宇都宮県の魔窟「株式会社クーポッツ菊池」の勢力拡大は、とどまるところを知りません。


​菊池社長は、管理部門の若きエリート、小平結依葉(こだいら ゆいは)を呼び出し、鼻から脱脂綿を覗かせたまま冷徹に命じました。


「あのハルカとかいう『僕っ娘』たちの会社……四六時中、我が社のトイレや池をうろちょろされては防犯上よろしくない。いっそ『関連会社』という名目で、丸ごと飲み込んでしまえ」


​結依葉は「承知いたしました。事実上の買収(アクイジション)として処理します」と事務的に答え、有限会社・排泄エネルギー発電は、その日のうちに「クーポッツ菊池・排泄動力部」へと強制的に書き換えられました。ハルカは「僕たちの自由が……!」と嘆き、雪夫は「……連結、完了」と電車のように呟き、理科はわけありマンションの荷物を社宅へ運び込みました。


​しかし、その組織改編の喧騒をかき消すような、凄まじい「殺気」が正門から漂ってきました。


​第百章:伝説の帰還、泉谷馬人男


​熱砂のアフリカから、一人の男が宇都宮に降り立ちました。泉谷馬人男(いずみや まりお)、39歳。諜報部門所属。


かつてインドやブラジルで、獰猛なゴリラ部隊が引き起こした紛争を、たった一人で壊滅させた「生ける伝説」です。スパイ技術全般を極め、暗闇での因数分解を趣味とする超人。


​しかし、彼が正門をくぐり、警備のタキとコージに「……ただいま戻った」と声をかけた瞬間、周囲の空気は別の意味で凍りつきました。


​「えっ、泉谷さん……その声……」


伝説の男の口から出たのは、外見の屈強さからは想像もつかない、あまりにも高い「超ハスキーボイス」でした。


​第百一章:アウストラロピテクスの悲哀


​泉谷は、かつて社外に自宅を構えていましたが、海外のライバル企業「パナ・ソルト社」の特殊部隊に自宅を爆破されて以来、今は社内の地下シェルターに住居を構えています。


​帰国早々、彼は生産ライン部門の写木太佳緒里(うつぎ たかおり・25歳)とすれ違いました。


「泉谷さん、お疲れ様です! 相変わらず……その、顔の彫りの深さと歩き方が、アウストラロピテクスみたいで素敵ですね!」


​太佳緒里の屈託のない爆笑に、泉谷の心は因数分解できないほどのダメージを受けました。彼は諜報のプロでありながら、女性経験は皆無。ハスキーな声で「……それ、褒めてないだろ」と呟くのが精一杯でした。


​第百二章:ギャンブル仲間の密会


​傷心の泉谷が向かったのは、社内の隠れカジノ(という名の給湯室)。そこには、鰹節を削りながら待っていたギャンブル仲間の権後鰹師(かつおし)がいました。


​「よう、泉谷。アフリカの出汁はどうだった? 今日は『ポケチンあみだくじ』で勝負するか?」


「……かつおし。今日は負けないぞ。俺のハッキング技術で、あみだの線を書き換えてやる」


​二人は、仕事の合間に風俗店通いの計画や、地方競馬の予想に耽りました。泉谷は戦場では無敵ですが、私生活では「ギャンブルに負けて社食のカレーを奢ってもらう」という、極めて親しみやすい(?)諜報員だったのです。


​第百三章:諜報部門 vs 買収された三人組


​その時、泉谷の隠し無線に、小平結依葉からの指令が入りました。


「泉谷さん。新しく関連会社になったハルカたちの動向を盗聴してください。特に雪夫という男の、電車ダイヤに隠された暗号を解析して」


​泉谷はすぐさま、ハルカたちが作業している「排泄動力部」の天井裏へ潜入しました。


そこでは、ハルカが「僕の歯科衛生士時代の知見によれば……」と語り、雪夫が「……宇都宮線、5分遅延」と呟いています。


​泉谷は、彼らの会話を完璧に盗聴しながら、手元のノートに複雑な因数分解を解き始めました。


「(ハルカの心拍数)×(雪夫の電車の速度)÷(理科のマンションの怨念)=……答えは、こいつら、ただの変態だ」


​第百四章:ゆりことの邂逅


​任務を終えて天井裏から降りてきた泉谷の前に、ペンギンのぬいぐるみを抱いたゆりこが現れました。


「そかそか、天井からおじさん。なるほどねー、はいよろしくー」


​「……っ!? 気配を感じさせない……この女、何者だ」


伝説のスパイ・泉谷は、ゆりこの「無(む)」のオーラに戦慄しました。アフリカのゴリラ部隊よりも予測不能な動き。


​ゆりこは、泉谷のゴツゴツした手を握り、「アウストラロピテクス、ダンスしよ。どどんがどん」と誘いました。


泉谷は戸惑いながらも、ハスキーな声で「……ワン、ツー、ステップ」と、ユリエに教わった英語キャンプの残滓を口にしながら、ゆりこと共に踊り始めました。


​宇都宮の夜は、伝説のスパイの帰還と、買収された排泄エネルギー、そしてゆりこのダンスが混ざり合い、もはや誰にも解けない「因数分解」のような混沌へと突き進んでいくのでした。



株式会社クーポッツ菊池の夜は、買収という名の「吸収」によって、より一層不透明な熱気を帯びていました。


​第百五章:祝杯のバーと「電車・怨念・排泄」の夜


​事実上の買収により、福利厚生という名の「無制限の社食利用権」と「最新トイレ使い放題権」を手に入れたハルカ、雪夫、理科の三人は、狂喜乱舞していました。


​彼らが向かったのは、給与部門の友美が社内の地下倉庫を勝手に改装して夜な夜な運営している副業バー「あみだくじ」。


​「僕たちの時代が来たんだ! さあ、乾杯しよう。僕の歯科衛生士時代の磨き残した野望にかけて!」


ハルカが高らかにジョッキを掲げれば、雪夫は「……各駅停車から、特急へ。連結おめでとう」と無表情にカクテルを啜ります。理科もまた、わけありマンションの霊気を宇都宮の夜風に逃がしながら、安堵の表情を浮かべていました。友美はカウンターで「買収されたんだから、飲み代も給料から天引きしとくわね」と、不敵な笑みを浮かべて伝票を叩きました。


​第百六章:菖子の孤独と、血脈のノイズ


​そんな喧騒から遠く離れた敷地外れのプレハブ風ラーメン店。菖子は、カウンターの隅で一人、湯気と共に立ち上る味噌ラーメンの香りに没頭していました。


​彼女はかつて「場面かんもく症」を患っており、特定の状況下で声が出なくなる過去を持っていました。今でも大人数の集まりは吐き気がするほど苦手で、一人で麺を啜るこの時間だけが、唯一の救いでした。


​そこへ、スマホに非通知の着信が入ります。精神病院で暮らす実の兄からでした。


「……菖子か。聞こえるか。俺は今、監視されている。病室のコンセントの穴から、菊池のジジイが送り込んだ小型の目玉が俺を見ているんだ!」


​「お兄ちゃん、またそれ……? 誰も見てないよ。ゆっくり寝なよ」


​冷たく電話を切ったものの、菖子の心はざわつきました。兄の被害妄想。自分の中にも、時折ふと湧き上がる「世界が私を嘲笑っている」という感覚。あの高刃牙にパシンパシンと叩かれたお尻の傷跡が、古傷のように疼くのを感じ、彼女はさらに濃い味噌のスープを喉に流し込みました。


​第百七章:伝説のスパイ、ドブ川に消ゆ


​同じ頃、諜報部門の伝説・泉谷馬人男は、暗闇の中で極秘の特訓に励んでいました。


「……スパイたるもの、常に平衡感覚を極めねばならん」


​彼は敷地内を流れる、工場排水が混じった不気味なドブ川に渡された細い平均台を、アウストラロピテクスのような野性的な動きで駆け抜けようとしました。しかし、前日の雨でぬめった木材が、伝説の男の足を掬います。


​「……あ、チッ」


ドボン!!


​ハスキーな悲鳴を上げる間もなく、泉谷はドブ川へ垂直落下しました。


這い上がってきた彼の靴からは、真っ黒なヘドロが「じゅぶじゅぶ」と音を立てて染み出し、伝説の面影は微塵もありません。しかし、これこそが彼の「擬態」でした。


​彼は泥まみれのまま、震える手で超小型の盗聴レシーバーを取り出しました。


「……ヘドロは問題ない。本命はこれだ」


​実は訓練と称して、彼は社長の愛人・麻由と、芸術の女王・温川優夏が同居する女子寮の特別室に、最新の盗聴機を仕掛けていたのです。


​第百八章:盗聴された「女たちの本音」


​ドブ川のほとりで耳を澄ます泉谷のイヤホンに、麻由の溜息が届きました。


​『ねえ優夏。最近、ゆりこの脇の下の剃り残しが、私の学生時代の短パンの丈より長くなってる気がするの。あれ、ロジカルに考えてどうなの?』


​『……麻由、それは「野生の芸術」よ。私はむしろ、あの3ミリの黒ずみに、新たな時代のカンバスを感じるわ。それより、あの新しく来た保健室のミキちゃん先生……彼女の尻のたるみ、あれは名画だと思わない?』


​泉谷は泥だらけの顔を歪めました。


「(……なんだこの会話は。因数分解する価値もない。だが……記録せねば)」


​その時、泉谷の背後にペンギンのぬいぐるみを抱いたゆりこが立っていました。


「そかそか、泥んこおじさん。なるほどねー。お風呂、入る? はい、よろしくー」


​ゆりこは、伝説のスパイの尻に、池で拾ったばかりの濡れた「カエルの化石」を、冷たく押し当てました。


泉谷は「……ギャッ!」と本日二度目のハスキーな悲鳴を上げ、再びドブ川へと転落していきました。


​宇都宮の夜は、買収された三人の笑い声と、菖子の沈黙、そしてドブ川に響く伝説のスパイの悶絶が混ざり合い、救いようのないカオスへと沈んでいくのでした。



ドブ川に二度落下し、全身から宇都宮県のヘドロの香りを漂わせる伝説のスパイ・泉谷馬人男。しかし、彼が女子寮の特別室から盗み出した音声データには、ヘドロ以上の「粘り気」を持つ衝撃の事実が記録されていました。


​彼は地下シェルターの防音室に籠もり、麻由の個人ファイルをディープ・ウェブ経由でハッキング。そこで、自身の過去と交差する奇妙な接点を見出したのです。


​「……因数分解の解が出た。こいつ、俺の母校、大阪州立 古平(ふるひら)中学校の後輩だったのか……」


​第百九章:古平中学校の「短パン伝説」


​泉谷にとって、古平中学校はスパイとしての基礎(いじめを回避するための気配の消し方)を学んだ地。彼が卒業して数年後、その校庭に「短パンの魔術師」と呼ばれる恐ろしい後輩女子が現れたという噂は、アフリカの戦場にいても耳に届いていました。


​「かつおし……大物が釣れたぞ」


泉谷はハスキーな声で、ギャンブル仲間の権後鰹師(かつおし)を呼び出しました。


​「なんだ、泉谷。出汁の効いたネタか?」


「ああ。麻由だ。あいつ、古平中出身だ。しかも、当時のあだ名は『ハーフパンツ殺し』。彼女が卒業アルバムの撮影を拒否して、個人的に『総司』という男だけに渡したという、伝説の秘蔵写真……その隠し場所を盗聴で突き止めた」


​かつおしは削り節を握りしめ、目を見開きました。「あの短パン卒業アルバムの切り抜き(現在の優勝賞品)以上のマスターピースが存在するのか!? それがあれば、社内の闇市でビットコイン100枚分、いや、ゆりこのダンス1000時間分に匹敵するぜ!」


​第百十章:闇のネゴシエーション


​二人は、社内の「廃棄物集積所」にある、放射能マークが落書きされた錆びたコンテナを取引現場に指定しました。泉谷は、麻由のスマホに「古平中の先輩だ。総司との思い出を返してほしければ、今夜0時、コンテナへ来い」と、暗号化されたハスキーなボイスメールを送りました。


​深夜0時。ヒールの音を響かせ、顔をストールで隠した麻由が現れました。


「……卑怯よ、泉谷先輩。スパイの技術を母校の恥を暴くために使うなんて、ロジカルじゃないわ」


​「ロジックなど戦場にはない、麻由。お前が優夏とのトークで漏らした『総司との教室オナニー見守り事件』の詳細……あれ、音声データで持ってるんだ。これが社長に渡れば、お前の『清楚な第4愛人』の看板は、古平中の土埃にまみれることになるぞ」


​麻由は屈辱に唇を噛みました。


「……わかったわ。そのデータと引き換えに、私が実家から持ってきた『総司専用・秘蔵ネガ』を渡すわ。でも、これを見たら、あなたのスパイとしての理性が壊れるかもしれないわよ」


​第百十一章:コンテナの中の闇取引


​麻由が震える手で差し出したのは、厳重に遮光袋に入れられた一枚の生写真でした。


そこには、教室の机の上に座り、校則限界までめくり上げた短パンから、眩いばかりの太ももを惜しげもなく晒し、冷徹な瞳でカメラ(総司)を見つめる14歳の麻由が写っていました。


​「……おおおおお!!」


かつおしは、あまりの神々しさに膝から崩れ落ちました。「この出汁! この熟成感! 14歳にしてこの『獲物を追い詰める短パン』の角度……まさに芸術だ!」


​「取引成立だ。データは消去……」


泉谷がハスキーな声で言いかけたその時でした。


​第百十二章:ゆりこの「無慈悲な回収」


​コンテナの天井から、ペンギンのぬいぐるみを抱いたゆりこが、重力を無視した動きで降ってきました。


「そかそか、大阪の思い出。なるほどねー、はいよろしくー!」


​「「「あっ!!」」」


​三人の悲鳴も虚しく、ゆりこは「ぐるぐる~」と回転しながら、伝説の生写真を奪い取りました。


「麻由ちゃん、このズボン、短いね。ペンギンの帽子にしてもいい? どどんがどん!」


​ゆりこはそのまま、野生のアウストラロピテクスのごとき速さで、夜の敷地内へと走り去りました。


​第百十三章:翌朝の惨劇


​翌朝、株式会社クーポッツ菊池のロビーには、とんでもないものが展示されていました。


ゆりこが「お気に入り:大阪の短いズボン」という手書きの看板を立て、麻由の伝説の写真を拡大カラーコピーして、全社員の通り道に貼り出していたのです。


​それを見た佐名木ミキは、「あら、この角度なら、当時から痔の傾向があったかもしれないわね。保健室へ来なさい」と分析。社長は鼻血を噴水のように噴き出しながら、「これ、我が社の指定制服にしろ! 男もだ!」と絶叫しました。


​泉谷馬人男は、コンテナの隅で「古平中の誇りが……」とハスキーな声で泣き崩れ、かつおしは削り節を啜りながら虚無を見つめていました。


​宇都宮の夜は、麻由の過去の短パンと共に、誰も因数分解できないほど深く、そして汚らしく更けていくのでした。



宇都宮県の魔窟「株式会社クーポッツ菊池」において、唯一の「正気の港」であるはずの保健室。しかし、そこに駆け込んでくる相談者たちの悩みがまともであるはずがありません。


​ある日の午後、スピリチュアル部門のリーダーであり、常に「幸福の石」を売り歩いている盛山ミチが、いつになく深刻な顔で保健室のドアを叩きました。


​第百十四章:神秘の穴と、スピリチュアルな苦悩


​「ミキちゃん先生……私、もう終わりかもしれません」


​ミチは診察椅子に座るなり、大きな溜息をつきました。


「どうしたのミチさん。石の在庫でも切れた?」


佐名木ミキがカルテを手に尋ねると、ミチは声を潜めて告白しました。


​「私のお尻の穴が……くさいんです。どれだけ高級な除霊水で洗っても、どれだけ念入りに拭いても、拭いても、くさい。おまけに、鏡で見たら……信じられないくらい黒ずんでいたんです。これは、何か悪い霊に取り憑かれている証拠でしょうか?」


​ミキはペンを置き、かつて高校教師として生徒たちの些細な悩み(と、自分自身の離婚やたるんだ尻)に向き合ってきた経験から、慈愛に満ちた、しかし身も蓋もないトーンで答えました。


​「ミチさん、それは『正常』よ。私のお尻の穴だってくさいし、黒ずんでいるわ。みんなそうなの。逆に、そこからラベンダーの香りがしたり、真珠のように白く輝いていたりしたら、それはもう人間じゃないか、重篤な病気よ。いい匂いがしたら、おかしいでしょう?」


​第百十五章:白衣の下の「実証検分」


​「嘘だわ!」とミチは叫びました。


「先生はあんなに肌が白くて歯並びもいいのに、そんな場所が汚いなんて信じられない! 証拠を見せてくれない限り、私のスピリチュアルな不安は解消されません!」


​ミキは絶句しました。元教師として、そして30歳の女性として、全裸尋問のトラウマを乗り越えてようやく手にした今の平穏。しかし、ここは「クーポッツ菊池」。社員の健康(と妄想)を管理する保健医として、時には身体を張った説得が必要であることを彼女は悟っていました。


​「……一度だけよ。他言無用、SNS投稿禁止、箸本勇刀へのリーク厳禁よ」


​ミキは意を決し、診察室の鍵を閉めました。そして、白衣の裾をめくり上げ、ベージュ色のガードルとパンツをゆっくりとずらしました。


ミキの尻は、日々の宇都宮の生活で少し引き締まってはいたものの、やはり年齢相応の「たるみ」があり、肌は白い。しかし、その中心にある「穴」の周囲だけは、ミチの言う通り、はっきりと黒ずみ、複雑なシワが寄っていました。


​「……本当だ。先生の穴も、私のと同じくらい現実的で……黒ずんでる。ああ、なんて落ち着く光景かしら。これこそが真のグラウンディング(接地)だわ」


ミチは拝むようにその光景を見つめ、深く納得しました。


​第百十六章:乙女のプライドと、禁断の質問


​安心したミチは、パンツを上げ直すミキに向かって、さらなる好奇心をぶつけました。


​「ところで先生。それだけリアルなものを持っているなら、やっぱり……お尻でエッチしたこともあるんですよね? スパイの泉谷さんとか、ギャンブルのかつおしさんあたりと」


​ミキは顔をリンゴのように真っ赤にし、震える手で白衣を整えました。


「あるわけないでしょう! 私は普通の、ごく普通の元教師なのよ! あそこは出すための場所であって、入れるための場所じゃないわ!」


​恥ずかしさのあまり叫ぶミキの声を、保健室のドアの外で聞き耳を立てていたゆりこが拾いました。


「そかそか、入れるのはダメ。なるほどねー。はいよろしくー、おまるダンス!」


​第百十七章:平和な(?)保健室の夕暮れ


​ゆりこは、ミキの絶叫を「新しいダンスの掛け声」と勘違いし、廊下でペンギンのぬいぐるみを振り回しながら「出す場所! 入れない場所! どどんがどん!」と踊り始めました。


​ミチは晴れやかな顔で保健室を後にしました。


「先生、ありがとう。私、自分の穴に自信が持てました。明日から『黒ずみ穴の解放』をテーマにした新しい石を販売します!」


​「やめてよ、私の名前を出さないでね……」


​一人残されたミキは、診察室の鏡で自分の尻をもう一度確認し、溜息をつきました。


「……くさくて黒ずんでる。そうよ、これが生きてるってことなのよ」


​窓の外では、ストーンマウンテンカズヒコが「ニムラットジング!」と夕刻の時報を告げ、それに応えるように写木太佳緒里がアウストラロピテクスの真似をして走り去っていきました。


宇都宮県の狂気は、保健医の小さな犠牲によって、今夜もかろうじて「正常」なバランスを保っているのでした。



株式会社クーポッツ菊池の広大な敷地の隅、かつて研修棟として使われていたが今は半ば忘れ去られた「旧校舎」。そこは、キラキラした本社のエリートたちや、爆音を響かせるレパードの影に隠れた、掃き溜めのような掃き溜めではない、異質な吹き溜まりでした。


​放課後のような、しかし終わりのない停滞感が漂う教室で、同期の25歳、社会の底から這い上がることすら忘れた三人がたむろっていました。


​第百十八章:旧校舎の三怪人


​窓際で、長い黒髪をカーテンのように垂らしているのは、掃除部門の小笠原麻友美。彼女は中学時代、一度も教室へ行かず保健室で過ごした「保健室の主」の成れの果てです。


「……カチ、カチ……」


人見知りの彼女は、中学生の頃から愛用している、ファンシーなウサギが色褪せてドロドロになった筆箱からカッターナイフを取り出し、一定のリズムで刃を出し入れしていました。彼女の住処は敷地内の廃屋。夜な夜なカッターを研ぐ音が聞こえるという噂があります。


​「ねえ、聞いてる? 結局さ、世の中ってのは『見せ方』なんだよ」


そう嘯くのは、配管工部門の西道祐輝(さいどう ゆうき)。彼は中学時代、「俺の実家はドバイに豪華客船を停泊させている」という大嘘をつき、後にそれがマツダ・キャロル(姉の所有物)を「名前が変な車」と馬鹿にする程度の家庭環境であることがバレて不登校になった、仇賃ケンタロウと同系統の虚言癖の持ち主です。


​「……腹減った。カップラーメン食べたい。ハムって呼ぶなよ」


床に座り込んで、格納庫から持ってきた菓子パンを貪っているのは、掃除部門の綿鍋ユート。あだ名は「ハム」。童貞であることへの卑屈さと、カップラーメンをいかに美味しく作るか(お湯を少なめにする)という情熱だけで生きています。


​第百十九章:ゆりこへの嫉妬と「どどんがどん」批判


​西道は、買い物用のカート(私物)に寄りかかりながら、毒を吐き出しました。


「あのさ、正直納得いかないんだよな。なんであの『ゆりこ』って女ばっかり、社長に甘やかされて、みんなにチヤホヤされてるわけ? ロビーでレジャーシート敷いてるだけだろ?」


​「……カチ。……そうよ。……私は廃屋で、必死にカッターの錆を落としてるのに……。ゆりこは、ペンギンのぬいぐるみ持ってるだけで、ボーナスもらってる……」


麻友美が消え入りそうな声で同意しました。


​「しかもあの『どどんがどん』とかいうダンス。あんなの、俺がドバイの別荘で開いてたパーティーの余興にも劣るぜ」


西道の嘘に、ハムが「……別荘なんてないだろ」と冷たくツッコみました。


「それより、あの『ポケチン』とかいうのも気に入らない。俺みたいなデブは、腰を振るだけで息が切れるんだよ。不公平だ」


​第百二十章:掃除部門の意地とカッターの誓い


​三人は、自分たちがこの会社において「掃除」や「配管」という、汚れ仕事を一手に引き受けているという自負(という名の被害妄想)を持っていました。


​「……掃除部門を舐めないで。……私がカッターをカチカチさせれば、床のガムテープの跡なんて、一瞬で剥がれるんだから」


麻友美が少しだけ顔を上げ、不気味な笑みを浮かべました。


​「俺だって配管工だ。ストーンマウンテンの奴が床で出したデカいうんこを、水圧一発で流してやってるのは誰だと思ってるんだ? 俺がいなきゃ、あの女子トイレは今頃バイオハザードだぜ。俺の所有する豪華客船のトイレなら、金箔が貼ってあるから詰まらないけどな」


​三人は、自分たちこそがこの狂気の会社を影で支えている「真の主役」であると語り合い、慰め合いました。


​第百二十一章:窓の外の「現実」


​その時、校庭をペンギンのぬいぐるみを抱いたゆりこが、おまるを持ってボケーっと横切っていきました。


ゆりこは旧校舎の窓を見上げると、三人の存在に気づき、笑顔で右手を挙げました。


​「そかそか、暗いところで三人のハム。なるほどねー、はいよろしくー!」


​「ハムって言うな!!」


ユートが叫びましたが、ゆりこは既に「どどんがどん」とステップを踏みながら、社長室の方へと消えていきました。


​「……やっぱり、あいつには勝てないわ……」


麻友美はカッターを筆箱にしまい、長い髪で顔を隠しました。


西道は「ま、俺のキャロル……じゃなくて豪華客船が届いたら、あいつもビビるはずだ」と虚空を見つめ、ハムは残ったパンの屑を拾い集めました。


​宇都宮の夕暮れ、エリートたちが集う本社の裏側で、この三人の「同期」によるグダグダとした駄弁りは、夜が更けるまで続くのでした。





宇都宮県の魔城「株式会社クーポッツ菊池」の本社講堂は、かつてない国際的な熱気に包まれていました。菊池社長の鼻血の量も、世界情勢の緊迫と共に増量傾向にあります。


​「フォッフォッフォ! 世界の精鋭たちが集まったのう。さあ、宇都宮の地で、人類の未来を因数分解しようではないか!」


​第百二十二章:多国籍な精鋭たちの集結


​会議室に現れたのは、各国の支部を支える異能の持ち主たちでした。


​まず、中国支部から来たタン・クンクン(19歳)。元マーチングバンドの指揮者らしいシャキッとした動きを見せつつも、「ええ〜、宇都宮の餃子、かわいくな〜い?」と天然ぶりっ子を振りまき、和英穂乃果から「あのアマ、計算ね……」と即座に敵視されます。


​続いて、カリフォルニア支部から伝説のベテラン、陳珍(チン・チン・54歳)。あの泉谷馬人男をプロのスパイに育て上げた師匠です。かつてはその名前を笑う不届き者もいましたが、今や彼の前では誰もが沈黙します。彼は泉谷にハスキーボイスで「師匠、お久しぶりです」と挨拶されると、「……イズミヤ。後で宇都宮の最高のおっパブへ案内しろ」と、重厚な口調で欲望を口にしました。


​ロンドン支部からは、180センチの長身を誇る美人、マデリン・イルヴァンス(26歳)。清楚なホワイトのブラウスから覗く脇には、少しだけ剃り残したジョリジョリとした産毛があり、それを見た温川優夏は「……ブリティッシュ・ラフ・アートだわ」とキャンバスを広げました。マデリンは秋葉原で購入したセーラー服のコスプレキットを大事そうに抱え、「日本の美術品(アニメキャラのフィギュア)は素晴らしいです」と目を輝かせています。


​さらに、サウジアラビアの石油王の息子でありながら、なぜか韓国支部で働くサイクルアフタル。彼は広東語で「この会社の排泄エネルギー、原油より効率いいんじゃない?」と、買収されたハルカたちに鋭い質問を投げかけます。最後に、フランス人のミランが、ブルガリア支部の中古品物流のノウハウを引っさげ、ミサキの生レバー仕分け速度をストップウォッチで計測し始めました。


​第百二十三章:世界情勢とライバル企業の脅威


​議論の中心は、宿敵「パナ・ソルト社」の不穏な動きについて。


「パナ・ソルトは今、AIを使った『全自動おまるダンス』を開発中らしいわ」


ユリエが英語キャンプの成果を活かした流暢なプレゼンを行うと、マデリンがジョリジョリした脇を気にしながら手を挙げました。


​「ロンドン支部の情報では、パナ・ソルトは宇都宮の『ポケチン』を模倣し、磁力で必ず勝てる『イカサマ・チン』を市場に流そうとしています。これは文化の盗用ですわ」


​これを聞いた陳珍が、机を叩いて立ち上がりました。


「……甘いな。奴らの技術など、おっパブのサービス向上にも役立たん。我々が次に開拓すべきは、『精神的な排泄』。つまり、菖子君やミキ先生が抱えるような、心の黒ずみをエネルギーに変える新事業だ」


​第百二十四章:活躍する社員への「査定」


​サイクルアフタルは、石油王の余裕を漂わせながら、社員たちの働きを評価しました。


「あの、旧校舎にいるカッターを鳴らす女(麻友美)……。彼女の集中力は、中東の暗殺者も顔負けだ。あと、あの豪華客船を持っていると言い張っている男(西道)。彼の嘘は、もはや一つの国家予算を動かすレベルのスケールだね」


​タン・クンクンは「クンクン、ゆりこさんのダンスに感動しちゃいましたぁ〜! あれ、マーチングバンドに取り入れたら世界一になれま〜す!」と、ゆりこのおまるダンスを高く評価。


​これには社長も大満足で、小平結依葉に対し、海外支部との合同プロジェクト「グローバル・どどんがどん計画」の立案を命じました。


​第百二十五章:カオスな懇親会


​会議の後、友美のバー「あみだくじ」で歓迎会が開かれました。


​マデリンは秋葉原で買った制服に着替え、180センチのセーラー服姿で「ニッポン、最高です!」と酒を煽ります。その隣で陳珍は、泉谷と共に「古平中学校の短パン伝説」について熱く議論し、サイクルアフタルはハルカの「黄金のバナナ」に投資することをその場で決めました。


​そんな中、窓の外では小笠原麻友美がカッターをカチカチさせながら、海外勢の気配を廃屋から監視し、ハム(ユート)はフランス人ミランに「カップラーメンの残り汁の再利用法」を熱弁していました。


​ゆりこは、タン・クンクンと一緒にペンギンのぬいぐるみを振り回し、「そかそか、チャイナのクンクン。なるほどねー、はいよろしくー!」と、国境を超えた友情のステップを刻んでいました。


​宇都宮の夜は、多国籍な言語と、剃り残した脇のジョリジョリとした音、そして「ポケチン」の残響が混ざり合い、世界征服への第一歩を確実に踏み出していくのでした。