強制力がなく実効性に疑問符が付きまくりの「自転車のヘルメット着用努力義務化」ですが、実際に事故が増えているからヘルメットを……という論法にはまだ説得力があります。
ですが、前例が少ないとはいえ重症事故も想定され、2022年9月には死亡事故も起こっている電動キックボードが免許もヘルメットも不要になるという道路交通法改正に誰が納得するのでしょうか?
2022年12月20日の午後、「自転車のヘルメット、2023年4月1日から着用が努力義務化」というニュースを報道各社が一斉に報じましました。
これは、以前から決まっていた道交法改正案に含まれていた自転車のヘルメット着用努力義務化の施行日が、同日の閣議で決定されたことを受けてのものです。
自転車のヘルメット着用に関しては、これまでも13歳未満の子供については保護者が着用させる努力義務がありましたが(実は知りませんでした……)、2023年4月1日以降はすべての自転車利用者が対象になるというわけです。
警察庁によると、2017~2021年に自転車乗車中の事故で亡くなった2145人のうち、約6割の1237人は頭部に致命傷を負っていたそうで、死傷者数に占める死者の割合を示す「致死率」は、着用者が0.26%だったのに対し、非着用者は約2.2倍の0.59%だったとのことです。
バイクに乗っている方なら容易に想像できるでしょうが、バイクでも自転車でも転倒して頭部を強打したら大けがを負う可能性が高いし、場合によっては命の危険もあるでしょう。
そういう理由もあって、バイクは原付に至るまで乗車中のヘルメット着用が義務化されています。
原付を含むバイク乗車時のヘルメット着用義務は道路交通法第71条の4で定められていて、違反(ヘルメットをかぶらない)をすれば「乗車用ヘルメット着用義務違反」となり、違反点数1点が加算されます。
ただし、反則金はありません。
バイクに乗る方なら当然、この規則はご存じでしょうし、多くのライダーは違反になるからというだけでなく、安全性を考えてヘルメットを着用しているのだと思います。
以前はヘルメットをかぶらなくてもよかった原付も、1986年から着用が義務付けられています。
その原付の制限速度は30km/h、それに対して自転車などの軽車両には速度制限の規定がなく、一般の自動車と同じ制限速度が適用されることになっています。
つまり、60km/h制限の一般道なら、60km/hで走行してもいいのです。
最近の電動アシスト付き自転車は、24km/hでアシストがカットされますが、それ以上のスピードを出したければ自分の足で漕げばいいのですから、頑張れば30km/h以上の速度で走ることも造作ないことでしょう。
また、最近の自転車は高性能になってきていて、電動アシスト自転車はもちろんのこと、超軽量で高価なロードバイクなら70km/hオーバーも可能だそうですから、ヘルメット着用義務化も正当性があるようにも思います。
しかし、そこらの買い物に行くようなママチャリやミニベロもとなると、いったい誰がヘルメットをかぶるようになるのだろうと疑問に思います。
というのも、今回の着用義務化には“努力”と付いていることからも分かるように罰則がありません。
つまり、何かあった際に保険適用の条件等が変わる可能性はあっても、基本的に抑止力が用意されていないのです。
となると、自発的にかぶるのが大前提なわけですが、前述のようにママチャリやミニベロに乗る人が本当にヘルメットをおそらく新たに購入して、着用するようになるのでしょうか。
この罰則のない着用努力義務化について警察関係の方は「取締班に聞いたが具体的な指示がない場合は、警察官は自転車のヘルメット着用違反を取り締ることはないのでは」とのことでした。
言い方は悪いですが、「ザル法」以外の何物でもありません。
さまざまな規制の中で、さらには規制がなくても身の安全のために自ら進んでプロテクターを装着するなどして安全運転を心がけているライダーの立場からすると、警察が危険性があると強く感じているなら罰則のある義務化に踏み切るべきなのではと思います。
もちろん、いたずらな規制強化は歓迎しませんが、事故防止のために最低限必要な処置をとるべきなのではないでしょうか。
ヘルメット着用と聞くと、やはり思い浮かぶのが特定小型原動機付自転車に該当する電動キックボードのことです。
自転車にヘルメット着用の義務化を課すような動きをしながら、一方でははるかに危険性の高いと誰もが思う電動キックボードのヘルメット着用も、罰則のない義務化で済ませようとしているのはどうにも理解に苦しみ、まったく納得がいきません。
国、警察庁は、誰の目から見ても整合性があり、合理的な道路交通法を制定することを強く希望します。