
線路が4本ある複々線。
日本一長い複々線は東海道・山陽本線(琵琶湖線、JR京都線、JR神戸線)の草津~西明石駅間になり、その距離は120.9kmに及びます。
関西の複々線にまつわるお話を話題をご紹介しましょう。
複々線区間の草津~西明石駅間は京都、大阪、神戸を結ぶ関西の大動脈です。
4本ある線路のうち、外側線(列車線)には主に特急列車、貨物列車、新快速が走り、内側線(電車線)には普通と快速が走ります。
最高速度130km/hを誇る新快速が内側線を走る普通を追い抜く姿は関西の鉄道を象徴するワンシーンと言っていいでしょう。
ところで、国鉄時代にあたる1986(昭和61)年以前、新快速は内側線を走っていました。
これは外側線と内側線で管理者が異なっていたことが原因です。
内側線は大阪鉄道管理局、外側線は東京にある国鉄本社が管理していました。
同様に新快速などの近郊列車は大阪鉄道管理局が主導権を握っていましたが、特急列車や急行列車、貨物列車は国鉄本社のコントロール下にありました。
つまり、大阪鉄道管理局からすると特急列車や急行列車、貨物列車が走る外側線は手出しできない「聖域」であり、黙って指をくわえるしかなかったのです。
ただし、朝夕のラッシュ時には外側線を走る快速があり、その快速は六甲道、須磨、垂水の各駅を通過しました。
京都から草津線に直通する普通列車もあり、これも京都~草津間は外側線を走行、普通列車にも関わらず瀬田駅を通過しました。
福知山線の列車は大阪~尼崎間は外側線を走行、普通列車でも塚本駅を通過しました。
国鉄民営化を控え、JR西日本が外側線や特急列車などの長距離列車の主導権を握れることが決定しました。
国鉄民営化の前年にあたる1986年にようやく、新快速が外側線を自由に走れるようになりました。
これにより、新快速の利便性は一気に向上しました。
今日の新快速の繫栄は1986年に築かれたと言っても過言ではないでしょう。
ところで、草津~西明石駅間には2種類の複々線があります。
新長田駅(兵庫県神戸市)を境に方向別複々線(草津~新長田)と列車別複々線(新長田~西明石)になります。
方向別複々線の区間は北側(下)から上り線・外側線、上り線・内側線、下り線・内側線、下り線・外側線の順に並んでいます。
方向別複々線のメリットは同一ホームで新快速から快速・普通への乗り換えが簡単にできることです。
列車別複々線の区間は北側(下)から上り線・外側線、下り線・外側線、上り線・内側線、下り線・内側線の順に並んでいます。
列車別複々線のメリットはコストがかからないことです。
方向別複々線とは異なり、新快速が停車しない駅はホームを1つだけつくればいいのです。
そのため、JR西日本発足後に開業、新快速が停車しない桂川、島本、JR総持寺、さくら夙川、甲南山手、摩耶、須磨海浜公園の各駅は内側線のみにホームがあります。
一方、列車線別複々線の明石駅と西明石駅は新快速から普通・快速への乗り換えの際に同一ホームでの乗り換えができないため、利用客からすると少し不便かもしれません。
現行のダイヤでは、JR神戸線の平日朝ラッシュ時の上り快速は外側線を走るため舞子、垂水、須磨の各駅を通過、JR宝塚線の早朝の大阪発着の普通電車の一部は大阪~尼崎間で外側線を走るため塚本駅を通過します。
列車別複々線の鷹取~西明石駅間は1965(昭和40)年に複々線化されました。
常磐線や中央本線をはじめとする戦後に複々線化された関東地方の国鉄/JR東日本路線は列車別複々線を採用しています。
このうち、常磐線の複々線区間については、1971年に営団地下鉄(現在の東京メトロ)千代田線が開通した時、常磐線との接続駅である綾瀬駅に快速が止まらないというのが大きな問題となりました。
そのため、亀有駅と金町駅からは直接上野方面に行けない(千代田線に乗り入れてしまう)という問題が生じたのです。
綾瀬駅はJR東日本ではなく東京メトロの管轄駅で、JRのきっぷの発売に制約があるほか、綾瀬駅から北千住駅で乗り換えて常磐線の南千住駅方面に向かう場合、東京メトロを利用してもJR東日本と同額の運賃が適用されます。
亀有駅・金町駅から山手線の駅に向かう場合、北千住駅乗り換えに比べ運賃は割高になるが乗り換えの手間が省けるとして、西日暮里駅で乗り換えるケースが多いです。
関東ほどではありませんが、関西には東海道・山陽本線以外にも複々線区間はあります。
関西私鉄の複々線区間と言えば、阪急の大阪梅田~十三間2.4kmが挙げられます。
この区間は神戸・宝塚・京都の三つの本線が並走する、日本の私鉄で唯一の3複線区間です。
この3複線の間に中津駅があるが、ホームは神戸本線と宝塚本線だけで京都本線にホームがありません。
もともと中津駅の利用者が少なかったうえ、1960年の3複線化の際中津駅の京都本線ホームの用地が確保できなかったほか、大阪梅田~十三間の京都本線の線路は宝塚本線の複々線の扱いとなっているからです。
京阪本線天満橋~萱島(寝屋川信号所)間は12.1kmもある関西私鉄最長の複々線です。
京阪本線の複々線区間は方向別複々線となり、内側線が特急や急行などの上位優等列車、外側線は普通などが走ります。
また全線高架線で直線区間が長いことから、車内からの見晴らしもなかなかのもので、京阪電鉄でも数少ない最高速度110km/hの区間です。
また大阪府にある千林~滝井~土居駅間はそれぞれ400mしか離れていないため、複々線と線路の形状も相まって、複数の駅が一気に見渡せます。
南海本線の難波~岸里玉出も南海本線と高野線が並走する複々線区間です。
この複々線の中にある今宮戎駅と萩ノ茶屋駅はは高野線だけにホームがあり、南海本線には普通列車も止まりません。
高野線が止まるため、南海電鉄の普通列車は南海本線が「普通」、高野線が「各停」と同じ会社なのに種別が異なります。
ただし、今宮戎駅も萩ノ茶屋駅も所属する路線は南海本線です。
高野線の正式な区間は汐見橋~極楽橋(高野山)間で、汐見橋~岸里玉出間は高野線本線と分断され、事実上の支線となっています。
複々線区間の前面展望は鉄道ファンならずとも楽しいものです。
それぞれの複々線区間に隠されている特長を意識すると、より前面展望が楽しくなることでしょう。