【花涙病】
恋をすると涙が花になる病気


もう長年といるメンバーの中で恋を抱いたらぎこちない雰囲気になるんだろう。玉森と宮田は結婚したし、がやさんと横尾さんは熟年夫婦だし北山さんは「恋なんていらない。今は仕事が恋人だから」なんて言ってる。俺なんか、いつかは恋をするんだ、て思いながら突然鳴り響く着信音。
「ごめん。電話だ」
そう言って楽屋を出て行ってしまったニカ。多分彼女だろう。ニカが彼女と交際し始めたのは数日前で一番に連絡があった。その時の俺は、幸せになってね。て言うと「ありがとう」て言って嬉しそうに言ってくれたニカに対して、俺は現在-いま-、本当は心が苦しくて、あぁ、俺、恋をしてるんだ。と確信した。ニカの優しいところが大好きで傍にいるだけで胸の高鳴りがする。でもニカにこの想いを届けたらフラれるんだ。怖い・・・。想いを告げる気持ちときっぱり恋をやめる。その二つが葛藤して情緒不安定になってしまった。すると急に目が痛くなり目を瞑る。乾燥して痛くなったか。痛みに耐えながら目を開けるとその光景に目を疑った。
「花・・・?」
それは涙ではなく花弁だった。でも見たことがない花弁だ。膝上に数枚の花弁を写真を撮り最近、ガーデニングにハマっている母親に写真を送った。


"この花の名前は?"


その文章と共に送信すると、すぐ既読になり返信が来た。


"トリトマだよ。その花どうしたの?"
"目から溢れた"
"え?どういうこと?"
"俺も分かんない"
"病院行きなさい"
"分かった"

母親とのやり取りが終わるとニカが戻ってきた。俺は慌てて膝上に散らばった花弁を握りポケットにしまう。
「何隠したの?」
「何でもないよ」
「あ、そう」
素っ気ない態度を取られ少しイラついたけど俺が花弁を隠したから・・・。心配してなそうに見えて俺はネットで【花弁 涙】で調べてみたけど、出てこなかった。これは病院に行かないといけない。仕事終わりにでも行こう。脳内にはずっと病院という単語が駆け巡った。なんとか仕事が終わると一直線で病院に駆け込んだ。検査の結果こう告げられた。


【花涙病】


涙をしてしまうと発症する病気。特に俺は重症だった。トリトマという花の意味は・・・


【あなたを思うと胸が痛む】


現在-いま-の俺に当てはまった。ニカの事思うと胸が痛い。この病気は想いを断ち切る。または、結ばれる。その二つしかなかった。俺はどうしたらいいのか分からなくただ花弁を流すことしか出来なかった。それを見た医師が「落ち着くまで処置室にいてもいいですよ」と言われ看護婦に連れてって貰い処置室に行く。処置室に着くとベッドに仰向けになり天井を見つめた。ここにニカがいてくれれば楽になる。ニカの事好きだから・・・。目を瞑り仮眠して病院を後にした。帰宅途中、スマホが鳴り響く。表示には母親の名前。
「母さん」
「健永、大丈夫?!」
「え?」
「高嗣君から連絡あったわよ。体調大丈夫なの?」
「あ・・・。ニカから聞いたんだね。てっきりわかってないかと思った」
「病院行ったの?」
「さっき病院に行ってきたよ。ただの風邪だって」
・・・嘘をついた。母親に花涙病なんて言えない。母親は「体調に気をつけなさいよ。ほんと子供の頃から身体弱いんだから」て言われた。
「ご心配おかけしました。もうすぐで家着くから鍵開けといて」
「分かったわ」
通話を切り家まで走って帰った。玄関の扉を開けようと手をかけた時、母親が鍵開けといてくれたおかげでスムーズに入れた。
「ただいま」
「健永、おかえり。ご飯出来てるから食べなさい」
「ありがとう、母さん」
リビングに行くと父親も心配そうにしていて、大丈夫だよ。と言うと更に心配そうにしている。本当に大丈夫だよ。て言うと二人して「そっか・・・」て言う。今日の夕飯はハンバーグ。俺の好きなものだ。
「頂きます」
一口食べるといつもより感じた。だけど白米は進まない。香りが駄目みたいで直ぐ吐き気をしてしまう。症状の一つでもあるこの吐き気。残念ながらハンバーク一口しか食べられなかった。
「風呂入ってくる」
「大丈夫?ゆっくりでいいのよ?」
「早く寝たいから」
「そう・・・」
母親の言う言葉を流し俺は自分の部屋に行き寝巻きを取りに行き寝巻きを取りに行き浴室に向かった。衣服を脱ぎ捨てシャワーを浴びる中、目から溢れるトリトマの花弁。流れる花弁をぎゅっ、と握り締めた。一旦浴室から出てペーパータオルに花弁を包み込みゴミ箱に捨てた。ほんの一分以内なのに身体が冷え切ってしまい急いで浴槽に浸かった。温かい・・・。確かこの病気は体温低下もあると言っていた。多分そのせいだろう。早く温まって出よう。十分程度、浸かって浴室から出ると少し寒気がするが体温が逃げないように急いで寝巻きを着て部屋に向かいそのままベッドの上に身体を沈めた。左腕を頭上に上げ手を広げ見つめる。恋てこんなにも苦しいんだ、て思いながら就寝。

夢の中でも俺はニカに恋心を抱いてニカを見つける度、花弁を流していた。それが段々、身体がふわり、と浮くような感じになり自分の姿が消えて行き掌を見ると透けていた。


"ニカ、好きだよ"


その言葉を残し夢の中の俺は消えていった。・・・はっ、と飛び起き乱れた息と心臓が高鳴っていった。なんだ・・・夢か。掌を見てみると透けていなかった。大丈夫、生きてる。まだ朝日を迎えていない頃。俺はベランダに出て消えそうな満月を見つめた。きっとニカはこの満月を見てないんだろう。見てたら連絡が来るはず。前も何気なく連絡が入ったこともあった。"月、見てる?"その連絡さえ嬉しくて、その思い出を振り返ながら部屋に入り再びベッドの上に寝た。

翌日、起き上がると枕の上に花弁が落ちていた。でもトリトマの花弁じゃなかった。これは・・・母親に聞かなくても分かる花弁。薔薇の花弁だった。俺はネットで薔薇の意味を調べた。


【あなたを愛します】


その通り。ニカを愛しているから。たくさんの愛情を抱いているから。ニカ・・・好きだよ・・・。

この恋を患ってから約二年。俺はかなりの重症になって亡くなった。恋が実らないままあの世に逝ってしまった。あの世でニカを見つめているとこの世界の管理人が俺の写真を見せてくれた。柩の中にはたくさんの花が敷き詰められて優しい顔で永眠している俺。
「綺麗ですね」
「はぁ、どうも」
「千賀さんは、確か誰かを好きになっていましたよね?」
「はい。相手は男性ですが好きになっていました」
「彼に会いたくないのですか?」
「もちろん!会いたいですよ」
「一度だけチャンスをあげます。彼に会ってきてください」
「ありがとうございます!」

あの世から抜け出して直ぐ様、ニカに会いに行くことにした。異空間に飛び数分後、ニカの家に着いた。呼び鈴を鳴らすが出てこない。いないのかな・・・。その場で立っていると右側から「誰・・・?!」と言う声。右側を向くと「千賀なのか?」て言われた。
「そうだよ。ニカに会いに来たんだ」
「お前・・・」
少しずつ近付いて来て優しく抱きしめてくれた。「おかえり」て言ってくれて歓喜が極まり自然と涙が溢れた。
「泣いてる・・・?」
「うん・・・。ニカが俺の事覚えてくれてたから」
「当たり前じゃん。一番近しい人だから」
「ありがとう・・・。大好き」
やっと言えた言葉を伝えられてよかった。ニカが俺の事好きなのは分からないけど俺はそれでもよかった。