数年前、モリコロパーク(愛・地球博記念公園)の日本庭園で芝焼きが行われました。
風向きなどを見極め、係の人が数カ所に火をつけていきます。
火はあっという間に燃え広がり、芝の表面が焦げていきます。
徐々に煙が目に染みて風上へ移動。
予定していた場所が焼き終わり、消火されました。
これで春には新芽が生き生きと出て、奇麗な芝が見られます。
おもしろき 野をばな焼きそ 古草に
新草(にひくさ)交じり 生(お)ひば 生ふるがに
詠み人知らず(万葉集) 巻14―3452
〈意味〉
楽しい思い出が一杯詰まっているこの野原をそんなに急いで焼かないでください。それに新芽もまだ出かかったばかりで可哀想です。
若草になるまで伸びるだけ伸ばしてやりましょう。
作者は古草を見ながら昨年、若草のもとでの楽しい逢瀬を思い出し、焼いてしまうと思い出も消えてしまうような気がしたようです。
野焼きの火は、作者の若い心の熱い思いそのものです。
また、やがて芽吹いてくるその小さな命に優しい眼差しを向けていることから、作者は女性という説があります。