さっぱりとした酸味のあるスープの味わいと、ツルっとしたのどごしが心地よい「冷やし中華」の美味しい季節がやって来ました。
中華料理屋さんやラーメン屋さんの店頭に「冷やし中華はじめました」のポスターや旗が出る光景は、今や日本の夏には欠かせない感さえあります。
ところが秋になっても「冷やし中華おわりました」の張り紙は見たことがありません。
「はじめました」はアナウンスされるのに、「おわりました」がアナウンスされないのはなぜでしょう。
そんな冷やし中華の謎に迫ります。
「冷やし中華はじめました」の貼り紙を出す時期は4月中旬から5月上旬の間です。
「冷やし中華終わりました」の貼り紙を出さない理由は、ポスターを貼れるスペースに限りがあるので、終わった告知よりも新しい商品の告知をしたいためです。
ただ、「冷やし中華はじめました」の貼り紙は店舗によって違い、毎年必ず出しているわけではなく、出さない年もあるそうです。
出さない理由は、とくにありません。
季節の商品や新商品が出るというのです。
そうなると、やはり「おわりました」より「はじめました」が優先されるのは自然な流れなのでしょう。
残暑が落ち着いてきた頃、冷やし中華がメニューからひっそりと消えていることに気付いたとき、夏の終わりを実感する人は多いのではないでしょうか。
スーパーの惣菜売り場もだいたい同じです。
冷やし中華の販売が終わる頃には「新米🍚入荷」「ボジョレー・ヌーボー🍷予約開始」といったポップが出てくるし、早いところだとクリスマスケーキ🎂やおせちの予約も始まります。
冷やし中華は日本で生まれた中華料理です。
その発祥を調べていくと、まず、東京の神田神保町が発祥だとする説があります。
その元になったお店が、今も営業を続けている「揚子江菜館」です。
1933(昭和8)年に2代目店主が考案した『五色凉拌麵(りゃんぱんめん)』、いわゆる五目冷やし中華です。
富士山の四季を彩る料理で、具材は全部で10種類。甘酢タレ味が特徴です。
「揚子江菜館」では「麺」ではなく「麵」の字が使われていたから、これが店としての正式表記なのでしょうか。
また、ゆで玉子、野菜、ハムなどの具を放射状に盛りつけるイメージは、東京から広まったといわれています。
一方で、宮城県仙台市を発祥の地とする説もあります。
1937(昭和12)年に仙台市で営業する中華料理店が、暑い夏でも来店客を減らさないメニューを考えて、試行錯誤の末に完成させたといわれます。
ちなみに関西では、冷たい麺料理を総じて「冷麺(れいめん)」と呼びます。
だから冷やし中華も冷麺です。
東京の冷やし中華は麺皿に盛りつけられたイメージが強いのに対し、関西の冷麺はラーメン鉢に入った冷たい汁麺のイメージがあります。
冷やし中華が全国へ広がったのは、第二次世界大戦後になってからのことです。
地方ごとに、そしてお店ごとにさまざまな形に変化しました。
すべての具材を麺にトッピングしたり、別皿で添えられていたりして、バリエーションに富んでいます。
旅に出かけた先で冷やし中華の違いを楽しんだり、店主に直接「なんで『冷やし中華おわりました』がないのですか?」と尋ねてみたりするのも一興かもしれません。