阪神タイガースは9月14日、巨人を4―3で下し、18年ぶり6回目のセ・リーグ優勝を果たしました。
甲子園球場で行われたこの試合は、神戸市に本社がある地方局の「サンテレビジョン」が生中継。
翌15日にビデオリサーチは関西地区の平均世帯視聴率が20.8%、平均個人視聴率が13.4%を記録したと発表しました。
サンテレビはいずれのテレビネットワークにも属さない独立UHF局です。
独立UHFとしては驚異的な数字でした。
通常、独立UHF局の視聴率は発表されないが、今回はビデオリサーチが社会的な関心を鑑み、サンテレビの協力を受けて異例の特別集計をしました。
関西地区の調査地域を調査フレームとして無作為に抽出した1200世帯を元にして算出しました。
調査対象にはサンテレビが視聴できない世帯(京都府の一部、滋賀県・奈良県・和歌山県のほぼ全域)が含まれているなかでの高い数値となりました。
サンテレビ編成局によると、1997年のビデオリサーチ社の調査開始以降では、同局のプロ野球中継で最高視聴率となりました。
この試合のテレビ中継をしたのはサンテレビだけで、地上波全国ネットやBSでの放送はありませんでした。
民放キー局のプロデューサーは「視聴率日報を目にしてびっくりしました」と言います。
「関西地区で『ソノタ』という番組が、午後6時から午後7時の間で世帯視聴率が18.0%、午後7時から午後8時で28.0%、午後8時から午後9時で何と36.2%。個人視聴率も23.2%と非常に高く、占有率は58.9%と凄まじい数字でした。これほど関心を集めた番組となると、『ソノタ』が、サンテレビさんの『阪神―巨人戦』であることは明らかでした。阪神の優勝が決まったのは午後8時49分でしたが、岡田彰布監督の胴上げやインタビューなどがあったからでしょう、午後9時から午後10時も世帯21.8%と高視聴率をキープしていました」
阪神タイガース優勝を受け、在阪準キー局の一部も特番を組んで放送しました。
ところが、こちらの視聴率は意外にも伸びませんでした。
「大阪のABC(朝日放送)テレビが午後11時10分から『虎バンSP あかん阪神アレしてもた!!』を放送しましたが、世帯6.2%、個人3.5%、占有率24.1%と、イマイチの結果に終わりました。毎日放送(MBS)も午前0時31分から『阪神AREしたよん! ~18年ぶりの優勝やねん! ~』を放送しましたが、こちらは世帯1.4%でした」(同・プロデューサー)
東京のキー局では「サンテレビ開局以来の最高視聴率では!?」と話題になったというそうです。
その後にビデオリサーチの発表を元に新聞各紙が記事を配信しました。
「1997年にビデオリサーチが調査を行うようになって以降、サンテレビでは過去最高の視聴率となった」と伝えられました。
この日はどのような放送内容だったのかというと、「午後6時から阪神戦の中継を開始しました。午後8時49分に優勝が決まり、胴上げや岡田監督の優勝インタビューをお伝えすると、午後9時半過ぎに放送を終了。その後、通常番組を流してから、午後10時40分から午前2時40分までの4時間、優勝特別番組を放送しました。内容は岡田監督や選手の会見、祝勝のビールかけなどの生中継が中心で、今、阪神で起きていることをリアルタイムでお伝えしました」 (サンテレビ編成部)
関西圏に住む野球ファンなら誰でも知っていることだが、サンテレビにとって阪神戦の中継は伝統的な“キラーコンテンツ”です。
「弊社は1969年5月1日にテレビ放送を開始しましたが、当初から阪神戦の中継は大切なコンテンツの一つでした。弊社の中継における独自色の一つに、完全中継を行っていることが挙げられます。試合はプレイボールからゲームセットまで全てお届けします。例えば 、1992年9月11日の阪神・ヤクルト戦は、延長15回引き分けで終わりましたが、試合終了は午前0時26分でした。6時間26分の試合時間はプロ野球の最長記録で、この試合を弊社は最後まで放送しました」(サンテレビ編成部)
近年、地上波でプロ野球の中継は減少傾向にあります。
サンテレビも例外ではないのだが、それでも年間で約60試合、阪神の公式戦を中継しているというのです。
「内訳は半分がホームゲーム、半分がビジターゲームです。約60試合のうち約10試合は『リレー中継』を行っています。これはABCテレビさんの中継時間が終わると弊社が中継を受け継ぎ、試合終了まで放送するというものです」(サンテレビ編成部)
これほど力を入れているのだから、これまでもサンテレビは、阪神がセ・リーグを制した瞬間に立ち会ってきました。
2003年のリーグ優勝の際は、9月15日に甲子園で行われた対広島戦で決まり、当時の星野仙一監督(故人)が胴上げされた時の世帯視聴率は13.4%でした。
興味深いことに、前回2005年のリーグ優勝も9月29日に甲子園で決まり、対戦相手も今回と同じく巨人、監督も岡田監督でした。
何から何まで同じシチュエーションだったわけだが、この時の世帯視聴率は14.9%でした。
いずれも関西圏が大いに盛り上がった瞬間だったにもかかわらず、2003年が13.4%、2005年が14.9%、そして2023年が20.8%と、今回の視聴率だけが飛び抜けて高かったです。
2003年と2005年は他局も生中継していました。
2003年9月15日にリーグ制覇を決めた試合は関西テレビとサンテレビ、BSの3局が中継、関西テレビは17.1%(関西地区)でした。
2005年9月29日の中継は読売テレビで23.6%(関西地区)をマークしました。
ところが今年は、サンテレビの独占中継でした。
サンテレビは兵庫県と大阪府を筆頭に、関西圏をカバーしています。
他局が試合を放送しなかったので、視聴者がサンテレビにチャンネルを合わせ、これが高視聴率の要因だと考えられます。
サンテレビが放送する公式戦の約60試合は開幕前に決まっており、変更することや増やすことはできません。
つまり、運が悪ければ、阪神がリーグ優勝する瞬間を放送できなかった可能性がありました。
サンテレビが中継しない阪神のホームゲームは他の在阪局、NHK大阪放送局・毎日放送・朝日放送テレビ・関西テレビ・読売テレビ・テレビ大阪に振り分けられています。
ただし、テレビ大阪で中継する場合、関西の独立UHF局ではびわ湖放送(滋賀県)・奈良テレビ・テレビ和歌山にもネットされるが、サンテレビ・京都放送にはネットされません。
「今シーズンは開幕前から阪神優勝の可能性が指摘され、実際、序盤から勝ち続けました。社内でも例年にもましてセリーグ制覇の気運が高まり、『優勝特番を必ず当日に放送する』と決定、準備を重ねてきました。それでもXデーは『9月20日以降だろう』という見立てだったのです。ところが、阪神の連勝と広島の連敗が重なり、どんどんXデーが前倒しになりました。社内では『準備の時間が足りなくなって大変だ』という声が上がっていましたが、まさに嬉しい悲鳴でした」(サンテレビ編成部)
サンテレビは9月14日と17日(DeNA戦、ホーム)に阪神戦の中継を行う予定でした。
9月15日(広島戦、アウェー)は当初は関西地区での放送予定はなかったが、阪神の優勝が14日までに決まらなかった場合に限り読売テレビが中継を決定(阪神の優勝が14日に決まったため、中継はなくなった)、16日(広島戦、アウェー)は毎日放送が中継しました。
そして14日の優勝を予想した社員はほとんどいなかったというそうです。
「『17日でも早いよ』という声が多かったほどです。ところが、10連勝というまさかの快進撃で、優勝マジック1で14日を迎えた時は、何か運命に導かれているような気持ちがしました。当日は会社に残っている社員もたくさんいたのですが、9回表に巨人の坂本勇人選手がホームランを放って1点差に迫られた時は悲鳴が上がりました(笑)。とにかく弊社は、長年の間、阪神が強い時も弱い時も、できる限り試合を放送してきました。ファンの皆さんの“アレ”への強い想いと弊社の姿勢が一つになって、阪神優勝の瞬間を独占中継できたという奇跡が起きたと思っています」(サンテレビ編成部)
サンテレビは今後も阪神タイガースと命運を共にするのでしょうか。