No.21 『L'uccello dale piume di cristallo (歓びの毒牙) | CURSE OF CINEMA

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メジャー、インディー、洋画、邦画を問わず映画や、アメコミのレビュー、自作のイラストを掲載していくブログです!映画はホラー映画メインになりそうですが(笑)とにかく個人的に好きな作品などを褒めちぎる愛のある映画レビューを書いていきます!



前回、久々に大好物のアルジェント映画『フェノミナ』を紹介させて頂きましたんで、せっかくだし続けてアルジェントのデビュー作の話を。

現在、映画界で一流と言われている監督の殆どがそうであるように、やっぱり天才はデビューから天才。
と言うよりデビューが素晴らしいからその後も仕事が来るもんだろうけど。

タイトルは『歓びの毒牙』
『どくが』と読んだ方、残念!
『よろこびのキバ』でございます。まぁ意味は一緒だし、音の響きからしたら僕個人的には『どくが』と読みたいんでが。
本作はその後の『わたしは目撃者』、『4匹の蝿』と合わせて、【アルジェントの動物三部作】と言われておりますが、それは原題に全て動物が入っているから。
この作品には【鳥】、『わたしは目撃者』には【猫】、『4匹の蝿』はそのまま【蝿】(って蝿って動物?)

この映画には元ネタとなった『通り魔』と言う小説があるらしく、その本を気に入ったアルジェントが脚本を執筆。
本人は元々監督をするつもりはなく、脚本のみのつもりでしたが、映画プロデューサーの父親から『いい本だ!ユー自分で撮っちゃいなYo!』と言われ、オマケに当初監督予定だった人選に不満だったアルジェントは、渋々自分で監督する事に。(そのアルジェントが今やホラー映画を代表する監督に)

でも、役者とのコミュニケーションに不安のあったアルジェントの思いは嫌な形で的中。その話は後程。

確かに本作はいかに天才とは言えデビュー作でありますから、穴は勿論多々ございますし、アルジェント独特の美的センス炸裂のドギツイ原色ライディングも見られませんし、まだゴブリンと組む前だから神がかったBGMもありませんし(とは言え本作の音楽はモリコーネ!充分素晴らしいスコアが堪能出来ます!!)、アルジェントをホラー映画の道へ導くニコロディも出てはおりません!それでも、毎度お馴染み殺人鬼の黒手袋、凶器を準備するシーンや、殺人鬼目線のカメラアングル、殺人シーンの衝撃さなどその後のアルジェント映画に欠かせない要素、天才の片鱗が垣間見えてアルジェントを語るには欠かせない作品であります。
そして何より特筆すべきは、デビューとは思えないシナリオの衝撃のオチ!これはその後、大傑作『サスペリアPart2』へとブラッシュアップされる事になります。
このシナリオが引き金となり、【イタリアのヒッチコック】と呼ばれる事に。


黒手袋と赤い布に並べられる仕事道具と言う名の凶器!

出演は、
トニー・ムサンテ、スージー・ケンドール、エヴァ・レンツィ、エンリコ・マリア・サレルノ、ウンベルト・ラオなどなど。


主演のサム役ムサンテ。何処と無くオーランド・ブルーム似。

ストーリーは、
イタリアに滞在中のアメリカ人の作家サムは、ある晩通り掛かった画廊の中で、黒ずくめの人物と女性がもみ合っている所を目撃する。サムの目の前で女性はナイフで刺され、相手の黒ずくめの人物は逃走。
刺された女性は一命を取り留めるものの、目撃者のサムは警察から容疑者扱いされてしまう。
実は女性の連続殺人が発生しており、全く手掛かりが掴めず警察は焦っていたのだった。
警察が当てにならず、その上疑われたままでは堪らないと、サムは独自に調査を開始する。
恋人のジュリアの協力もあり、手掛かりを求めて奔走するサムだったが、その後も女性の連続殺人が続き、ついに犯人の魔の手はサムとジュリアにまで迫っていた。
一体犯人は誰なのか?
サムは自らの潔白を証明する事が出来るのか?

※ここからガッツリと、ネタバレを含みます!今回も『サスペリアPart2』と同じく作品の根幹となる大オチを説明してしまいますので、これから観ようと思われてる方は読まずに本作を観て下さい!!






イタリアに滞在しているアメリカ人作家のサム(ムサンテ)は、ある晩街を歩いていて、ガラス張りの画廊の前を通りかかる。
ふと店内を見ると店の奥で黒ずくめのの人物と女性がもみ合っている。
訝しみながら店に近づくサムは、女性がナイフで刺される所を目撃する。
驚いて店の自動ドアを開け入るサムだったが、店内にはもう一枚ガラスの自動ドアがあり、そこは鍵が掛かっていた。更に黒ずくめの男がボタンを押し、外に面した自動ドアも鍵が掛かってしまう。
どうにか開けようにも前後のドアはどちらも動かず、閉じ込められたサムの目の前で黒ずくめの人物は、店から逃亡してしまう。
刺された女性は血を流しながらサムの方に這いずって来るが、サムの目の前で気絶してしまう。
その時店の表を通り掛かった通行人にサムはジェスチャーで通報する様に頼む。


目の前で事件が。


助けを求めるモニカ


ガラスドアに阻まれるサム。

この冒頭のシーンが実に上手い!
煌々と照らされた白を基調とした店内。
そこにいる黒い帽子と黒いコートの人物と、赤毛でこれまた白い服を着た美しい女性がもみ合っている。
慌て入店したサムは二枚の透明の自動ドアの間に閉じ込められてしまう。
『ドアが開かないんだ!頑張れ!』とサムは大声で女性に呼び掛けるが、自動ドアに遮られてしまう。
ここで観客は焦らされ、スッカリとサムに感情移入する事となる。
そして、このシーンが重大な意味を持つ事となる。

その後駆けつけた警察によってドアの間から脱出したサム。警察の話では女性は一命を取り留めたらしい。
そこに慌てて1人の男が店に入ってくる。男は刺された女性モニカ(レンツィ)の夫で、画廊の経営者のラニエリ(ラオ)だった。
瀕死の妻を見て泣くほどに狼狽するラニエリ。2人はそのまま救急車で病院に運ばれていった。

一方のサムは第一発見者として事情聴取の為警察に連れて行かれるが、刑事のモロシーニ(サレルノ)は、サムを犯人と疑っていたのだった。高圧的な尋問をするモロシーニ。
モロシーニは、『逃走しようとしたが、誤ってドアの間に閉じ込められてしまったんじゃないか?』と言ってくるが、当然サムは否定する。


疑われるサム。

モロシーニは、サムのパスポートを没収すると言う。抗議するサムに、実はこの事件は連続殺人の可能性があるとモロシーニは説明する。

現在3件の女性の連続殺人が起きており、今回の被害者モニカは、4番目の被害者だった可能性があるのだ。
しかし、何の手掛かりも掴めていない警察は焦っており、少しでも疑わしい者をみすみす逃すわけには行かなかったのだ。唯一分かってるのは犯人は左利きだろうと言う事だけと言う体たらくを棚に上げ、冤罪覚悟でサムに当たる警察…。

強硬な姿勢のモロシーニに折れたサムはパスポートを渡し、予約していたフライトをキャンセルする事になった。
翌朝、やっと解放されたサムだったが、実は事件現場で妙な違和感を感じていた。しかしそれが何なのかサッパリ分からなかった。(この設定はそのまま後の『サスペリアPart2』と同じです)
サムの頭で事件の様子がフラッシュバックする。もみ合う人影、刺されるモニカ、血を流しながら助けを請うモニカ。
しかし、自分が感じている違和感の要因が何なのか分からない。
その時、急に朝靄の中から現れた人影にナイフで襲われるサム。
何とかナイフをかわしたサム。人影は慌てて走り去っていた。

恋人のジュリア(ケンドール)の待つ部屋へ帰ってきたサムはジュリアに事の顛末を教える。

後日再び警察に呼び出されたサムは容疑者候補の面通しをやらされる。

このシーンのセリフが凄い!(笑)
1人づつ容疑者候補がマジックミラー越しに部屋に入ってくるが、その連中についての警察の紹介がとんでもない!!
普通なら『強盗』とか、『暴行罪』とか、『麻薬常習者』とか、犯罪歴を説明するようなもんだが、ここの警察は違う。
『SMマニア』、『露出狂』、『肛門愛好家』などなど、人の趣味嗜好なんどからほっといてやれ!と言いたくなる差別発言のオンパレード!おまけにオカマが入ってきたら『こいつはただの女装癖だ、つまみ出せ!』と怒るモロシーニ!逆に女装癖がある奴が犯人じゃないと何で断言出来るんだお前!!

結局、どの顔にもピンとこないサムは、助かったモニカに聞くのが一番早いじゃねぇか!と当然の事に気づく。
と言うか、まずそれやれよ警察!!

モニカの元を訪れたサムだったが、出てきたのは夫のラニエリだけだった。
ラニエリは、『助けてくれたのは感謝するが、妻は今休んでいる。事件でショックを受けてるからそっとしておいて欲しい』と言う。

モニカの家を後にするサムだったが、サムはラニエリが左利き取った事を見逃さなかった。

サムはジュリアと話して、モニカ以前の被害者について調べようと思い立つ。最初の被害者が働いていた古美術商を訪ねる。
そして店主から、被害者が殺される前になかなか買手のつかない絵を売ってくれたと聞き、どんな絵を売ったのかと聞くと、店主は絵のレプリカを見せてくれた。
そこには、雪の林の中で男が女の子を襲い、ナイフを突き立てている不気味な絵が描かれていた。


不気味な絵。

このシーンも何でかな?古美術商のポッチャリ薄毛店主がゲイと言う設定で、サムににじり寄るシーンがある。勿論本筋には関係ない!

それはさておき、『絵』はアルジェント映画の重要な要素になる。
『サスペリアPart2』では、事件現場の絵がなくなったと思った所から主人公は謎に取り憑かれ、また犯人が幼少期に描いた絵を手掛かりに真相に迫っていく。
『スタンダール・シンドローム』ではズバリ絵その物をテーマにしている。
それらのアイディアの源泉が本作にあるのであります。

少しづつ捜査をするサムだったが、犯人は電話で警察を挑発し、サムにも脅しを掛ける。

そして第5の被害者は就寝しようとした所をナイフで滅多刺しにされた女性だった。


5番目の被害者。

サムは脅迫電話を録音していたのだが、電話の声は警察に挑発の電話を掛けてきた人物とは声質が異なる事が発覚する。
更に、サムの家に掛かってきた電話には、犯人の声以外に、謎の音が聞こえていたのだが…。

更に第6の被害者が生まれてしまう。被害者の女性はカミソリでメチャクチャに切りつけられて殺されてしまう。

正直この第6の殺人のシーンは如何な物かなぁと思ってしまう。ヒッチコックの『サイコ』を思わせる振り降ろされるカミソリと血を流しながら叫ぶ女性の顔のカットバックなんですけど、どーもチャチい…。まぁこれもデビュー作という事で大目に見ましょう。

捜査を続けるサムとジュリアはある晩車で轢かれそうになる。
ジュリアは物影に身を隠し車をやり過ごすが
、サムは車から降りた男に追われる。
男は銃を発砲して追いかけてくるが、サムは何とか人混みに身を隠し、逆に男を尾行する。黄色いジャンパーを着た男はホテルに入っていく。
急いで追いかけるサムだが、男が入った一室には全く同じ黄色いジャンパーを着た人達で溢れかえっており、サムは男を見逃してしまう。

ここも、何でこの男は目立つ黄色いジャンパーなんか着て人を襲ってんだ!?と思ってたら全員同じ黄色いジャンパーを着てる人だらけの人混みに紛れて逃げると言う方法だった。その黄色いジャンパーを着た集団は元ボクサー集会…。何で元ボクサーが黄色いジャンパー?つーかそもそもそんな事して紛れて逃げるより、初めから黒とか目立たない服装にすりゃあいいんじゃないのか?

しかし、後日知り合いの編集者に紹介された探偵から自分を襲った男の住所を入手したサムは意を決して男の家を訪れる。
男を問い詰めるつもりのサムだったが、そこで見たのは何者かに殺された男の死体だった。

次にサムは、例の不気味な絵が気になり、古美術商の店主から絵の作者を教えてもらい、その作者を訪ねる。

廃墟の様な家に隠れるようにして住みながら絵を描く風変わりな画家から、その不気味な絵は実は事実を元に描いた事を知らされる。
昔画家が子供の頃に、自分の住んでる町で、女の子が男に襲われて一命を取り留める事件が起きてそれをモデルに絵を描いたと言うのだった。

このシーンでも要らん演出が。(いや、これがアルジェントだから仕方ない)
画家はサムが絵を買いに来たと思い、ワインと食事を振る舞う。サムは少しだけ口にするが不味くて食えたもんじゃなかった。
画家の家には沢山の猫がいるので、『猫が好きなのか?』と聞くと、『ああ、美味いじゃないか?』と、トンデモ発言をする画家。
『そ、そうなんだ、僕は食べた事ないなぁ』とサムが言うと、『食べた事ない?そうかな』と不敵に笑う。
そこでサムは先程振舞われた食事が猫だったと気付いて驚く、と言うシーン。
勿論これも本筋には関係ない!!(笑)
『4匹の蝿』にもホームレスみたいな奴が出てくるけど、アルジェントはこういうキャラクターが好きだなぁ。

一方、サムのいない間に連続殺人犯の魔の手がジュリアに迫っていた。
家に一人でいると部屋の電気が消え、玄関のドアからナイフが突き出る。
恐怖で叫ぶジュリア。
ドアから突き出たナイフが引っ込むと、空いた穴から不気味な目がジュリアを見つめていた。ドア越しから声がする『逃げ切れると思うなよ、今度はお前を殺してやる』
恐怖で喚くジュリア。するとちょうど帰ってきたサムの声がする。
暫くしてドアが開き、入ってきたサムを見て安堵するジュリア。サムはまたしても犯人の顔を見る事は出来なかった。

しかし翌日、サムとジュリアは訪ねてきた友人のカルロから重要な事が分かったと言われる。
例の脅迫電話に入っていた不気味な音は、珍しい鳥の鳴き声だと言うのだ。
しかも、その鳥はローマの動物園に一羽しか居ないと。
3人は急いで動物園に向かう。

そしてサムはある人物が犯人であると確信する。動物園の真横にはラニエリとモニカの住むマンションがあったのだ。
警察に通報する3人。
駆けつけたモロシーニら警察と共にラニエリの部屋に突入するサム。

するとちょうど今にもラニエリがモニカをナイフで襲おうとしている所だった。
ラニエリは突入してきた警察ともみ合い、窓から落ちてしまう。
地面に叩きつけられて虫の息のラニエリは、『自分が犯人だ…。』と犯行を認めて息絶える。

これで一件落着と安堵するサムだったが、ジュリアとカルロの姿が見えない事に気付く。周りの人間に訪ねながらジュリアを探すサムはある家に辿り着く。
部屋に入るとナイフを持って椅子に座るカルロを見つける。
まさか!カルロが犯人だったのか!
そう言えば警察を挑発した人間と、サムの家の脅迫電話は別人だった!
サムを銃で襲った男とは別にもう1人犯人がいたのか、それがカルロだったのか!
この時、ジュリアはソファの下で縛られて猿轡を咬まされて倒れていたのだが、サムは気づかなかった。


ソファの下に倒れていたけど気付いてもらえないジュリア。

カルロに詰め寄ろうとするサムだったが、カルロは首の後ろにナイフを突き立てられて死んでいた。
驚くサム。
そして、そこに高笑いと共に現れた真の連続殺人犯は…、そうモニカだった!!

そこでサムはモニカを助けた日に感じていた違和感の正体を思い出す。
サムの頭の中で、冒頭のモニカが襲われたシーンが蘇る。
黒ずくめの人物ともみ合うモニカ。
しかし、その時ナイフを持っていたのは…。
モニカだったのだ!
ナイフはモニカの手に握られていたのだった!!
サムは被害者と加害者を逆に捉えていたのだ。殺人犯はモニカで、黒ずくめの格好でモニカに襲われていたのは夫のラニエリだったのだ!


モニカの部屋にはあの絵が。

ラニエリはモニカの犯行を知って一度止めさせようとしたが、逆にモニカに襲われてしまった。もみ合う内に偶然ナイフがモニカに刺さってしまったのだ。
更にモニカとラニエリは、この偶然を利用し、被害者となって疑いの目が向かない様に画策した。ラニエリは結局愛するあまりモニカに協力する事を選び、最後は自分の犯行だと遺言を残して死んだのだった。

笑いながら逃げるモニカ。
ジュリアの行方を聞き出す為に追うサム。

サムは冒頭の画廊に辿り着く。
しかし店内にモニカの姿は無かった。
すると、突然大型の彫刻が倒れてくる。
下敷きになって身動きが取れなくなるサム。
そこに再び高笑いと共にモニカが現れる。手にはナイフが握られていた。
『お前は死ぬ、死ぬんだー!』と最早狂気で発狂した様に別人となったモニカがサムの顔に向かってナイフを振り上げたその時、駆けつけたモロシーニ達によってモニカは逮捕される。

後日、テレビで精神科医が今回の事件について解説していた。
モニカは幼い頃に男に殺されかけると言う経験からトラウマになっていた。
ある日古美術商で、自分の体験をモデルにした不気味な絵を見つけてしまい、その事がきっかけで精神のバランスが崩壊し、自分を守る為に自らが殺人鬼となってしまったのだと。そして夫のラニエリもまたモニカを想うあまり自らも精神に異常を来し、夫婦揃って犯行を繰り返していたのだと。

サムとジュリアは、アメリカ行きの飛行機に乗り込んでイタリアを後にした。

ここで映画は終わります。

観れば分かりますが、これはそのまま『サスペリアPart2』と全く同じ内容であります。
主人公が冒頭の殺人を目撃するが、何か重大な見落としをしてる気がすると言う設定。
先にも述べましたが、絵が重要な鍵となる点。更には真犯人を守る為に身内が共犯だったと言う点などです。

ハッキリ言えば『サスペリアPart2』の出来とは雲泥の差がありますが、これら全ての要素を既にデビュー作、しかも自分の脚本で盛り込んでいたと言う事にまず驚かされます。

実はこの作品の撮影中、アルジェントとキャストの仲は最悪でした。
元々監督する気の無かった新人のアルジェントですが、求める要求は高かった様で、特に主演のムサンテとの相性が悪かったらしいです。
ムサンテとアルジェントは撮影終了後に殴り合いの喧嘩をしている程です。
後にアルジェントは、『幸いな事にあの作品以降、ムサンテの様な最低の俳優と仕事する事はない』と振り返ります。

また、真犯人だったモニカ役のレンツィも、『キャリア中最低の作品』と本作をバッサリ。

それでも、公開当初は苦戦しつつもロングランとなり大ヒットした本作の成功からアルジェントの監督としての人生が始まりました。

本作はとこどころの粗はありますが、鬼才アルジェントのデビュー作として、その後の片鱗を充分に感じさせる傑作になっており、サスペンス映画としても上質の作品だと思います。
よく、本作の根幹である大オチ、『加害者と被害者を見間違っていた』と言う部分を、『そんな大事なとこ覚え違いするかねぇ?』と言う意見を目にしますが、僕はそんなに無理な設定とは思いません。

これは人の先入観を元にしたアイディアで、もみ合うのが黒ずくめの人物と白い洋服の美しくか弱そうな女性であれば、大抵人は勝手に女性が襲われている!と思うのではないでしょうか?
ましてや、ナイフを見て慌てて駆けつければそう思い込んでしまう気がします。
実際大オチを見て『そこ忘れるかよ!』と思う人の全てが、この大オチを見破れるとは思えません。
黒ずくめの人物は映画お約束の犯人と言う先入観は我々観客にも作用しているはずです。
更に、美しくレンツィをモニカ役にキャスティングし、レンツィの衣装も黒ずくめに対して、女性の体のラインが強調される白い衣装、画廊全体も白を基調とし、あえて黒ずくめの人物が浮かび上がり!脳に焼きつく様に計算されているのです。

恐らく、本作に関しては自身の脚本としてアイディアにも自身があったアルジェントは監督をする事にしますが、その出来には先に挙げたキャストとの不仲もあり、満足いくものではなかったのだと思います。

そして後年、このデビュー作を改良するトリックを見つけたアルジェントは、大傑作『サスペリアPart2』を完成させるに至るわけですから、全ての始まりとして大変重要なタイトルであると言えるのではないでしょうか。
(『わしゃサスペリアPart2も好きじゃないわい!』と言う方には何も言えません…。)



ちなみに、タランティーノは本作の殺人犯が被害者をストーキングし写真を撮るシーンを、『デスプルーフ』でカート・ラッセルがターゲットをストーキングしカメラで撮影すると言うシーンや、本作の音楽を使用する事でオマージュを捧げております。


『デスプルーフ』のカート・ラッセル。