18話はこちら



19.


風呂から出た後、


増川さんと升さんは


酒を飲み直すと言っていて


藤原さんと直井さんは


酒は飲まないけど、


2人に付き合うと言っていた。


俺は、先に寝て良いよと言われて


先に布団に入ったけど、


なかなか寝付けずにいた。


いつも、隣にいる藤原さんがいないだけで


少し、寂しい気持ちになる。


1人には慣れていたはずなのに・・・・。


気付くと、さっきまで聞こえてたはずの


笑い声が消えている。


気になって、襖を開けると


4人とも、テーブルの横で


寝てしまっている。


このままでは、風邪を引いてしまうと


思って、1人1人に布団を掛けて、


寝つけずにいる俺は、そっと庭に出た。


空に浮かぶ星・・・・。


1人で見上げる星空は、


やっぱり切ない気持ちになる。


死んだ人間は星になると教わった。


それが本当だったら、


父さんもそこにいるのかな・・・・。


ふと、肩に温もりを感じた。


振り返ると、そこには


寝起きの顔した藤原さんがいて


ブランケットを掛けてくれていた。



「風邪引く。」



「あ、すいません。」



「寒いな。」



「俺、大丈夫ですからこれ・・・。」



俺から、ブランケットを受け取ると


大きく広げて、頭から2人を包む。



「2人で入った方が、あったけー。」



「そうですね。」



すぐ隣にある藤原さんの温もり。


1人より2人の方が温かかった。



「星、好きなの?」



「綺麗だと思います。ただ・・・・。」



「ただ?」



「星を見ると、切なくなります。」



「そっか。」



「死んだ者が星になるって話、


 本当ですか?」



「知らね。


 でも、お前が本当だと思うなら本当だし、


 嘘だと思うなら嘘になるんじゃね?」



「・・・・・・・。」



「信じるも、信じまいもお前次第だろ。」



「そうですね。」



無数に広がる、この星の中に


きっと父さんはいる・・・・。



「死んだ親父さんの事?」



「はい。」



「恨んでないの?」



「恨む?」



「だって・・・・。」



やっぱり、あの時


藤原さんは、園長から話を聞いたんだ。



「恨んでなんかないですよ。


 悪いのは俺ですから。


 俺が、生まれなければ


 父は、母と幸せになれた。」



「ほんとにそう思う?」



「はい。


 俺なんか、生まれてこなければ


 良かったんです・・・・。」



「俺は、お前が生れて来てくれて、


 生きていてくれて


 嬉しいと思ってるよ?」



「藤原さんだけですよ。


 そう思ってくれるのは・・・。」



「俺だけじゃ不満?」



「不満なんて、そんな事・・・・。」



「じゃぁ、俺の為に生きろよ。」



「え?」



「1人でも、生きていて欲しいと思う人間が


 いるなら、生きていなきゃいけないって


 言っただろ?」



「はい。」



「俺が、お前にとっての


 その1人になる。


 お前の、生きる意味に俺がなる。


 過去を忘れる事なんか出来ねーけど、


 俺の為に、今を生きてくれ。」



「俺が生きる事が、


 藤原さんの為になるなんて。


 そんな事・・・。」



「あるんだよ。


 そんな事ある。」



「やっぱり、藤原さんは


 変な人です。」



「変でも良いよ。


 お前がそうやって笑ってくれるなら。」

藤原さんは、俺に


色んな物を与えてくれる。


幸せな気持ちも、生きる意味さえをも。



「光。


 生まれてきてくれて、ありがとう。」



初めて貰う言葉に、


うまく言葉が出てこない。


お礼をいわなきゃいけないのは俺なのに。


藤原さんに、感謝の気持ちを伝えるのに


やっぱり、『ありがとう』じゃ足りないよ。



「名前で呼ぶの初めてかも。


 なんか、緊張した。」



狭いブランケットの中で


小さく笑う藤原さんに


少し、心臓がドキドキする。



「そろそろ、寝るか。」



「そうですね。」



2人で部屋の中に戻ると、


中の3人は、まだ眠ったままで、


起こした方が良いのか迷った末、


そのままにしておこうという事になった。


再び、布団に入る。


さっきと違って、隣には藤原さんがいる。


家にいる時と同じ


温もりを感じながら、目を閉じた。




続く

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18.


星を見ると、死んだ父を思い出す。


だから、あまり見ない様にしていた。


でも、藤原さんと一緒に見る星空は


今までと違った顔を見せる。


とても綺麗で、儚い。


それでも、輝き続ける。


そんな星をずっと見ていたいと思った。


すると、いきなり藤原さんが


後ろのガラスを開けた。


何事かと、そこには


直井さん、升さん、増川さんの3人が


重なる様にして、こっちを見ていた。



「お前ら・・・・。」



「やべっ!」



散り散りに、3人が逃げて行く。



「なかなか、帰って来ないから


 心配して見に行っただけだよ!」



「そーだよ!そしたら


 藤くんが、ひーちゃんにチュー


 しようとしてたから


 出て行けなかったんだよ!」



「んな事するか!」



「そう!しなかったんだよ!


 見つめ合って、これからって時に!」



「怖気づいて、空なんか見上げちゃってさ!」



「この意気地無し!!」



「なんだと!?」



みんな、言いたい放題だ。


でも、やっぱり楽しそう。



「はぁ~あ、酔っ払ったぁ。」



言い合いをしてたと思ったら、


急に座りだした増川さん。



「ヒロ、自由過ぎ・・・。」



「でもさ、それがこいつの良い所だから。」



「そーだね。」



「よし!!風呂!!」



座ったばかりの増川さんが


服を脱ぎ出した。



「お前・・・。」



「藤くん、もう諦めよ・・・・。」



「諦めて、みんなで風呂行こう。」



自由過ぎる増川さんに、続いて


みんな服を脱ぎ始めた。



「ひーちゃん、先に行ってねぇ。」



「あ、はい。」



すっかり酔いが冷めてしまった俺は


皆の、バスタオルと浴衣を用意して


露天風呂へと向かった。



「やっと来た!」



「ひーちゃん遅かったね。」



「あ、浴衣とバスタオルを探してたら


 遅くなっちゃいました。」



「忘れてた。ありがと。」



体を、少し流して


初めての露天風呂に入る。


外の空気は、凍えそうに冷たいけど、


温泉は温かくて、気持ちが良かった。



「やっぱ、冬は温泉だよねぇ~。」



「うんうん♪」



「意外と広いな。」



「5人で入っても、余裕だね。


 まぁ、大人が3.5人みたいなもんだし。」



「確かに。


 藤くん、ヒロ、ひーちゃんの3人で


 1.5人だもんね。」



「悪かったな。」



「全然悪くないよ。だって


 おかげで、みんな入れた訳だし。」



「そうそう。」



「しかし、ひーちゃんて本当に


 男の子だったんだね。」



「まだ、信じてなかったのかよ。」



「んー。だって、


 実際に見た訳じゃなかったし。


 藤くんは、初めて会った時


 勘違いしなかった?」



「あんま、気にしてなかった。」



「気にしろよ!下手したら


 犯罪者だよ!?」



「なんで犯罪者なんだよ。」



「だって、


 もし未成年の女の子だったら


 どーすんの!?」



「そしたら、とっくに警察に届けてる。」



「そーかもしんないけど。」



「大丈夫。後にも先にも


 拾うのはこいつだけだから。」



「俺は信じない!!」



増川さんがいきなり立ち上がった。



「だから、大丈夫だって。」



「いや、信じない!!


 ひーちゃんが男だなんて!!」



「そっち!?」



「そっちか。」



「ヒロ、お前の気持ち


 良く分かるよ。」



「だろ!?」



「分かるけど、こればっかりは


 しょうがないだろ。」



「しょーがなくない。


 だって、どー見たって女の子だろ! 


 濡れた髪、赤く染まる頬・・・・やべ!」



増川さんが、再び座る。


確かに、よく女の子と間違われるけど、


一緒に風呂に入ってるのに、


まだ、信じてくれないのだろうか・・・・。



「お前!!」



「エロな目で、ひーちゃんを見んなよ。」



「そーだ。見んな見んな。」



「おっけおっけ。


 しばらく、秀ちゃんを見てる。」



「俺か!?」



「うん。治まるまで。」



「俺で良いなら、どーんと見てくれ!」



立ち上がった升さんが、


増川さんにお尻を向ける。


それを見た、3人が大爆笑。



「やっぱ、秀ちゃんのケツは良い!!」



「だよな。」



「だね。」



「しかも、至近距離!」



「余計なモノまで、見えてるよ。」



「大サービス。」



「その、サービスいらねぇー!」



「いや、いるだろ。」



「いるいる。」



盛り上がる4人。


施設の、大浴場も


こんな感じだったのかな。


俺は、いつも皆と時間をずらして


1人で入っていたから分からないけど。



「楽しんでる?」



ふと、藤原さんに声を掛けられた。



「ごめんな。俺らだけ盛り上がってて。」



「いえ、楽しいです。」



「そう?」



みんなで入るお風呂が


こんなにも楽しいなんて


知らなかった。



「連れて来てくれて


 ありがとうございます。」



「いや・・・・ふふ。」



藤原さんは、少し照れくさそうに笑う。


こんな幸せな気持ちをくれた藤原さんに


感謝の気持ちを伝えたかった。


『ありがとう』じゃ足りないのに


出てくる言葉は、やっぱり


『ありがとう』で、それ以上の言葉は


見つからなかった。





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17.


旅館内を散策した後、


部屋に戻ると、


豪勢な料理がテーブルに


並べられていた。



「おぉ!!」



「すげー!!」



「こんな、豪勢なの久々じゃん。」



歓声を上げながら、


それぞれ、席に座る。



「俺、ひーちゃんの隣♪」



「俺も♪」



「お前ら、ずりーぞ!!」



「早い物勝ちだもんね!


 ひーちゃんここ座って♪」



直井さんと、増川さんの間の席。


座って良いものか、迷っていると。


藤原さんが、向かいの席に座っている


升さんに、移動してとゼスチャーをする。


そして、


直井さん、升さん、増川さんが並んで座り、


向かいの席に、俺と藤原さんが


座る事になった。



「結局、ひーちゃんは


 藤くんの隣になるのか。」



「あ、でもひーちゃんの反対隣は


 空いてるからそっちに座る!」



移動しようとする増川さんに


藤原さんが一言。



「いいから、そっちに座っとけ。」



「ちぇっ」



「まぁまぁ、ほら


 ビール注いでやるから。」



「チャマ、俺にも。」



「OK!いくらでも注いでやるよ。」



「じゃぁ、チャマには俺が。」



仲良く、ビールをグラスに注ぎ合っている。


でも、誰も藤原さんに注ごうとしない。



「ひーちゃん、グラス。」



「いや、あの・・・。」



「あれ?未成年?」



「そうじゃないんですけど、


 俺、お酒飲んだ事ないので・・・。」



「じゃぁ、飲んでみようよ。」



「でも・・・。


 あ、藤原さんは。」



「藤くん、飲めない人だから。」



「そうなんですか?」



「そうなの。


 だから、藤くんにはこれ。」



直井さんが、オレンジジュースと


ラムネを渡した。



「サンキュ。わざわざ持って来たの?」



「来る途中で買った。」



ジュースは分かるけど、


なぜ、ラムネなんだろう。



「俺の事は気にしないで、


 飲んでみれば?」



「あ、はい。」



「それでは、ひーちゃんの初旅行に


 かんぱーい♪」



「「「乾杯!!」」」



直井さんの号令で乾杯をする。


みんな、凄い勢いでグラスの中身を


飲み干した。


俺も真似をして飲もうとしたけど、


慣れない炭酸と、初めてのビールで


なかなか入っていかない。



「どう?初めての酒。」



「苦いです。」



「俺も、最初は


 こんな苦いもん誰が飲めるか!!って


 思ったけど、慣れるとウマイんだよ。」



「特に、ライブの後とかね!


 あ・・・。」



「仕事の後だろ?」



増川さんの言葉を、直井さんが訂正する。



「こいつ、言語障害だから。


 思ってる言葉と、声に出る言葉が


 時々、違うんだよ。」



「そうなんですか。


 大変ですね。」



「そーなだよ。


 でも、酒が入ると絶好調になるから


 大丈夫。」



そう言って、再び注がれたビールを


飲み干す。



「ひーちゃん、どんどん飲んで


 どんどん食べな。」



「はい。いただきます。」



ビールは苦いけど


初めて食べるご馳走は、


どれも美味しかった。



「うまいか?」



「はい。」



「酒も平気?」



「なんか、ポッポしますけど


 多分大丈夫です。」



「じゃぁ、どんどん飲みなよ♪」



2杯目の注がれたビールを


少しずつ飲んでいたら、


なんだろう・・・・。


フワフワする・・・・。


みんな、食べて、飲んで、話をして


楽しそうだ。


そんな光景を見ているのが


楽しくて、嬉しくて、でも悲しくて・・・・。



「大丈夫?」



心配そうに、藤原さんが


顔を覗き込んでくる。



「大丈夫です・・・。」



言葉と同時に、涙がこぼれた。



「ひーちゃん!?」



「大丈夫!?」



せっかくの楽しい風陰気が


台無しにしていまう。



「こいつ、酔っ払ったみたいだから、


 ちょっと外に連れてく。」



「すいません・・・。」



「大丈夫。


 こっちは楽しくやってるから、


 気にしないで休んでおいで。」



藤原さんが、腕を掴んで


俺を、庭の方へと連れて行く。


外に出ると冷たい風が頬を撫でる。


縁側に腰をかけると、


例えようのない感情が暴走して


さらに、涙がぼたぼたと溢れてきた。


そんな、泣きじゃくる俺の横で


藤原さんは黙ったまま


頭を撫でてくれる。



「す・・いません・・・。」



「いや、良かれと思って連れて来たけど、


 お前にとっては、楽しくないよな。


 ごめんな。」



「楽しいです・・・。」



「無理しなくていいよ。」



「本当です。楽しくて、嬉しくて・・・。


 辛いんです・・・。」



「なんで、楽しくて嬉しいと辛いの?」



「・・・・ぅから・・・。」



「ん?」



「願ってしまうから・・・・。」



「何を?」



「い・・・一緒に・・・いたいって・・・。」



「・・・・・・・・。」



「この・・・幸せな時間が・・・


 続けばいいって・・・・。


 願っては・・いけな・・・いのに・・・・。」



今日の俺は、変だ。


言ってはいけない言葉が


涙と一緒にこぼれてしまう。



「いいじゃん。


 願ったって。」



「叶わないから・・・・。


 俺の願い事は・・・叶わないから・・・。


 一緒にいたいって願ってしまったら


 みんな・・・・・いなくなっちゃう・・・。」



「そんな事ない。」



「だって、母も・・・父も・・・・・先生も・・・。


 だから・・藤原さんも・・・・・。」



ぐいっと、大きな手で、顔を包まれる。



「ちゃんと見ろ!


 俺は、ここにいる。


 いなくなったりなんかしない!」



「でも・・・・。」



「一緒にいたいと思うなら、いればいい。


 願い事は、自分で叶えるもんだろ。」



「そんな事、俺には出来ない・・・。」



「お前の親とか、先生とか、


 その頃は、どうしようも出来なかったかも


 しんねーけど、


 今のお前なら、叶える事が出来る。


 お前が一緒にいたいと思うなら、


 そばにいるよ。ずっと。」



「そんな、迷惑・・・掛けられない・・・。」



「一緒にいる事は、迷惑なんかじゃない。


 それに、俺がお前と一緒にいたいんだよ。」



「・・・・ほんと・・・?」



「ほんとだよ。」



そっと、藤原さんが微笑んだ。


その瞬間、苦しくて、辛かった心が


軽くなった。


俺は、何度この微笑えみに


救われただろうか・・・・。


俺がお前と一緒にいたいんだよ。


その言葉に、また涙がこぼれた。


知らなかった。


人って、嬉しくても涙が出るんだ。



「やっとだな。」



「え?」



「やっと、お前の笑顔が見れた。」



嬉しそうに笑う藤原さんは、


俺の頬から手を離すと、空を見上げた。


同じ様に、見上げた空には


綺麗な星空が広がっていた。





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