(0)はじめに
阪急京都本線は大阪市淀川区の十三から京都市下京区の河原町間を結ぶ45.3キロの路線だが、十三発着の全列車が宝塚本線の梅田〜十三間に乗り入れている。そのため、特急・通勤特急・快速急行(河原町発高槻市行き最終を除く)をはじめとする多くの列車が梅田〜河原町間47.7キロを結ぶ。
 
この区間は最速42分30秒で結ばれており、「有料特急運転や指定席車導入には短いのではないか?」との声を出す人がいる。
阪急京都線は有料特急や座席指定車を走らせるのには短すぎるだろうか?
 
答えは否だ。日本国内だけでも阪急京都線より短い距離、短い所要時間を走る有料特急は沢山ある。そればかりか、中には「ロングシートで高速運転だし十分だろう」という阪急でも神戸線の距離すら下回る有料特急だって沢山ある。
その中から代表的なものを触れたい(ホームエクスプレス阿南や全列車が在来線特急扱いの博多南線などは除外)。
 
(1)「フジサン特急」「富士山ビュー特急」
富士急行線内26.6キロを走る特急で、以前富士山の反対側で使われていた小田急20000系RSEやJR東海371系を使用している。
 
富士山以北の大月線23.6キロと以西の河口湖線3.0キロに分かれていて富士山駅でスイッチバックするが、合計しても阪急神戸本線の32.3キロに及ばない。しかし、勾配線であるため所要時間は京都本線の快速急行(大半は45分〜50分)と大差ない50分弱あるいはさらに長い列車もある。
 
富士山は美しく、外国人観光客も増加しているが、何と言ってもこの所要時間・営業距離でも車内販売が実施されており、「富士山ビュー特急」ではスイーツプランも用意されている。
 
スイーツプランはともかく、京都線特急でも検札を兼ねたアテンダントによる観光客に土産物やコーヒーなどの販売は考えても良い。首都圏の普通列車グリーン車のような感じになろうか。
 
 
(2)「泉北ライナー」
なんとここでいきなり関西の出番。難波〜和泉中央の全区間でも27.2キロ(最速29分)しかなく、やはり神戸本線より短い。
一般列車を削って無理矢理押し込んだスジでの運行となっているので、財布の厳しい学生らはもちろんのこと、何故か私の支持政党の支持者を名乗る人物らにも嫌われている。もっとやりようがなかったのか。
 
しかし、金色の新車導入などで乗車率は次第に上がっており、これを見ると「神戸線ですら岡本・六甲・神戸三宮への着席サービスのニーズがあるのでは?」と感じるほど。短距離区間での着席サービスの存在を位置付けさせてくれたありがたい存在だ。
{5DCB014D-4AA7-44C7-BB9D-D42DA4F41EE2}
▲金色の泉北12000系車内。
 
因みに天下茶屋にも停車し、「地下鉄堺筋線、阪急北千里、京都方面はお乗り換えです」と自動放送される。
堺筋線の終点であり阪急京都線からの直通電車もやってくるので阪急との接点もあるのだ。
 
(3)阪奈特急・京奈特急
大阪難波、京都と奈良を結ぶ近鉄特急だ。
200キロ弱を結ぶ京都〜賢島間(4月中旬までは私鉄特急最長だった)など長距離列車が目立つ中、大阪難波〜近鉄奈良間は32.8キロとやはり神戸本線より短く、京都〜近鉄奈良間でも39.0キロしかない。前者は山岳区間があるので速度が落ちるため、所要時間はどちらも35分ほど。
{594B38FC-CFB9-4CB5-AACB-F1F8CF15F553}

 
 
阪奈間は平日日中の設定がなくて京奈間も日中は空気輸送だが、休日はどちらも観光客の需要があるし、何より通勤客の需要は無視できない。奈良線では生駒や学園前、大和西大寺からの着席通勤に応えられているし、京都線ではラッシュ順方向の列車が高の原に停車してそれに応えている。
 
学園前には会社の重役も多く、阪神間と並ぶ高級住宅地だが、阪神間で一般列車に押し込まれるか渋滞の中を社用車で通勤するより贅沢な暮らしができると思う。生駒山を上り下りする列車からの景色はいいが、帰宅時の夜景ならもっと綺麗だろう。
{51D7F90F-1DC8-4026-84EF-9516E793AA5A}

 
 
阪奈特急でビール片手に帰宅する客の存在を中川家礼二の本で知った私は「いいなあ」と言ったが、一時期京都線で京阪間を通勤していた父は阪急6300系でもおつまみ片手にビールが飲めたという。十三、高槻市(1997年以前もラッシュ時は停車)を出たら次は大宮で無料の通勤ライナー的存在だったからだ。
 
現在の9300系でビールを飲めばひんしゅくを買うだろう。3扉転換クロスは有料特急の雰囲気とは全く別物で阪急京都線ではパソコンワークをするのもやっとである。
だが、関西でも特に阪奈特急は一般列車と所要時間がさほど変わらないが着席ニーズが見込めるのだ。奈良線より所要時間が10分長く、奈良よりも桁違いに大きい京都へ向かう阪急京都線特急ならなおさら利用されるだろう。生駒は長岡京と同規模の都市であり、茨木市、高槻市はそれより大きいのだし。
 
(4)「ゆけむり」「スノーモンキー」
長野電鉄長野線の全区間、長野〜湯田中間を結ぶ特急で走行距離は33.2キロ。所要時間は最速36分だが乗車記念グッズやお菓子の車内販売もある。
 
といっても阪急神戸本線より900メートルしか走行距離は長くない。そのためか100円と格安の特急料金となっており、これで成田エクスプレスや小田急ロマンスカーだった快適な車両に乗れるのは感激ものだ。
 
ただ「フジサン特急」にも言えるのだが運行時間がアトランダムだ。欲を言えば1時間ヘッドで終日運転がいいのだが。
 
(5)特急「ラピート」
関西空港へのアクセス特急だから特殊な存在では、とも言われるが外国人観光客の多さは最近の阪急京都線となんら変わりない。走行距離は42.8キロで阪急京都線より短く、天下茶屋〜泉佐野ノンストップの「ラピートα」の最速は空港連絡橋での130キロ運転の成果もあって難波〜空港間をたったの34分で結ぶ。
殆どは停車型の「ラピートβ」で堺と岸和田にも停車し、通勤利用などにも対応しているが朝ラッシュ時上りの最長所要時間は47分と京都線通勤特急と同程度だ。
{2F89F16F-9FB5-4B71-8AA8-14A10DC89A15}
 
でも、トイレや飲料自販機なども完備されているほか、1-2列配置のスーパーシートが6両中2両に設定されており短距離には勿体無いほどだ。一時期は空港利用客の減少で一般列車併結型にすることも提案されていたが、現在はかなり盛り返しており全くそのようなことはあり得ない。なにわ筋線建設でどうなるか気になるところではあるが。
 
やはり、天下茶屋に停車して京都線に連絡する。淡路以北の主要駅で販売する「関空アクセスきっぷ」と関西空港駅で販売する「京都アクセスきっぷ」は堺筋線経由で阪急京都線と関西空港を移動する切符だが、発売から数年間は300円の追加料金でラピートのレギュラーシートを利用できた(現在は特例処置はなく各自駅で購入するかチケットレスサービスで購入する必要がある)。
 
この頃は「京都線の駅で特急券を買えたらいいのに」と思っていたが、なにわ筋線と十三で連絡する路線の建設も考えられていることだし、南海の特急券発売システムを拡張して阪急の指定席券発売システムはそれを使えば設備投資は最低限に抑えられる。天下茶屋直通特急を走らせるなどし、京都から高野山などへの乗客誘致になれば南海にもメリットが大きい。
 
 
(6)特急「小江戸」
大都市の3線しかないターミナル駅を出て、次の停車駅が大きな乗換駅、終点は古都やそれらしい観光地という点が阪急京都線と似ている西武新宿線の特急だ。
ラッシュ時こそ西武新宿線は大量輸送しているが発祥は軽便鉄道のため高速運転はできない。無料優等列車の充実度や地下鉄直通の存在、そして京都は川越より大都市という点では阪急京都線の方が上である。でも、京都本線は梅田から河原町だと47.7キロ、西武新宿線はそれよりわずかに短く47.5キロと距離は似ている。この区間を特急レッドアロー「小江戸」が最速45分で結ぶ。
 
京都線でいうと特急より少し長く休日の快速急行くらいの所要時間であり、西武でも以前はレッドアローと快速急行が30分ヘッドで交互に運転されていた時期もあった(快速急行は現在池袋線のみ)(快速急行は一時廃止され、また復活はしたが頻繁運転ではない)。
 
この距離だと最近の関東私鉄なら通勤車兼用でラッシュ時のみ走らせることも多いし、「小江戸」も利用のメインはラッシュ時の通勤客ではあるが、その他の時間帯も1時間ヘッドで土日も利用されており多様なニーズに応えようとしている。さらなる需要拡大のため東村山に停車したが、拝島線ユーザーのため小平に停車するのも悪くない。
なお、同じ新宿線では別途、拝島線に直通する通勤ライナー「拝島ライナー」の運行を開始した。毎日運行だが夕方のみの運行で、停車駅は高田馬場、小平からの各駅。
 
また、2018年度からは8両の新型車両に置き換えられる。コンセントの装備に期待したい。
▲置き換えられるのは池袋線の車両でした。2020年現在、西武新宿線の特急車「ニューレッドアロー」のままで、置き換えはどうなるか決まっていません。
 
 
(6)まとめ
ここでは終日走っている約50キロ以下の有料特急を取り上げた。JRなどには他にも存在するかもしれないが、ともかく、「50キロ以下だから」「所要時間40分ほどだから」というのは着席や有料特急のニーズを否定する理由にはならない。むしろ十分な距離があるといえる。京王など全長37.9キロで所要時間38分の新宿〜京王八王子間に来年から全席指定のホームライナーを走らせるというのだから。
 
そういえば、短距離の特急を頻発している会社がある。次回はその鉄道会社に触れたい。