(文章書きの末路としては最高!)になられた方も数人いらして、

どうにかこうにか、

T編集長は47作品の著作権譲渡の書類を集めて、

それを提出したんだよ。

 

ところが相手側の弁護士はさ、

 

「盗作した作品がお前らの作品と証明できるものがないから、お前らの作品とは認められない。だから盗作にも当たらない」

 

みたいな感じで、

最初は僕らが因縁をふっかけている無頼の輩みたいな感じで、

木で鼻をくくったような文章で対応しやがったんだよね。

 

これで僕らの怒りのボルテージは一気にヒートアップ!

 

だって、

盗まれた側が言いがかりをつけているような言われ方をするんだもん。

 

腹が立たない方がおかしいでしょう?

 

で、

次にT編集長が弁護士を通して例の47作品の著作権譲渡書類を提出すると、

 

「最初お前らは59作品盗作されたと言ったくせに、著作権譲渡書類は47作品分しかねえじゃねえか。そんな嘘をついている以上そちらの著作権を認められるわけがない」

 

と、

もうどっちが言いがかりをつけてんだよ!

みたいな状態で、

それでも僕らを貶めて、

僕らの感情を逆なでするわけよ。

 

そこでT編集長が新たな証拠を提出したんだよ。

 

僕の出版界の師匠にあたるT編集長は、

ヤクザみたいな人ばかりの弱小出版業界では珍しく、

ものすごくキチンとした人で、

僕ら文章書きへの発注書や、

作家連中への支払いノートなんかを、

ず〜っと保管してんだよ。

 

その辺の病院のカルテ保管室より、

しっかりと過去の書類を保管してんのね。

 

それら全てを提出したらさ、

過去に提出した書類と合わせると、

T編集長側の言い分に、

整合性があって、

盗作した側の盗作じゃないって言い分に、

全く客観性がなくなっちゃうの。

 

そこでようやく先方の弁護士も、

トーンダウンして、

T編集長側の弁護士と話し合いをしましょう、

なんて言い出したのね。

 

で、

T編集長側弁護士が、

盗作した出版社側の弁護士と話し合いをしたんだけど、

盗作側の弁護士の言い分ってのが、

 

『もう二度と他人の作品を模倣しないように依頼者に指導する』

 

ってのと、

 

『謝罪及び損害賠償に関しては、依頼者と相談する』

 

ってこと。

 

まあ、

相手は落ち度を認めたんだろうけど、

『模倣』

って言葉に僕らは釈然としないんだよね。

 

 

模倣って言葉には、

似せるって意味があるけど、

一字一句どころか、

句点や読点の場所も寸分違わない文章を掲載して、

果たしてそれを模倣っていうのかね?

 

ここにもまだ、

作品を盗作された側への配慮や、

誠意みたいなものが、

一切読み取れないんだけどね……。

 

謝罪と損害賠償は、

依頼者と相談って言うけどさ、

そもそも回答書で、

盗作版元の弁護士の先生さまがさ、

こちらをイチャモン付けの嘘つき呼ばわりして、

盗まれた側を傷つけたことへの謝罪ってものを、

後日キチンとやろうってな誠意みたいなものは感じられないし、

結局謝罪も版元任せにして、

要するに金で解決しようってなもんで、

それじゃ、

最初にT編集長が怒りを爆発させたことに、

また戻っちゃうわけで、

いったいこの長時間の争いはなんだったのって、

非常に情けない思いを味わっている。

 

目の前の札束よりも、

 

「すみませんでした」

 

と言う謝罪の言葉に救われる人間は、

山ほどいると思う。

 

だけど法律は、

人の心を癒すことよりも、

人間を踏みにじることしかできないみたいだね。

 

世の中外国かぶれしたバカ共が、

 

「謝ったら非を認めることになるから、無闇に謝らない」

 

なんてなことを抜かして、

頑なに謝らなかったりするんだけどさ、

その言い分にはさ、

非を認めたら謝罪しなきゃいけないって意味があるってわからないのかね?

 

本当に法律ってイヤだ!

 

 

BGMはジョルジ・ベンの『タジ・マハール』と、

ロッド・スチュワートで『アイム・セクシー』、

2曲続けてそうぞ。

 

 

 

 

これでも盗作になっちゃったんだよ。

 

歌詞や細かい部分は変えているのにね。