マドゥライに着いた朝、駅の近くで荷物のひとつを落として失くしてしまった。友達へのプレゼントにとオーロヴィルで買った手すきの紙で、とても気に入っていたし、友達の喜ぶ顔が目に浮かぶようだったので本当にショックだった。カライクディへのバスの中でも、着いてからもその日一日中、なんとなくその気分を引きずっていた。
バスでカライクディに移動し、ホテルについて一息。はてさて、チェッティナード…糸口がなく、どうしたものか。近くの評判の良いお店でランチをとってみたが、ピンとこない味だった。
夜にもう一つ評判の良い店に行ってみたら、今晩のメニューはブリティッシュと、チェッティナードのミックススタイルだと言われた。純粋なチェッティナード料理はランチを食べに来いとの事。やや迷ってそのままディナーを食べる事にした。ダメ元で料理を勉強しに来ていて、チェッティナードスタイルをもっと知りたいと話してみた。オーナーを紹介してもらい、色々話していたら、明後日の14時に来なさいと言ってくれた。料理を教えてくれるそうだ。
なんとなく八方ふさがりかもと思っていた所に光明がさし、少しホッとした。
が、それは束の間だった。
出てきたこの日の夕食がそれほど美味しくなかった。
おまけに、給仕スタッフに料理のことを尋ねても「ベジタブル」としか返って来ない。料理の説明が出来ない(そこそこ良いレストランなのに)事に不安を覚えた。
大丈夫かな…このレストラン…。
僕はベジタリアンのコースメニューを頼んでいるわけで、出てきた物がベジタブルなのはわかる。見たらわかるし、なんなら出て来る前からベジタブルなのは分かっている。
もっと詳細を伝えてくれ、料理名を言ってくれ、内容を話してくれ、と何度も何度も繰り返してやっと帰ってきた答えが「トマト」と一言。
うんうん、トマトね。僕も入ってるやろなーと思ってた。見た目も赤いし、味もトマトやしぜったいトマトやろなーと思ってたよ。
と思いながら、それから?他は?と聞いてみたらニコニコしながら立ち去っていく。
僕たちの会話はリアル志村けんと、いかりや長介だった。
ここで機転が利いたのは、だめだこりゃ、次行ってみよう!とすぐに切り替えた事だった。
僕は一番キビキビと動き、ニコリともしない一人の人物に的を絞って話しかけた。彼は、はるかにちゃんと説明してくれた。
ただやはり、味の印象は良くなかった。僕は一抹の不安を残したまま、場を後にした。今朝の落し物の事もまだ少し尾を引いていた。
翌日、同じお店のランチへ。純粋なチェッティナードスタイルのランチを楽しみにしていた。
カライクディに来て以来、ヒットなし。
おまけに、ピッチャーゴロが二打席続き、やや追い込まれていた感があったけど、このランチは会心の一撃となった。
このランチはとても美味しく、バランスや彩も綺麗だった。なるほど!と思わせる味がある。
このランチがダメだったら翌日のクッキングクラスはキャンセルしようかと迷っていたけど、この迷いが払拭された。
変わって次の日、約束の時間に料理長のポンディさんを訪ねたが、ポンディさんは今日はお休みとのこと。う〜ん…初日に挨拶した時には、私が教えてしんぜよう!みたいな感じだったのに…。
替わりにと出てきたのは事務所にいたお母さん。私はここでデモンストレーションを何度もしてるので大丈夫よ、と言う。僕も彼女を信じてみようとおもった。
彼女はミナ。あらかじめ材料を揃えていて、段取りも悪くない。僕の質問にも、丁寧に答えてくれた。
ミナは次々に4つの料理を仕上げてくれて、出来上がりはどれも絶品だった。僕のチェッティナードスタイルを勉強したいという意向を汲んでのことだろうか…、ほんとに素晴らしいストロングスタイルな料理たち。
昨日のランチの気になるレシピも教えて欲しいと言ったらこれも教えてくれた。
この経験は料理とスパイスの関係を知るのにとても役に立った。ただしやはり自分で作って実践しなければ身にならない。手から生み出せるようになってはじめてふにおちる。早く作ってみたい気持ちが膨らんでくるが、まだしばらく旅は続く。
ホテルに帰った僕は、撮影した写真を眺めながら何度もイメージを繰り返し思い描いてみた。
チェッティナードスタイルのランチ
スパイスセット
ミナのレッスン
この4つはどれも美味しかった
ポスターをムシャムシャ食べるヤギ
新聞紙に包んだ手すきの紙、これが最後の後にお別れする事になった。