入れ歯がこわれました。正確に言えば、上の入れ歯を、

左部分四分の一くらいのところから縦に割ってしまったのです。

長い時間をかけてやっと出来上がり、快調に使っていたのに残念でした。

 

硬いものを頬張ってから、強く噛みしめようとすると、

ほんのわずかな沈み具合の差があるようです。

結果、薄いプラスチック製の入れ歯に不均衡な力がかかり、

割れてしまいました。

 試用期間中の前回の壊しはフランスパンでしたが、

今回は干し芋でした。

ガタつきもなく違和感も全くないので、つい調子に乗って力を加えた結果でした。

 

これまでの試用期間中に上下の入れ歯を、一回づつ割っているので、

さほど慌てはしませんでした。

クリニックに連絡してから行けば小一時間で修理をしてもらえるからでした。

 

ただ今回は違いました。仕事で名古屋に来ており、

日程を調整しても、三日ほどはクリニックに行けず、

そのままで過ごさねばならないからでした。

 

三日も歯なしで、フガフガ言って過ごすのかと、目の前が暗くなります。

 

割れた入れ歯をよく見ると、幸いなことに、

二つに割れた小さいほうにも、磁石がついていました。

割れた入れ歯は丸々のこった歯と、口蓋への吸着と、

切り株状に残した歯に磁石をセットしたものをあわせて、

全体としてに安定性を高めています。

 

試しに、それぞれ別々に、口に入れてみると、

ぴったり合って、動きません。

バンザイ、ほおばって食べなければ、ほぼ、普段とおりに過ごせます。

 

 こうして何とか三日間を無事に過ごすことができました。

休みの取れた当日、さっそくクリニックに飛んでゆきました。

先生は患者さんの治療で忙しかったので、主に技工士さんが対応してくれました。

パカッと割れたものをどうやって修理するのか興味があったので、

いろいろ質問してみました。

私には瞬間接着剤でくっつけるくらいしか思いつきません。

聞いてみると瞬間接着剤で仮留め、石膏で型取り、

割れた部分をフィンガージョイント(指と指を組み合わせるような)加工、

プラスチックの流し込み、仕上げの磨き。

とまあこんな感じだそうです。

 いつもなら個室の待合室でゆっくり待てるのですが、

今日は満員。やむを得ず外で小一時間時間つぶしです。

 歯のない状態では格好が悪いでしょうと、

マスクを貸してもらい、外出しました。

 戻ると修理は終わっていて、継ぎ目など全く分かりません。

あとは噛み合わせの調整です。

これが意外に時間がかかりました。

最初修理の終わった入れ歯をセットして、カチカチ噛み合わせると、

技工士さんは音でわかるらしく、すぐ外して微調整。

 

音がよくなったところで、色付きのフィルムを噛んで歯をギシギシ。

フィルムの色の抜け具合、歯に均等に色がつくか、

そのたびに技工室に戻り微調整の繰り返しです。

 

なんでもこのフィルムは1000分の8ミリの薄さだとか。

普通の歯医者さんで使っているフィルムの

四分の一ほどの厚さのものだそうです。

この薄さのものを噛んで均等に歯に色がつくようであれば、

噛み合わせはOK

繊維質のものでもすりつぶすように食べられるとのことでした。

先生の治療もありがたいのですが、

技工士さんの職人芸的な話を聞くのも、楽しいものでした。

結局1時間半ほどで元通りの快適な状態になり、

お昼のごはんもよく噛めて、おいしくいただきました。