「楽園」が一つ消えました。「楽園」と呼ぶには少し大げさな気もしますが、私にとって銭湯は心も体もリラックスできる最高の場所になっています。特にお酒が入った後の風呂は何物にも代えがたい、気持のよいものです。

 

仕事仲間に誘われて、外でお酒を飲んだ後、そばに銭湯があれば帰りがけにそこに寄るのが最近のお約束になっています。先日も例によってほろ酔い気分で銭湯に行きました。自動ドアが開いて、下足箱を見て驚きました。カギにあたる木の札が少ないのです。下足箱を利用する人が多い、つまりお客の数が異常に多いということです。

 

夜の10時過ぎです。男女合わせて十数人が普通です。何かあったのかフロント(番台ではありませんここはフロントタイプなのです)のお姉さんに聞いてみました。

 

そうしたらなんと、今日が最後の営業日で、常連さんや、銭湯好きの人たちが名残を惜しんで大勢来てくれているとのこと。私は、常連さんではありませんが、近くで飲んだ時は必ずといってよいほど寄っていたので驚き、がっかりしました。

 

こちらのぬるめのお湯は、軽くアルコールの入った体に優しく、手足を伸ばして湯船につかると本当にリラックスできて、「うーん最高」という言葉が思わず口に出る場所でした。

 

200円也でお風呂セット(タオル、石鹸、カミソリ、歯ブラシが入っています)を買い

脱衣場から洗い場に入ると30以上あるカランは8割がた埋まっています。

 

空いているところに入れてもらい、体を洗って湯船に入りました。湯船から洗い場を眺めると、ずらっと並んだ人の姿は、遠い昔の子供のころの銭湯の光景を見ているようでした。隣りの女湯から聞こえてくる女性客のおしゃべりの声、洗い桶が床にあたるコーンという音、湯船から上がるお湯の音、シャワーの流れる音、これらが湯気の中で混然一体となって夢見心地にさせられます。

 

きっと毎日こんな客の入りであれば、営業は続いていたのだろうな、などとぼんやり考えていました。残念ではありますが「楽園」最後の日に立ち会えたことがせめてもの慰めです。

 

ぬるめのお湯にゆっくり浸かり、脱衣場に戻ったのは11時を過ぎていました。終了まであと20分もないという時になってもまだお客が入ってきます。

 

一人はリュックを背負い、いかにも遠くからこの日のために来ました、いう感じの人で、服を脱ぎながら、周囲の人にあれこれ話しかけ、「ここがなくなるとこの近くにはどこがあるのか」だとか、「この沿線では○○湯が駅近で良い」だとか「□□湯の親父は元気で気持ちがいい」だのいろいろ話していました。

 

私は大体お酒とセットでお風呂屋さんを知っている程度でしたので、これを機に新たな「楽園」探しをせねばと思っているところです。