あるところに、1羽のアヒルがいました。



アヒルは池のほとりで仲間と毎日楽しく暮らしていました。



アヒルは空を眺めるのが好きでした。



自分には無理だと解っていても、もしかしたらあの大空で優雅に舞う事が出来るかもしれない…



そんな夢を密かに抱きながら毎日空を眺めていました。



ある日アヒルは、大空を舞う白い鳥を見つけました。



自分と同じような姿をした、白い鳥です。



飛ぶ姿の素晴らしさに、アヒルは一目でその鳥の事を好きになってしまいました。



あの鳥は私と同じ種類かもしれない…



あの鳥なら、私を空へ飛ばせてくれるかもしれない…!



近くで見た事もないその鳥にアヒルはいつしか自分と重なる部分を必死に探していました。



アヒルはその鳥のそばへ行きたくて、もがき続けました。


羽ばたく練習をしてみたり、その鳥の真似をしてみたり…


そして、ほんの少しだけ羽ばたく事に成功したのです!


2~3cmではありましたが、確かに浮いていたのです!



アヒルは嬉しくなりました。


このまま頑張れば、あの鳥の所へ行けるかもしれない!



希望に胸が膨らみます。



でも、それは…



アヒルの幻想にしか過ぎませんでした…



ある日アヒルがいつもの様に池へ行くと、あの鳥がいたのです!



アヒルは近くへ行こうとしました。



でも、すぐに近寄るのを止めてしまいました。



何故なら、あの鳥の隣りには自分の数倍も美しい鳥が寄り添っていたからです。



その上、あの鳥は自分と同じなんかではありませんでした…



自分とは全く違う、白鳥だったのです。



アヒルはただ遠くから、その白鳥達を眺めている事しか出来ませんでした。



悲しくなんかありません。



だって、自分と白鳥は、元々違う種類の鳥同士だったのですから…



本当はアヒルにも解っていたのです。



見えないフリをして、自分と同じだと思いたかっただけなのです。



だから、悲しい筈はありません。



アヒルが悲しかったのは、自分がやはり飛べないと知ってしまった事でした。



そう自分に言い聞かせ、アヒルは池からそっと離れて行きました。



大粒の涙をこぼしながら…