【song by:東京女子流】
男性妊娠
人魚姫パロ
人間に恋をしたケンエル(健永)のお話
番外編では娘:ユウラが産まれます


ダークブルーの世界で生活していると時々憧れを抱く。それは暗闇の中を明るくしてくれるかのような光が差し込む。その光に連れて陸に上がり水面に顔を出せばピンクブルーの空と潮風が微かに頬に当たる。こんな早朝に人なんていない。サーファーすらもいない。周りを見渡し沖にある海岸へと上がり岩に腰を駆け尾びれを軽く跳ねさせて外の世界を感じていた。海岸線を眺めながら歌ってみた。小さい頃からお母様がよく子守唄として歌っていた曲。今でもその曲が身体に染み付いていてふと歌ってしまうのが癖。すると背後から足音が聞こえた。振り返ると黒髪でスウェット姿の男性が立っていた。
「人魚姫・・・?」
俺の姿を見て驚いた表情を浮かべている。元々大きめの眼が更に大きく開かれていて右目の下には泣きボクロ。俺はその男性に微笑みかけた。
「珍しいものでしょ。男の人魚姫って」
「うん。大体人魚姫て女だけかと思った」
「皆そう言うの。身体見れば分かるもんね。ほら、ぺったんこ」
身体を男性に向け胸に手を当て軽く叩くと男性は俺に近付いて珍しがっている。普通なら怖がって逃げるのにこの男性は違うのね。俺は男性の右手を掴んで自分の胸に押し当てた。
「本当・・・男だ」
「これで分かったでしょ。でも俺に近付いてくれるなんて貴方が初めて。でもどうして・・・」
「歌声が聞こえて凄い綺麗な声だな、て」
「嬉しい。それを言うのも貴方が初めてよ」
「でも何で人魚姫がここにいるの?」
「息抜きかな。ずっと海の中にいるのも退屈なの」
腕を頭上に上げ背筋を伸ばすと身体の底から疲労が抜けていった感じがした。やっぱり陸に上がると気分がいい。男性は顔を近付き俺を見つめる。
「瞳、青いんだ。綺麗な眼。人魚姫って外国の血あるの?」
「ないの。生まれつき」
「その金髪も?」
「うん。でもそのせいで怖がる人が多いの。また逃げられるんじゃないかって」
「そんな事ない」
「え・・・」
「俺は君の歌声に惹かれてここに来た。後ろ姿からして女性だと思ったけど身体を見て驚いた。だけでも何もかも綺麗で見とれてしまったんだ」
「綺麗だなんて、凄く嬉しいわ。ありがとう」
「こちらこそ。そういえばお名前聞いてもいいですか?」
「ケンエル」
「人魚姫にぴったりな名前。俺の名前は二階堂高嗣。ニカでいいよ」
「宜しくね、ニカ」
お互い手を出して握手を交わした。俺より少し大きくて温かい。人間とこうやって接するなんて夢みたい。それからニカと他愛のない話をしてるとニカはスウェットのポケットから細長い何かを取り出して指先で横にスライドして動きを止めるとそれを再びポケットに閉まった。
「俺、そろそろ帰らないと。バイトがあるから」
「バイト?」
「仕事」
「あ・・・そっか。ちなみにさっきの道具は何?」
「道具?あ、スマホていう電子機器。これで人と連絡取れる機械。人間界には欠かせないものかな」
「そんなものがあるのね」
「人魚界はどうやって連絡とってるの?」
「そうね・・・難しい質問だわ。えっと・・・直接会って連絡とってるかな」
「難しくない?」
「そこなのよ。だから中々お友達にも会えないの・・・」
そう言うとニカは黙り込んでしまった。表情からしてニカが察ししたのか「質問して悪かった」と言ってくれた。
「気にしないで。俺にはニカという友達が出来たから」
「俺もケンエルと友達になれてよかったよ。こんな珍しい事、人生初めて。だって人魚姫だよ?」
「またニカとお話したい」
「明日また来るから。朝日が昇る頃にはここに来るようにする」
「大丈夫なの?朝起きるの辛いと思うけど」
「気にするなって。早番だと思えば楽だから。明日の朝来るから」
お互い手を合わせハイタッチをしお別れをした。俺に背を向け浜辺から姿を消えていくのを見届けてから海へ帰った。一夜を開け海に日が差し込んだ頃に陸に上がる。昨日と同じ場所の海岸でニカを待った。昨日よりキラキラとした海岸線を眺めていると「ケンエル」と呼ばれ後ろを振り返ればニカが居た。朝日が昇った頃なのにニカの顔は少し汗ばんでいてそこから汗が流れていたのか髪の毛先が濡れていた。
「もう汗かいているの?」
「朝早くても多少の暑さで無理」
よく見ると黒のタンクトップが少し汗で滲んでいた。胸元の部分を掴み、バタバタさせている。そんなニカに向けて左手で水をかけてやった。
「何すんだよ。冷たいじゃんか」
「いいじゃん。気持ちいいでしょ?」
もう一度かけてやるとニカも負けじと俺に水をかける。ばしゃ、ばしゃ。と音を立てながら子供のようにはしゃぐ。お互いびしょびしょになりニカがタンクトップを脱いで濡れたタンクトップを両手で握って水を絞っていた時、俺の方を見てこう言った。
「ケンエルの髪に挿してある髪飾りは本物なの?」
「違うよ。本物の花だとぐちゃぐちゃになっちゃうでしょ?常に水の中にいるんだもの」
「男でも髪飾りするの?」
「ううん。大体の人は恥ずかしがって付けないの。だけど俺は付けてる。造花だけどお母様から貰った大事な髪飾りなの」
「赤とオレンジのグラデーションなんだね」
「うん。とても気に入ってるの」
「とても似合うよ」
「・・・ありがとう」
男性にそう言われるなんて初めてだ。それにその表情でそんな台詞を言うなんて・・・カッコイイてなったんじゃん。思わず照れてしまい視線を反らしてしまう。自分でも顔が紅潮しているのが分かり頬に手を添えた。やっぱり熱い。俺の手の上にニカの手が重ねられた。
「ど、どうしたの?」
「可愛い人魚姫だなって」
「それ言うのズルくない?」
「本当の事だから」
どういう事だろう。それ女性として見てそう言ってるの?それとも男の人魚姫として見て言っているの?気になるけどあえて言わない。それを言ったらきっと困らせてしまうから。人間てそういうものだと教えられたから。遠くから子供のはしゃぐ声が聞こえてきた。海水浴しに来たんだろう。俺達のいる海岸は沖の先にある場所で海岸から見えない視界だしもしここに入ろうとしてもそう簡単には入れない。けどもし人魚姫の姿を見られてしまうと大事になってしまう。
「今日はここまで。また明日ね」
急に言い出したからニカは不思議そうな表情を浮かべていた。今日は、先に失礼するね。と下半身を海に沈め振り返るとニカが小さく手を振っていた。俺も水面から左手を出して手を振り返す。そのまま頭を海の中へと沈めた。身体を反転させ海の底へと帰っていく。人魚界では規則がある。規則はいくつかあって、一つは人間の一人のみ姿を晒してもいい。それ以外の人間に人魚姫の姿を見られてしまうと下半身の一部から全身にかけて痺れが走る仕組みになっている。産まれた時に下半身に小さな装置が埋め込まれる装置になっている。所謂センサー。それは自分自身を守るため。現代に人魚姫がいるなんて都市伝説扱い。それと人魚姫は人間とある程度の接ししてしまうと人間に殺される可能性がある為、昔、数人の人魚姫がその被害に遭っていた。その為、下半身の一部を人魚界の管理局センターにて監視されている。もし規則を破ってしまえば即違反になってしまう。身を守るため普段より泳ぐスピードが速く海の底にある自分の居場所に辿り着いた頃には息が荒くなっていた。なんとか身を守り深く息を吐き出すとさっきのニカとの光景が脳裏に再生される。ふわふわした柔らかい夢のような空間。優しい男性だな、かっこいい人だった。なんて思い浮かぶと、身体の中から、ドクッ・・・する感覚に襲われた。心臓に手を当てると今までない感じの速さで胸の鼓動が高鳴っていた。目を閉じて心臓に当てていた手を握り締めた。・・・これが恋ていうものなのか?でもそれは叶わないもの。人魚姫は人間と恋をしてはいけない。恋をしてしまえば規則違反になる。もし恋を抱いてしまえばその人間と接触する事も禁止。陸にすら上がる事も禁じられてしまう。人間に恋をして一週間経ってしまうと人魚界じゃ居られなくなる。幼き頃からお母様から言われていた。今、俺は恋をしてしまったんだ。しかも人間に。こんなの誰にも言えない。もしこの世界から自分の姿が消えてしまったら・・・。そう思うと涙が零れ落ちる。

日につれ想いが大きくなって自分自身が辛くなり泣くのが多くなった。それと眠れない日々が続いている。ニカとは早朝に毎日会っていたが声が震えたり自然と笑顔が出来なくなり自分なりに気付かれないようにした。今日もニカに会って嬉しかったけど内心、辛かった。心が痛い。ニカの姿を見届けた途端に溢れる涙。その涙を隠すかのように海へと逃げ込む。そのまま居場所へと帰るとお母様が異変に気付いてくれたけど言えず・・・。さっきまで泣いていたのも我慢。でも流石お母様。精神的に追い詰められた俺を優しく抱きしめてくれた。その温かさから再び涙が零れ落ちる。
「ケンエル、話してくれる?貴方が話せる程度でいいから」
お母様は俺が陸に上がっているのは知っている。ニカと会っているのも知っている。ニカが人間の男性の事も。ニカに恋を抱いた以降、お母様の前で笑わなくなってニカとの話もしなかった。多分それがお母様の中で引っかかっていたんだろう。俺は泣きながらゆっくり言葉にした。それを聞いてお母様は一言もせず俺の言葉を聞いて俺の後頭部に置いていた手が優しく撫でてくれた。全て吐き出すとお母様がやっと言葉にする。