私は阪急京都線に「指定席車導入を」ではなく「特別車導入を」と言う。特別車は必ずしも指定席方式に拘らないというのもあるが、それ以上に「名鉄特急と同じ方式を」という感覚があるから同じ名前で呼んだのだ。
 
今回は関西からも関東からも距離が微妙で、鉄道ファン以外の他地方民にはあまり縁がない名古屋鉄道(名鉄)や名鉄特急について触れてみよう。
 
※2020年7月3日追記。保有両数の問題があるため、阪急における「全車特別車特急」については提案を取り下げます。余興としてご覧ください。
 
(1)運行形態
名鉄特急は座席指定で360円の「ミューチケット」が必要な「特別車」と、運賃だけで乗れる「一般車」がある。
 
メインは特別車2両と一般車4両の6両固定編成か、そこに一般車2両増結の「一部特別車特急」だが、中部国際空港アクセス特急「ミュースカイ」は4両編成で「全車特別車」、早朝深夜などの一部特急は特別車のない「全車一般車」だ。
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特筆すべきは「一般車」もほとんどが転換クロスシートであることだ。クルマのほか、JR東海との競合が激しいからだが、「特別車誘導だ」と言われずに済む。
急行などにロングシートの新車が増えていても特急の一般車用の新車は転換クロスだ。
 
因みに、特別車の一部はハイデッカー展望席付きの「パノラマスーパー」である。展望席に冷房がないことを除けば360円で乗れるのは破格の安さといえる。
 
(2)名鉄特急に感銘を受けた私
私は元々阪急神戸線、厳密にはその支線の利用者であった。神戸線では特急というと「ロングシートで飛ばす列車」という認識であり、「西宮北口で普通に接続し、新開地〜梅田を結ぶ」という認識だ。クロスシート車は全線2編成中の神戸方2両しかない。また、須磨浦公園への乗り入れもやめたので3〜40キロしか走らない。
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趣味的にはつまらないが、単純で分かりやすいのも事実だ。たまに京都線に乗ると別世界を感じ、淡路や茨木市に止まろうが6300系特急は別会社の名残を感じ、乗ったのが神戸線のようなロングシート特急でも車内の市営地下鉄直通の路線図に腰を抜かしたものだ。
 
そんな中なんのきっかけか愛知県の鉄道ファンのブログを読むようになり、名古屋鉄道(名鉄)を知った。「転換クロスシートの一般車とリクライニングシートの特別車が選べる一部特別車特急」が走っているのだ。気分によって転換クロスシートの椅子取りゲームか、リクライニングシートの快適通勤が選べる。
 
神戸本線でほぼロングシートオンリーの列車を「特急」だと思って暮らしてきた私にとってはカルチャーショックであった。(近鉄特急こそ認識していたが、JRの長距離列車に興味がなかったのが悔やまれる)
 
一部特別車特急はの特別車は通勤によく利用されるが、豊橋も岐阜も京都や神戸より小さい都市だし、名鉄沿線には観光地は犬山など沢山あるが京都に勝るものではない。それでも終日15〜30分に1本も走っているのだ。
 
(3)名鉄のやり方を阪急に入れると?
 
そこで阪急京都線に乗る機会が増えていた私は「世界遺産で150万都市の京都を抱える阪急京都線で一部特別車特急があれば受けるのでは」と何年も前から感じていた。主要駅に10両用ホームがあるし3扉転換クロスシートで8両固定の9300系を「一般車」として、前後どちらかに特別車2両を繋げれば名鉄特急の出来上がりだ!
 
私がこれを提案すると「京都線程度の距離では云々・・・」と言う人もいたが、同種のことを考える人は年々増えているようだ。ネットにも「阪急(京都線)の特急に指定席があったらなあ」という書き込みは頻繁見かけるようになってきた。そして、今年夏から2ドア転換クロスシートの京阪特急の編成中1両にプレミアムカーが導入されるのは周知の通り。「京都線程度の距離」は十分着席ニーズがあると言ってよい。
 
 
 
(4)直接比較してよいか?
 
広い濃尾平野のこと、運行距離が長いような気がして比較できないような気がする。だが利用実態としてはそこまで長距離ではないだろう。確かに名古屋駅を跨げば殆どの特急が阪急京都線よりかなり長い走行距離になってしまう。しかし、実際には名古屋駅を跨いで南北を移動する客は中部国際空港へのアクセスや金山駅の利用客以外には少ないからだ。
 
また京成・京急以外の関東私鉄、あるいは南海や近鉄では殆どが車体長は20メートル級の大型車である。しかし、阪急、阪神、京阪、大阪市営地下鉄、神戸市営地下鉄、そして名古屋鉄道はそれより一回り小さい「大きな中型車」ないし「小さめの大型車」レベルの19メートル車を使用している。名鉄の本線西部(岐阜方面)や阪急神宝線(=神戸、宝塚線系統)などは路面電車発祥だからである。そのため、名鉄は線路幅こそ違えど座席定員などの面でも参考になると感じる。
 
ただ、基本的には名古屋に向かって一方向に流れがちな名鉄に比べ、阪急は宝塚線を除き双方向への通勤の流れがある。むしろこれは阪急の方が有利なのかもしれない。
(5)まあ、比較してみる
 
全区間で一番京都線特急と距離が似ているのが名鉄名古屋駅始発が殆どの河和線特急。名古屋〜河和間は46.2キロで、知多新線の内海行きは少し距離が長いが、河和までの所要時間も47分と京都線通勤特急とさして変わらない。
この系統では残念ながら平日日中は特別車が連結されていない。しかし、阪急京都線では全体の需要そのものが大きいので閑散時でも特別車のニーズは間違いなくある。
 
名古屋〜豊橋間も、戦前は愛知電気鉄道(この区間を建設した鉄道)が新京阪鉄道(現在の阪急京都本線を建設した、京阪の子会社)や阪神急行電鉄(神戸線)と速度を争ったりした区間である。新幹線が京阪間よりも利用されているという違いがあるし、JR東海か西日本かの違いもあるが、高速運転の新快速と熾烈な競争を続けている点では京阪間と変わりない。途中、特急だと名駅からは金山、神宮前、知立、新安城、東岡崎、国府に停車する。※快速特急だと新安城と国府は通過
 
こう見てみると、金山や神宮前も十三や淡路と同じ乗換駅、知立・新安城・東岡崎は茨木市・高槻市・長岡天神とおなじ市の玄関口、国府と桂は季節により利用客数が変動する観光地(嵐山、豊川稲荷)への乗換駅なので恐ろしいほど似ている。東岡崎〜国府で恐ろしく距離が長く、高速運転を行っているという違いはあるが。
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名鉄名古屋からだと豊橋までは68.0キロで最速47分(快速特急で新安城、国府は通過)だが、東岡崎までは38.2キロで同29分、新安城までは29.7キロを特急で25分、知立までは24.9キロを20分。少し長いが豊橋以外は京都線でもイメージ可能な距離だ。神宮前だとこれより6〜7分短くなるが、豊橋方面は岐阜方面に比べ、名鉄が便利な駅が多く特別車も一般車も良く利用されている。
 
 
中部国際空港系統の特急も名鉄岐阜、あるいは犬山線の新鵜沼からなどなら所要時間も運行距離も長いが、名駅始発空港行きの「ミュースカイ」が日中毎時1本あり、全区間の所要時間はたった28分。機械式車体傾斜による時速120キロの高速運転のため速いが、営業距離は39.3キロで40キロにも満たない。昼間以降は神宮前〜空港間ノンストップで完全に空港輸送に徹している。
 
また、常滑線には一部特別車の名鉄岐阜から中部国際空港への「特急」も30分ヘッドで走る。「ミュースカイ」がノンストップとなる区間でも太田川・尾張横須賀・新舞子・常滑と停車駅が多いが、名駅と空港を37分で結ぶ。
 
以上、名鉄名古屋から南東方向への特急を紹介してきたが、名鉄名古屋から北へ向けては名鉄岐阜(一宮経由)、新鵜沼や新可児(犬山経由)、佐屋(津島経由)へ一部特別車特急やミュースカイの設定がある。
 
名駅からの距離は・・・・・
・名鉄岐阜へは31.8キロ29分(阪神間に似ている)
・一宮へは18.4キロ15分(茨木市や高槻市のようなものか)
・新鵜沼へは30.1キロ33分(神戸線程度の距離)
・新可児へは43.1キロ52分(距離は短いが広見線内を走る距離が長くて遅い)
・犬山までは28.2キロ25分(所要時間が最速の頃の神戸線と同じ)
 
津島に至っては17.3キロで21分しかかからない。流石に津島へは夕ラッシュ時を除き特急は走らなくなったしニーズも無さそうだし、岐阜方面も名鉄そのものの利用が減っている。しかし、それなりに利用されている犬山線を見ると、神戸線程度の距離でも着席ニーズがある。ロングシート(名鉄では転換クロスシートも多いが)の無料列車一辺倒では掴めない需要がある。
 
(6)「名鉄脳」で阪急を考える
 
ここで京都線というより阪急全体の話になる。前記事の泉北ライナーや名鉄特急を見ていると、京都線ばかりか神戸線でも着席保証サービスが必要な気がしてきた。
 
現状の阪急神戸線も意外と速くて好きだが、三宮止まりであろうと岡本・六甲などの為にこういった列車を走らせるのも悪くないし、西神中央へ直通すればなおさら必要だろう。最大の利用が西宮北口とそこでの支線乗り換え客とはいえ、もっと阪神間輸送に注力してほしい。いや、名駅から近い国府宮や岩倉に一部特別車特急が止まるくらいだから西宮北口ですらニーズはあるかもしれない。
 
もちろん、観光地・京都を抱える京都線にはなおさら「一部特別車特急」が必要なのはいうまでもない。
 
もしも「一部特別車特急」だけで満員御礼になるなら、ラッシュ時や行楽期には定期・臨時を問わず梅田の1号線や堺筋線、神戸線発着などの「全車特別車特急」をホームライナー的に走らせる必要もある。
ロングシート車による嵐山直通臨時列車もいいが、快適性ではリクライニングシートの「特別車」に勝るものはない。ホームライナー的列車なので行楽期は現状の快速特急と同じ停車駅、大阪との通勤向けだと十三・淡路・長岡天神・桂・烏丸停車、京都との通勤向けだと十三・茨木市・高槻市・西院・烏丸停車となろうか。
 
 
50キロ弱の阪急京都線は一夜にして有料特急街道になる可能性を秘めている。もっとも一部特別車特急以外は頻発させると複々線化やATC導入で既存列車への影響を抑える必要が出てくるのだが。でも、平日7時台や夜の「快速」の運転終了後などは線路に余裕があり、淡路駅の高架化後なら間違いなく運行可能。ぜひこれも期待したい。