「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」「サザエさん」「ちびまる子ちゃん」……家族で楽しめる四大国民的アニメといえばこちらでしょう。
この並びに入っていてもまったくおかしくないアニメが金曜のゴールデンタイムに放送されていました。
ご存じ、「あたしンち」です。
「あたしンち」はけらえいこさんの漫画が原作で、1994年6月5日から2012年3月11日まで、読売新聞日曜版に連載されました。
その後、2019年12月23日から「AERA」で連載されています。
高校生だったころのけらさんと父母、弟からなる核家族の日常を描いた内容です。
書評家の山村修氏は長谷川町子の「サザエさん」と比較し、「世が世なら立派な国民マンガである」と評しました。
1996年、けらさんは「あたしンち」で第42回文藝春秋漫画賞を受賞しました。(同時受賞は早稲田大学漫画研究会で先輩だったやくみつるさん)
お母さん(声・渡辺久美子)の強烈なビジュアルとキャラクター、寡黙ながらも愛おしいお父さん(声・緒方賢一)、思春期真っ盛りのユズヒコ(声・阪口大助)、そして「あたし」こと女子高生みかん(声・折笠富美子)ら「タチバナ一家」を取り巻く日常を描いた本作。
原作は1200万部を突破する超人気マンガということで、放送開始前より話題沸騰。
2002年4月より金曜日の夜7時30分~7時54分というゴールデンタイムのど真ん中という放送枠でしたが、平均視聴率は12.5%とかなりの高水準を維持していました。
制作は「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」と同じシンエイ動画です。
今もなおキンモクセイの主題歌「さらば」とともにアニメ「あたしンち」を記憶している人も多いはずでしょう。
ではアニメ「あたしンち」(第1期)はいつ終了したのでしょうか。
好きで見ていたという人は何万人といるのに、なぜだか「最終回」を記憶している人は母数に対しては少ないように見受けられます。
アニメ「あたしンち」の物語はお母さんが良し悪しはさておいて核となっていきます。
お弁当のおかずをミックスベジタブルだけにしたり、みかんの言動を針小棒大に吹聴しては開き直ったり……みかん以上に激怒した人も少なくないでしょう。
とはいえ、本人には悪気なし。
この「お母さん」をいかに攻略していくかという「あるある」も微笑ましいのです。
最恐とうわけでも超破天荒というわけでもなく、理不尽なところが多々ある、まさにどこにでもいる「あたしンち」のお母さん像はかえって衝撃でした。
演出面ではどうでしょうか。
放送開始当時、まず視聴者を驚かせたのが、その画面の脱力っぷり。
あえて白を強調した色数の少ない水彩画のような背景、そして唐突に訪れる絶妙な「間」。
原作が23コマしかないため、「尺調整」が必要だったとはいえ、強烈な母のドアップが数秒間続くなど、日常コメディでありながらもなかなか攻めた演出が際立ちました。
母がよく「情熱の赤いバラ~♪」と歌っていたのも、尺調整のためでした。
その後、監督の交代などもあり徐々にではありますが、よりお茶の間全体を意識した演出にソフトランディングしていきます。
アニメ「あたしンち」といえば前述の「尺調整」のために挿入されるコーナーも忘れてはなりません。
「このあとおまけがあるよ」というみかんの前振りも懐かしいですが、それ以外にも前半後半の合間にさまざまなコーナーが挿入されてきました。
妙にハイテンションな尻文字クイズ、視聴者から寄せられた「あたしンち」っぽい写真を紹介するコーナー、長「タチバナクッキングスタジアム」などなど1期終了までに十数ものコーナーが誕生しては消えていき、まるでバラエティ番組のようでした。
また予告も「次回のあたしンち方面は……」と天気予報のようで細部にまでしっかりこだわり抜いた作品でした。
そんなアニメ「あたしンち」(第1期)ですが2009年9月19日の放送をもって最終回を迎えました。
実に7年以上にわたる長寿作品となったのですが、これを聞いて「そんなに長いことやっていたかな」と首をかしげる人もいるのではないでしょうか。
これが前述の「最終回を知らない人が多い」理由でもあるのです。
アニメ「あたしンち」は2004年10月に枠移動となり、全国ネットではなく以降はローカル枠での放送となります。
そして、このタイミングで放送がなくなった地域も多く、「気付けば終わっていた」という人も多いのはそのためです。
それでもなお放送が続いていた地域での人気は続き、いよいよ番組終了が決定した際は「反対署名運動」を起こそうとするファンも現れるほどでした。
なお、最終回まで放送した局はテレビ朝日(制作局)、朝日放送、山形テレビ、長野朝日放送、山口朝日放送、愛媛朝日テレビ、岩手朝日テレビの各局で、政令指定都市があるにも関わらず宮城・愛知・広島・福岡の各県では最終回まで放送されず、北海道では北海道テレビで放送終了後、未放送分を最終回までテレビ北海道(テレビ東京系)で放送しました。
だが、その後「あたしンち」人気は燃え続け……。
「あたしンち」は第2期が制作されたのです。
「新あたしンち」のタイトルで2015年から2016年にかけてアニマックスで放送され、BS朝日でも2021年3月26日まで放送されていました。
また「あたしンち」公式YouTubeチャンネルでもエピソードを配信し続けています。
さらに同チャンネルではムービーコミックの配信もスタートしました。
つまりアニメ「あたしンち」は「いつの間にか終わっていた」のでなく、そもそも終わっていなかったのです。
コミックの「あたしンち」の連載終了については、作者のけらえいこさんが読売新聞のインタビューに応じ、それが連載終了後、2013年3月18・25日と2週にわたって読売新聞日曜版に掲載され、最初は主人公のみかんの目線で描いていたのがいつのまにか母の目線で描くようになり、さらに自分の年齢が母の年齢を追い越してしまい、最後は東日本大地震で描く意欲がなくなったというそうです。
その後、読売新聞日曜版では現在連載中の「猫ピッチャー」が始まるまで約1年間、連載漫画がありませんでした。