回送列車に乗った経験のある人、鉄道関係者でもない限り、なかなかいないでしょう。
列車で寝ていて気がついたら車庫にいた、という経験を持つ人はいるかもしれませんが。
東海道新幹線の回送列車には「乗客へ向けた専用の車内放送」があるのです。
普段から乗客に向けて行われている車内放送は次のようなものです。
「ピピピピッ ピピピピッ ピピピピッ ピピピピッ ピピピピッ ピピピピッ この電車は、回送列車です。ご乗車いただけません。間違えてご乗車されているお客さまは、進行方向前寄りの、運転室までお越しください」
終点へ到着したのちも引き続き車内に残っていたり、間違って乗ってしまった人へ向けたもので、目覚まし時計のような「ピピピピッ」という音とともに繰り返し、日本語と英語で車内へ放送。
乗務員のいる運転室へ来るよう、うながしています。
2016年7月30日(土)、JR東海は東海道新幹線に4か所ある車両基地のひとつ、鳥飼車両基地(大阪府摂津市)を見学するツアーを開催しました。
参加者は新大阪駅から回送列車に乗車するという、珍しい出来事がありました。
車掌により、次のような車内放送も行われました。
「この列車は回送8660号、鳥飼車両基地行きです。」
その参加者たちが、新大阪駅から鳥飼車両基地まで約10分、回送列車に乗って移動したのです。
東海道新幹線の車両基地は大井(東京都品川区)、三島(静岡県三島市)、日比津(愛知県名古屋市)、そして鳥飼にあり、鳥飼車両基地の一般公開はこのときが初めてでした。
先に書いた「この列車は回送8660号、鳥飼車両基地行きです」は、「車両基地公開」という“特別なイベント”にあたって車掌が行ったものですが、そうではなく、毎日走っている回送列車で普段から、しかも乗客に向けて行われている車内放送があるのです。
それが、前記の車内放送です。
鳥飼車両基地行きの回送8660号車内でも、新大阪駅を発車するまで幾度となくその音が響きました。
そのため、この車内放送を聞いたことがある人は少ないでしょう……といいますか、“聞いてはいけない車内放送”です。
さて、たとえば東海道新幹線で列車が終点に着いたとき、車内清掃があれば寝ていてもその際に起こされます。
しかし、その列車が車内清掃をせず、車両基地へ行ってしまう場合があります。
JR東海によると、車内清掃をせず、折り返し回送列車として車両基地へ戻る場合でも必ず車内の点検を行い、「気がつけば車庫」がないようにしているそうです。
確実にそうするため、先に書いたような車内放送をあわせて行っているわけです。
「回送列車に乗る」という珍しい体験をして鳥飼車両基地に向かった「東海道新幹線のおしごとを学ぼう」ツアー参加者らのなかには、この聞き慣れない車内放送に驚き、思わずキョロキョロする人もいたそうです。