斉藤由貴さん、南野陽子さん、浅香唯さん、「スケバン刑事」(フジテレビ)に主演した3人が顔をそろえた音楽バラエティー番組「霜降り明星のゴールデン80’s」(BSフジ)の2022年10月9日(日)に放映された第1回に続き、10月16日(日)放映の第2回にも、1985年に歌手デビューを果たした3人が2週連続でゲスト出演しました。
斉藤由貴さんが「白い炎」、南野陽子さんが「楽園のDoor」、浅香唯さんが「Remember」を歌唱しました。
三者三様でそれぞれ「スケバン刑事」の主題歌を歌い上げたのですが、さまざまな人生経験を経て、表現力や歌唱スキルがアイドル時代よりも大きくアップしていたのです。
ドラマ性を感じさせる見事なステージでした。
3人が青春期を過ごした1980年代は、まさにアイドル黄金時代でした。
そして人気アイドルたちが次々と主演したドラマ枠として記憶されているのが、フジテレビの「月曜ドラマランド」です。
ドラマ界の「番外地」扱いをされていた「月曜ドラマランド」ですが、新聞のテレビ欄を眺めるだけで思わず吹き出してしまうユニークな企画が並んでいました。
出演するアイドルにとっても、視聴者にとっても一種の「魔境」だった「月曜ドラマランド」。
1983年4月にスタートし、1987年11月まで続いた「月曜ドラマランド」は、午後7時30分から8時54分までの「90分」という時間枠でした。
当時はまだ少なかったマンガ原作の実写ドラマ化に果敢に挑戦したことで知られています。
斉藤由貴さんは「野球狂の詩」で、水原勇気を演じています。
南野陽子さんはSFジュブナイルの傑作「時をかける少女」、浅香唯さんは人気アニメの実写化「一休さん」に主演しました。
他にも三田寛子さんが主演した「ハーイあっこです」、石川秀美さんと永瀬正敏さんが共演した「新・翔んだカップル」、少女隊が主演した「特別機動少女隊 ホールドアップ!!」、木村一八さん(引退)と横山やすしさん(故人)の父子共演作「包丁人味平」など、多彩なラインアップとなっていました。
初の実写化となった「ゲゲゲの鬼太郎」には、原作者の水木しげるさん(故人)が霊界郵便配達夫として出演していました。
おニャン子クラブの主演作を思い出す人もいるでしょう。
「学芸会レベル」と評されることが多かった「月曜ドラマランド」は、今なら「原作レイプ」などと毎週のように炎上騒ぎになっていたかもしれません。
しかし、多くの俳優や女優、スタッフが「月曜ドラマランド」から巣立ったことは確かです。
「軽チャー路線」を標榜し、一時代を築いたフジテレビのイケイケぶりを象徴したような番組でした。
ドラマ枠としては評価されることのなかった「月曜ドラマランド」ですが、この枠をステップにして歌手としても女優としても大ブレイクを果たしたのが小泉今日子さんです。
1983年5月に小泉今日子さん主演の「あんみつ姫」が放送され、時代劇の常識をひっくり返したような小泉さんのおてんばでやんちゃなお姫さまぶりが好評を博し、シリーズ化されることになります。
第1作の主題歌に「まっ赤な女の子」が使われ、小泉さんの初のヒット曲になりました。
あんみつ姫名義でリリースした「クライマックス御一緒に」は第2作、第3作の主題歌となっています。
当時のフジテレビの勢いと「キョンキョン」のポップな感性がうまくマッチしたようです。
「あんみつ姫」の原作となった倉金章介氏(故人)の漫画は、1949年から約6年間にわたって光文社の雑誌「少女」で連載されました。
連載中にはいち早くラジオドラマ化されたのをはじめ、雪村いづみさんや鰐淵晴子さん主演で映画化、さらに中原美紗緒さん(故人)が演じたテレビドラマ(ラジオ東京テレビ(現在のTBS))も放映されるなど、漫画史に残る人気作品でした。
「あんみつ姫」以外で小泉さんが主演した「月曜ドラマランド」のなかで伝説の一本となっているのは、1986年3月3日に放映された「藤子不二雄の夢カメラ」です。
中山美穂さん、荻野目洋子さんと共演したオムニバス学園ものでした。
小泉さんが主演した第3話「じゃんけんぽん」の演出を担当したのは、「時間ですよ」「ムー一族」(TBS)などを大ヒットさせた鬼才ディレクターの久世光彦さん(故人)です。
雛祭りの日に、幼い頃に事故で亡くなった双子の妹が帰ってくるという、ホラーファンタジーでした。双子を演じ分けた小泉さんの芝居のうまさと、背筋をゾッとさせるエンディングが記憶に残る一編でした。
小泉さんは、その後も久世さんとのタッグが続き、「向田邦子新春スペシャル」など多くのドラマに出演し、女優としての評価を高めていくことになります。
低迷期の日本映画も支えたのもアイドルたちでした。
小泉今日子さんは、人気少女マンガの実写化映画「生徒諸君!」(1984年)を皮切りに、「ボクの女に手を出すな」(1986年)、「怪盗ルビィ」(1988年)と主演し、映画界でも大いに活躍するようになります。
80年代は他にもアイドル映画が数多く公開されました。
宇沙美ゆかりさんと三田寛子さんが共演した「みゆき」(1983年)、中山美穂さんの映画デビュー作となった「ビーバップ・ハイスクール」(1985年)、国生さゆりさん主演「いとしのエリー」(1987年)、南野陽子さん主演「はいからさんが通る」(1987年)、浅香唯さん主演「YAWARA!」(1989年)などなど。
マンガ原作ではありませんが、菊池桃子さんが女優デビューを果たしたコメディ映画「パンツの穴」(1984年)、中森明菜さんが近藤真彦さんと共演したオカルトファンタジー「愛・旅立ち」(1985年)も忘れがたい作品です。
80年代の日本映画界は興行的にどん底期にあり、映画館はどこもガラガラ状態でした。
日本映画の低迷期をアイドルたちが支えたという側面があります。
当時の評価が高くなかったことから、「月曜ドラマランド」の多くはソフト化されておらず、また80年代のアイドル映画も、DVD化されていない作品が少なくありません。
再評価される機会があってもいいのではないでしょうか。
かつてアイドルたちが今なお現役で活躍している姿を見ていると、彼女たちの原点となった作品も見てみたいという気持ちになります。