どうしても忘れられない恋」を忘れる方法
「エターナル・サンシャイン」という映画をご存知でしょうか。医療技術で「記憶を消してしまうこと」が可能になった、という設定のなかで、別れた後に元恋人の記憶を消してしまうカップルのお話です。どうしても忘れられない人がいたり、過去の恋愛トラウマに悩まされている人は、「こんな風に、記憶を操作できたら楽なのに……」と思ってしまうもの。脳の研究も進む現代、辛い過去の記憶を忘れるための、効果的な方法は見つかっていないものか、そのあたりを探ってみました。
(1) 記憶の「引き金」を遠ざけることが必要!?
記憶研究を30年以上続けてきた聖心女子大学の高橋雅延教授が、この「記憶を消す」というテーマについて幾つかの方法を考察しています。まずは、「記憶の『引き金』となるものを遠ざける」という方法。脳内の記憶には「引き金」の存在が不可欠で、意識的にしろ、無意識にしろ、ある「記憶」を思い出すためには、必ず「何らかの手がかり」が必要なのだそうです。人や場所、物、状況など、その記憶にまつわる全てのことが、記憶を呼び覚ます手がかり(引き金)になり得るといいます。
つまり昔の恋人や、過去の恋愛経験を忘れたい場合は、とにかく、“思い出すキッカケ”になるような人・物・情報などに触れないようにすることが重要。具体例としては、連絡先の消去、元恋人を思い出す部屋や街からは引っ越す、写真やプレゼントなど「思い出の品」はすべて捨てる、捨てられないなら実家に送るなどして自分の近くに置かない、共通の知り合いとはしばらく距離を置く、元恋人の動向を探ったり、友人に様子を聞いたりしないようにする……などでしょうか。
また、脳には「その出来事を思い出すことを『繰り返す』こと自体が、ますますその出来事を深く記憶に刻み込んでしまう」という仕組みがあり、「元恋人を忘れたい……」と常々思っていても、“記憶の引き金”を遠ざけないでいると、自ら、「いつまでも忘れられない状態」を作っていることに。ある友人は、「忘れられない元彼にもらったアクセサリーが、気に入っていて捨てられない。でもアクセサリーを見ると、やっぱりカレを少し思い出してしまう」などと語っていましたが、捨てられないなら、せめて誰かにしばらく預けるなど、工夫したほうが良さそうです。
(2) 「別の何かに打ち込む」方法は、効果薄?
とはいえ、相手に繋がる「すべての引き金」を遠ざけるのは、現実的には不可能です。同じ学校、同じ職場、生活圏が近い方などは、特に難しいでしょう。そこで次に試すのが、「別の何かに打ち込む」という方法。失恋後、趣味を打ち込んだり、仕事に没頭したり、無理にでも別の何かに注力することで、相手を無理にでも「忘れよう」とする方は多いと思います。しかし、「別の何かに打ち込む」という方法は、空いた時間を埋めたり、一時的に気をそらす効果はあるものの、脳科学的な見解からすると、残念ながら根本的な解決にはならないようです。そもそも人間は何かを「意識的に忘れる」ということは不可能で、無理に忘れようとすると、逆に『リバウンド』のような現象も起こりうるのだとか。
うっかり喋ってしまったことについて、「ごめん、今の忘れて!」などと言われ、忘れようとすると、逆にその内容をよく覚えている状態になってしまう。これがいわゆる記憶の『リバウンド』です。ある有名な“シロクマ”の心理実験があります。「今から5分間、シロクマのことは絶対に考えないでください」と指示をすると、大抵の人は、別のことを考えて、シロクマから気を反らそうとします。しかし5分の実験が終わった後には、まるでダイエット後のリバウンドのように、皆、シロクマのことばかりを考えてしまう、という結果に。失恋においても、忘れようと別の何かに打ち込んでも、しばらくすると、また猛烈に思い出してしまう時期がやってくる可能性があるようです。
(3) 辛い記憶の「捉え方」を変えてみる
そこで、辛い記憶を無理に「忘れる」のではなく、その記憶についての、「捉え方」や「意味づけ」を変えてみる……という方法があります。フランシス・マグナブという臨床心理学者も、「記憶をつくり変えたり、それを遠ざけたりするのは無理なこと。記憶をぬぐい去ることはできないが、“記憶の有り様”を変えることは可能だ」……などと述べています(一部要約)。
人は、辛い恋人との別れの後、過去のできごとについて何度も考え、思い出し、悩みます。しかし同時に、現実世界では別の新しい経験を増やしていきます。そうしているうちに、「過去のできごと」についての『意味付け』を、段々と変えていくことができるようになります。
例えば、苦労や辛い経験をしたとき、「あの経験のお陰で、今の自分がある。過去のできごとに感謝しよう」などと思えるようになった経験はありませんか? 恋愛においても、トラウマになるような出来事があっても、時間が過ぎるなかで、「辛かったけど、あれから僕は大きく成長した気がする」と思えるようになる、ということです。建物や、世の中のできごとでもそうですが、「立ち位置」を変えれば、「見え方」は変わるもの。「過去のどんなできごとも、必ず違った見方ができるはず」、このことを覚えておくことは、人生においてもとても有効かもしれません。
いかがでしょうか。「元恋人を忘れるためには、付き合った期間の半分くらいの時間が必要」、なんて説もありますが、できることなら早く前向きに立ち直って、次の素敵な恋に出会っていきたいもの。悩んでいる方は、ぜひご参考くださいね。
(外山ゆひら)
(参考文献:「変えてみよう! 記憶とのつきあいかた」 高橋雅延著/岩波書店)
高橋雅延 / 変えてみよう!記憶とのつきあいかた 〔Book〕
「エターナル・サンシャイン」という映画をご存知でしょうか。医療技術で「記憶を消してしまうこと」が可能になった、という設定のなかで、別れた後に元恋人の記憶を消してしまうカップルのお話です。どうしても忘れられない人がいたり、過去の恋愛トラウマに悩まされている人は、「こんな風に、記憶を操作できたら楽なのに……」と思ってしまうもの。脳の研究も進む現代、辛い過去の記憶を忘れるための、効果的な方法は見つかっていないものか、そのあたりを探ってみました。
(1) 記憶の「引き金」を遠ざけることが必要!?
記憶研究を30年以上続けてきた聖心女子大学の高橋雅延教授が、この「記憶を消す」というテーマについて幾つかの方法を考察しています。まずは、「記憶の『引き金』となるものを遠ざける」という方法。脳内の記憶には「引き金」の存在が不可欠で、意識的にしろ、無意識にしろ、ある「記憶」を思い出すためには、必ず「何らかの手がかり」が必要なのだそうです。人や場所、物、状況など、その記憶にまつわる全てのことが、記憶を呼び覚ます手がかり(引き金)になり得るといいます。
つまり昔の恋人や、過去の恋愛経験を忘れたい場合は、とにかく、“思い出すキッカケ”になるような人・物・情報などに触れないようにすることが重要。具体例としては、連絡先の消去、元恋人を思い出す部屋や街からは引っ越す、写真やプレゼントなど「思い出の品」はすべて捨てる、捨てられないなら実家に送るなどして自分の近くに置かない、共通の知り合いとはしばらく距離を置く、元恋人の動向を探ったり、友人に様子を聞いたりしないようにする……などでしょうか。
また、脳には「その出来事を思い出すことを『繰り返す』こと自体が、ますますその出来事を深く記憶に刻み込んでしまう」という仕組みがあり、「元恋人を忘れたい……」と常々思っていても、“記憶の引き金”を遠ざけないでいると、自ら、「いつまでも忘れられない状態」を作っていることに。ある友人は、「忘れられない元彼にもらったアクセサリーが、気に入っていて捨てられない。でもアクセサリーを見ると、やっぱりカレを少し思い出してしまう」などと語っていましたが、捨てられないなら、せめて誰かにしばらく預けるなど、工夫したほうが良さそうです。
(2) 「別の何かに打ち込む」方法は、効果薄?
とはいえ、相手に繋がる「すべての引き金」を遠ざけるのは、現実的には不可能です。同じ学校、同じ職場、生活圏が近い方などは、特に難しいでしょう。そこで次に試すのが、「別の何かに打ち込む」という方法。失恋後、趣味を打ち込んだり、仕事に没頭したり、無理にでも別の何かに注力することで、相手を無理にでも「忘れよう」とする方は多いと思います。しかし、「別の何かに打ち込む」という方法は、空いた時間を埋めたり、一時的に気をそらす効果はあるものの、脳科学的な見解からすると、残念ながら根本的な解決にはならないようです。そもそも人間は何かを「意識的に忘れる」ということは不可能で、無理に忘れようとすると、逆に『リバウンド』のような現象も起こりうるのだとか。
うっかり喋ってしまったことについて、「ごめん、今の忘れて!」などと言われ、忘れようとすると、逆にその内容をよく覚えている状態になってしまう。これがいわゆる記憶の『リバウンド』です。ある有名な“シロクマ”の心理実験があります。「今から5分間、シロクマのことは絶対に考えないでください」と指示をすると、大抵の人は、別のことを考えて、シロクマから気を反らそうとします。しかし5分の実験が終わった後には、まるでダイエット後のリバウンドのように、皆、シロクマのことばかりを考えてしまう、という結果に。失恋においても、忘れようと別の何かに打ち込んでも、しばらくすると、また猛烈に思い出してしまう時期がやってくる可能性があるようです。
(3) 辛い記憶の「捉え方」を変えてみる
そこで、辛い記憶を無理に「忘れる」のではなく、その記憶についての、「捉え方」や「意味づけ」を変えてみる……という方法があります。フランシス・マグナブという臨床心理学者も、「記憶をつくり変えたり、それを遠ざけたりするのは無理なこと。記憶をぬぐい去ることはできないが、“記憶の有り様”を変えることは可能だ」……などと述べています(一部要約)。
人は、辛い恋人との別れの後、過去のできごとについて何度も考え、思い出し、悩みます。しかし同時に、現実世界では別の新しい経験を増やしていきます。そうしているうちに、「過去のできごと」についての『意味付け』を、段々と変えていくことができるようになります。
例えば、苦労や辛い経験をしたとき、「あの経験のお陰で、今の自分がある。過去のできごとに感謝しよう」などと思えるようになった経験はありませんか? 恋愛においても、トラウマになるような出来事があっても、時間が過ぎるなかで、「辛かったけど、あれから僕は大きく成長した気がする」と思えるようになる、ということです。建物や、世の中のできごとでもそうですが、「立ち位置」を変えれば、「見え方」は変わるもの。「過去のどんなできごとも、必ず違った見方ができるはず」、このことを覚えておくことは、人生においてもとても有効かもしれません。
いかがでしょうか。「元恋人を忘れるためには、付き合った期間の半分くらいの時間が必要」、なんて説もありますが、できることなら早く前向きに立ち直って、次の素敵な恋に出会っていきたいもの。悩んでいる方は、ぜひご参考くださいね。
(外山ゆひら)
(参考文献:「変えてみよう! 記憶とのつきあいかた」 高橋雅延著/岩波書店)
高橋雅延 / 変えてみよう!記憶とのつきあいかた 〔Book〕