『君と僕との出会いのキセキ』
小説のWeb投稿が趣味の霧島祐也(きりしまゆうや)。彼はいじめっ子だった文月玲央奈(ふづきれおな)と出会い、人生が変わった。彼女の努力で祐也は生まれ変わり、新しい学園人生を歩みだす。
そんな中、季節は秋、学園祭のシーズン。彼は学園祭の実行委員となり、無事体育祭を終わらせた。
心地の良い疲れとともに熟睡した祐也は次の日の朝……
” 人生で一番の山場を迎えていることに気が付き、最高に居心地が悪く感じている最中であった ”
※ 君と僕との出会いのキセキ ~ 文化祭が始まるっ ~ ※
今僕は人生の分岐点に立っているだろう……命の危機という……
” どうしよう、どうしよう…… ”
そういう思いしか思いつかない。目が覚めるまでの……あの心地よい睡眠が名残惜しい。しかし時間は刻一刻と進んでいく。見る見るうちに学校に行く時間となってしまった。
「あー……学校行きたくない……」
いつも学校に行きたくないと思うけど。ここまで深刻に行きたくないと思ったのは初めてかもしれない。血を見るかも。憂鬱な気分で学校に向かう。
「フゥ」
一定距離歩くたびにため息が漏れていく。そんな時、僕の後ろから聞き覚えのあるひよこのさえずりが聞こえたような気がする……き、聞こえない聞こえない……
「ち、ちょっと! 何よ! 何で急に早歩きになんのよ! 」
視界の隅にカラーひよこが見えた。見ざる言わざる聞かざる……なんて無理か……
「あ、ああ……いたのか……」
苦し紛れに答える。すると予想通りにひよこはくちばしを尖らせて怒鳴る。最近おなじみの光景になったものだが、やっぱり周りの男たちの視線が痛い。そう思うと玲子はやっぱり人気あるんだなー。
「あ、あのさ、きょ、今日もよろしくねっ! 」
ん? 玲子が顔を真っ赤にしながら何か言ってたな……
「あ? ああ」
考え事をしていた僕は生返事をした。するとひよこはいつになくピンクひよこになり……「ちょっと用事あるからまたねー」というと上機嫌で校門へと走り去った。
その後、僕が教室についた頃、メールが来た。珍しいなと思ってみるとしばらく使われていなかった玲央奈のメールだった。やっぱりまだ学校では会話し辛いからこちらで連絡してきたんだろうな。
『今日は絶対に自由時間は全部私のものだから! 付いてきなさいよ! 』
……うん、玲央奈様らしいメールです。そしてかなり返答に困る。困った挙句、取りあえず言われたとおりにしておく。
『よ、よろしくお願いいたします……お手柔らかに』
さりげなくやんわりと……
『は? なんで遠慮しないといけないわけ? 命令よ! 』
……行くわけないよね……
「うーん……どうしようどうしよう」
僕はつぶやきながら教室に入る。あ、そういえばうちのクラスは何の出し物をするんだっけ……当日まで全く関知してなかったな。妙にクラスの皆が目がうつろなまま作業してたからなぁ。僕は彼らに全てを任せて僕は僕で運営委員の仕事のほうに集中してたんだよねぇ。珍しく岩田は何も言わないし……。
「お! 主役のご登場だ! 」
「ん!? 」
僕が教室に入ると明らかに胡散臭いローブをキモ……いや、着込んだ岩田が僕を指さした。するとクラスの皆が振り返る。っていうか、ナニ、ナニ!? このおどろおどろしい教室の装飾は!! これから闇のミサでもするのかい?
「さて、教祖様、そろそろご準備をよろしくお願いいたします」
” へ? 教祖様? 準備? な、ななな何をするの!? ”
驚く僕をクラスの皆は岩田の指示で取り囲み、一斉に準備を開始した。その有様を後ろで腕を組む月見里(やまなし)先生が……って何で先生もウンウン言いながら納得した表情してるの!!
僕は教室の隅に追いやられると、早速用意された衣装に包み込まれる。そして、女性陣がニヤニヤしながら化粧を始めた。僕が準備? を始めて三十分ほど、完成したらしく岩田が満足そうな表情を浮かべた。
「よし、うまくできたな。祐也……いや、教祖様! 」
ん? きょ……きょうそさまぁ? すごいカルト臭がするんだけど……
戸惑う僕を全身鏡の前に出す。
「…………や、やべぇ…………」
その一言しか僕は出せなかった。正直やばい……
「フム、立派な姿だ! 俺は今、感動している! 」
嬉し涙を浮かべて岩田は拍手喝さいをしている。いや、僕は悲し涙がでそうなぐらいだよ……
そうそう、今の僕の姿だけど……顔は化粧でかなりビジュアル系になっている。多分僕に化粧をした人がメイクアップがうまいんだろうね。それだけならいいんだけど、服装がねぇ……今黒いローブを羽織っている。中身は着物みたいなんだけど、見るからに怪しい紫色で、薄暗い部屋だととても不気味に映える。胸元には金メッキの首飾りに悪趣味がさらに強化されている。微妙に膝までの垂れた直垂(ひたたれ)が気になる……ズボンはまぁ、予算の都合上普通だった。まぁ一番ひどいのがサークレットなんだけどね。どこから手に入れたのか孫悟空のやつの継ぎ目に手作り感満載のレリーフがあった。
「あ、そうそうサークレットの飾りな、これがうちのシンボルだよ」
「……シンボル? 」
僕がおうむ返しに答えると岩田は満足そうに頷いた。ごめん、どう見ても西遊記の悟空サークレットを無理やりキリンマークの王冠を当てたようにしか見えない……「この部分は俺の提供だ! 」満足そうに答えた月見里先生がとても痛々しい……
” こうして僕の一日教祖様体験が始まった ”
なんか薄気味悪い椅子に腰かけてじっとしているらしいんだが……エコノミークラス症候群になってしまわないだろうか……そう思っていると興味津々で入ってきた二人の生徒が……僕に気が付くとクスクスと笑ってこちらを指さしている。とても恥ずかしい。彼女たちは薄暗い部屋からカフェ用の部屋に入る。すると「わぁ~」と声を上げていた。そういえば僕はあっちの方には行ってなかったな、すごい気になる。
「え~! 本当に変わったんだ! すごいね」
「そうね。初めは全く存在感なかったけど……ア、アレアレ! アレが例のやつよ」
「「 アハハハハ!! 」」
何かすごい侮辱されてるような気がしてならない……
彼女たちがクスクス笑いながら僕の座っている目の前を通り過ぎる。明らかに僕は見世物の気がする。しばらく座っていたけど耐えきれそうもない。その時……
「ゆ……祐……也? 」
ひよこのさえずりが聞こえた気がする。気が付かないフリできないよな。振り返ると薄暗い中で更に青白い不気味なひよこがいた……うん、ドン引きしてる。取りあえず無言でひよこを見つめる。すると、ひよこは驚きと焦燥を示し、後ずさった。うん、拒否反応を示してるね。
「ご、ごめん……今日は大事な用事あったんだ……」
そういうとカチコチになりながらひよこは何故か出口から反対のほうに向かってしまった。まともな状況判断すらできないんだろうか。しばらくするとひよこの嬌声? が聞こえた。何だか懐かしんでいるような……更にしばらくすると幸せそうなひよこが出てきたんだが、僕を見るとまたドン引きの表情になり立ち去った。……いったい何が……
ちなみにひよこの大事な用事は……運営委員の人員誘導だった。慌てて戻ってきたひよこは、汚いものを見るように避けつつ要件を話した。
「ゲゲッ! もう時間がない……このままで行くしかないのか……」
「……気持ち悪いけど背に腹は代えられないね」
さて、教祖様の格好で誘導することになった僕はというと……これから行う劇の団員だと勘違いされた。午前の部は劇よりも僕の格好ですべて持っていかれたらしい……後でクレームがあったらしいがそんなことはどうでもいい……新たな黒歴史が紡がれた……。
さて、午前の誘導が終わった後、僕はその恰好のまま屋上で飯を食べていた。フム、この格好だとひよこは来ないらしい。気楽でいいけど……この格好が全てを台無しにしている。
その後、僕はまた教室に連れ戻され、教祖様の席に据え戻された。教室には” 教祖様喫茶 サ○ババ ” とある。
……何となくわかった。後日分かったのだが、喫茶スペースにはお茶やケーキを提供しているのだが、インテリアが宗教っぽいものでまとめられ、さすがに僕のいたところと違って薄暗くなかったようだけど、その分インパクトがある。そして、何よりショックだったのが、過去の自分と立派なカリヘアーになった僕の姿(サイ○バというらしい)が店内に展示されていたようだ。
「間もなく生徒会主催の演劇が始まります! ご覧になる方はしばらく二列になってご整列ください」
演劇午後の部が始まる。それに合わせて観客の整理が始まり、玲子の声が聞こえる。その声に合わせて僕は集まった観客を整理していく。玲子のほかにも声を張り上げて誘導している者たちもいる。そんな中、観客たちは何故か僕を見て演劇に参加する人と勘違いしている節があった。
「お客の誘導大変ね。これから演技なさるんでしょ? 」
「あ、いや……僕はただの誘導で……」
と否定しているのだが全く信じてもらえなかった。そして劇が始まる。僕は役目を終えたとその場を立ち去ろうとしたのだが、スポットライトを当てる人員が勘違いをし、僕を照らす。急な光に慌てると会場のお客さんが一斉に僕を見た。
「…………」
『…………』
僕とお客さん達は無言で見つめあう……というか完全に僕がさらし者じゃないか! そう思うと一気に顔面が紅潮した。その時、劇のマイクが唸りを上げた。
《コラ! そこのサ○ババ! うちの劇にケチをつけるとはいい度胸じゃないか! 》
いや、ケチつけたんじゃなくて、勝手に標的に……と思っているとどこかの時代劇のようなBGMが聞こえてきた。あ~これはあの有名な……
” 甘えん坊将軍のテーマじゃないか! ”
血湧き肉躍るったぁこういうことだねっ! ちょっと江戸っ子になった気分を味わう……ってそれどころじゃない、何これ!?
ボー然としていると男の声が聞こえた。
《 ムゥ! ここまで来られては……上様とは言え、亡き者になれば問題はないですな! 者ども出会え~出会え~!! 》
ご丁寧に黒子さんが僕の両腕を掴んで演技指導を始めた。え、ええ!? これってまさか……
驚いているとステージのライトが消え、スポットライトが照らし出される。そこには将軍様というか女王様の格好をした玲央奈が雑魚敵に囲まれた姿で登場した。
彼女は両目を閉じ立っていたが、剣の柄に手をかけ、日本刀を抜いた。それと同時に両目を開き、ポーズをとりながらマイクで声を張り上げた。
《不埒な悪行三昧! 成敗してくれる! 》
すると、お馴染みの殺陣のテーマが鳴り響いた。玲央奈と取り囲むモブ達は文字通りチャンバラを始めた。どうやって覚えたのかわからない玲央奈の華麗な剣さばきでモブ達も華麗に散っていく。かなり練習したんだろうなーと見ているとスポットライトが僕に重ねて付けられた。っていうかライト超熱い! アツイって!
《クックソ! 思ったよりやるではないか! 》
《殿! お逃げを! 》
僕の体を黒子が演技指導する。それに合わせて何故か司祭の格好をした岩田が声に合わせて演技をしている。……というかどこから湧いてきた! と逃げ出そうとする態勢になった時、左右からお庭番二人が僕の両脇に出てきた。そして、何かを言いかけようとする岩田の脳天を脇刺で貫く。「ぬうん」と声を発した岩田は白目を剥いて倒れた。……オイ、あれ本気で脳天に突き刺したぞ! 慌てる僕は逃げようとするも黒子に捕まれ逃げられないっ! イヤ! 助けてっ!
” 成敗!! ”
という声が鳴り響いた。するとお庭番が脇刺で僕を挟むように走り抜ける。それに合わせて黒子が僕の口にガムテープを張り付けた。そのガムテープは絶叫の口の形をしたもので今の僕にはいろんな意味で似合っていた。そしてお庭番の一人が通り抜けた時、黒子が信じられない動きを僕にさせた。
” め、目が回るぅ!! ”
平衡感覚が狂うような激しい回転が加えられた。そして、それに合わせてもう一人のお庭番が通り抜けるとその回転が逆転した。
” オ……オエエェェ!! ”
強烈な吐き気を催した。しかしガムテープで声も何も出ない。僕の強烈に血走った眼と絶叫のガムテープが悪代官の悲鳴のようにリアルに再現される。そう、僕は……
” お庭番に切り捨てられたとき、左右にトリプルアクセルをするという大胆なやられ方を演じていたのだった ”
ワイヤーアクションもびっくりだ。そのあまりにもリアルな動きに観客一同は沸いた。
そして、劇は終了した……
後になって聞いたのだが、本当はもっと別の劇だったらしい。でも、全てをサ○ババに取られたくないという演劇部の策略により急遽同人甘えん坊将軍に脚本が書き換えられたのだという。そもそも、この劇が玲央奈達がやってるなんて初耳だった。おかげで僕と玲央奈は観客からサインの嵐を受け、自由時間が全くなくなってしまったのだった。……もちろんサ○ババカフェも大盛況だったらしい。
僕はヘトヘトになってやっと解放された。学園祭も最後のイベントだ。校庭にキャンプファイヤーをしながらその周りをフォークダンスするというお決まりの奴。男性と女性が列に分かれ、踊りだした。
……今日は色々あった。適当に踊りながら僕はフォークダンスの相手を変えていく。ボーッとしていると脳天にチョップが叩き込まれる。超いてぇ! よく見ると赤色のカラーひよこだった。若干口を尖らせている。
「……今日自由時間一緒にいてくれるって言ったのに……」
「……え? 」
疲労困ぱいの僕は聞き返した。すると頬をリスのように膨らませたひよこは「……何でもない! 」とグズりだした。……が、ペア交代ですぐにひよこは姿を消す。横でひよこに緊張して赤くなってる男子をまるでいないものかのように……僕を恨めしそうな顔で睨んでいた。
……フォークダンスでは玲央奈に会うことはなかった。
家に帰りパソコンを開くとレオさんからチャットのお誘いが来た。
『今日は大変だったわぁー。アンタの止めを刺してからずっとお客さんからサインせがまれちゃって……結局キャンプファイヤー行けなくなっちゃった』
『ああ、そうなんだ』
玲央奈はあれからもずっとファンになった人たちに絡まれていたらしい。玲央奈はめっちゃ輝いてたもんな……黄金色に。
『結局自由時間一緒になれなかったね。ごめん』
『ううん、いいよ。何気に楽しめたから』
『そっか。よかった』
玲央奈にしては珍しく素直だ。僕はというとダブルブッキングを回避できただけでかなり助かっている。だがそんなことを言えるわけがない。知らぬが仏……
『あ、今度さ、埋め合わせっていうわけじゃないんだけど。家に来てよ。正月にお母さんに会えなかったからさ紹介したいんだ』
『え、うん』
……実はもう知ってる。なんて言えない。それは玲央奈の秘密について触れてしまうから。ちょっと躊躇われたけど、でも行くしかないよね。
そのあと僕たちは他愛のない話で時間を潰し、寝た。今日は一杯信じられないことがあったけど、普段の地味な僕とは違って、とても派手な僕でいられたような気がしてちょっと嬉しかった。
そして、今日という日は終わりを告げる。
文化祭が始まるっ END
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ただ今、剣客商売を読んでおります。鬼平犯科帳を読み終えたのですが、作者様急逝のため、作品は未完となってしまいました。
今更ですが、作者様へ感謝の言葉と哀悼の意を・・・
池波正太郎先生、とても素敵で面白い作品をありがとうございます。そして、お悔やみ申し上げます。
剣客商売は二十一巻あり、今からワクワクしています。これからも面白い作品を発掘しつつ読み続けたいと思っております。
