放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送人権委員会は3月30日、フジテレビの番組「テラスハウス」に出演していた女子プロレスラー、木村花さん(当時22歳)が視聴者から誹謗(ひぼう)中傷を受けた末に昨年5月に死亡した問題について、花さんの精神的な健康状態への配慮が欠けていた点で、フジに放送倫理上の問題があったとの見解を出しました。
ただ、人権侵害があったとまでは断定できないとの結論を示しました。
「テラスハウス」は、一般募集などで集まった男女6人の共同生活や恋愛模様を見せるリアリティー番組で、「台本がない」ことを売りにしていました。
審理対象となったのは、フジテレビが昨年5月19日未明に放送した回でした。
男性共演者が花さんのリングコスチュームを誤って洗濯などしてしまい、花さんが強く非難する場面が放送されました。
この回は、動画配信サービス「ネットフリックス」で同3月末に先行配信などもされており、ネット交流サービス(SNS)上で花さんへの中傷が増えた末、花さんは同5月23日に死亡しました。
花さんの母の響子さんは、花さんがSNSでの中傷が激化したことを苦に「自らの命を絶った」と主張、昨年7月に人権委員会に審理を申し立てていました。
花さんを凶暴な女性のように描く番組側の「過剰な演出」により「精神的苦痛を受けた」などとして、花さんへの人権侵害を訴えていました。
人権委員会は見解で、「放送倫理上の問題があった」と判断した理由として、ネットフリックスでの配信をきっかけにSNSで花さんへの中傷が増え、花さんが自傷行為に至る深刻な事態が生じていたのに、花さんの精神状態への配慮が不足していたことを挙げました。
フジテレビに対し「全体として、問題の深刻さの認識に甘さがあったことは否定できない」とも批判しました。
一方で、花さんの自傷行為後、フジテレビ側が一定のケア対応をしていたことなどを理由に、「人権侵害があったとまでは断定できない」としました。
BPOの見解発表を受け、響子さんは30日、東京都内で記者会見を開き「人権侵害が認められず、本当に残念な結果。歯がゆく、悔しい」と涙ながらに語りました。
響子さんは「番組によって花が誹謗(ひぼう)中傷を受けたことは明らかなのに、(その責任を)認めてくれないのは、私や花と親しい人たちの苦しみを深くするものだ」と見解を批判しました。
「SNSが生活の中心にある時代なのに、それに合わない判断だ」と苦しい胸の内を吐露しました。
さらに、インターネット上の中傷をなくすための啓発活動をするNPO法人「リメンバー ハナ」を設立することも表明しました。