そんなジュリーを食すべく、さんざん迷った（地図が読めないから）あげく、店の前へ。土曜の真昼食事時ではあるが、異様なオーラを静かに放っている。のれんがなんか、グラビアアイドルのパレオに使われているような素材だ。どうでもいいかそれは。意を決して引き戸を開けて中に入ると、店内には客は一人もなく、やけにひんやりとして静かだった。・・・休み？するとカウンター内にいたドン小西を少々縦に伸ばしたような面持ちの店主に「いらっしゃい」と声をかけられた。休みではなく、こういう店なのだろう。
カウンターに一人ぽつねんと座って、とんかつ定食を注文。することもなくカウンターを眺めていると、オレンジ色の冊子を見つけた。『地球環境保護と飢餓救済のために —とんかつ屋・天ぷら屋における公害と犯罪—』・・・これだ！だれかのブログに書いてあった「パンフレット」だ。ここの主人、相当とんかつにこだわりがあるらしく、とうとうとんかつ本（16頁）を一冊上梓してしまったのである。ちなみに公式HP（あるんです）でその一端を垣間みることができる。
しかし、長い。パンフレット読み終わってもまだ出てこない。つうか、鍋の前に座っていたのだが、「ジュー」ともいわないし、さっきから鍋の中のとんかつを菜箸でずっと動かしている（これもこだわりなんだってさ）。10分ほど経った頃から店主が「もうガマンできねえ」、みたいな感じであれこれ話し始めた。パンフレットを読みふけっている（ように見えた）のが、どうやら店主の講釈魂に火をつけてしまったらしい。失敗したなー。いちいち追って書いていくとおそらく3回にわたってアップしなければならなくなりそうなので、箇条書きにする。
●1995年に店を継いで、自分で三代目である
●油を「ジュー」といわさないのが一番のこだわり
●油をかき混ぜ続けることで肉汁を蒸発させない
●肉汁を逃がさないことで、余分な油を吸わせない
●油を菜箸でかき回すと「ジュー」といわないのが何故なのか、偉い先生に聞いても分からないと言われたが、
自分なりに答えを見つけた。（でも教えてくれなかった）
●ラードは業務用のものではなく肉を切ったときの余った脂身を使う
●でもって、スーパーで買ったサラダ油をちょっと混ぜる
●最後の一切れまで湯気が上がり続けるとんかつは、ウチだけ
・・・などなどなど。ちょっとうざい。
結局、待つこと20数分後、ようやくとんかつが目の前に。
でけえよ！
ゆうに250g（！）はあろうか。
店主の講釈がつづく中、食べきれるか不安にかられる。そしていよいよ、最初の一切れが口に運ばれる・・・。
率直な感想はというと、肉と衣のバランスが、普通のとんかつのそれとはかなり異なってなんだかとんかつ食べてる気がしない。ただひたすら豚肉と格闘している気分になるのだ。肉がとにかくバカでかいからなのだけども、もうちょっと肉小さくしてくんないか。つうか食いきれねえよ、この量。最初のひと口めで「最後にキャベツを皿に残った肉汁で絡めて食べてね」とか言われたら気の小さいおれは「絶対残せないわ」って思っちゃうじゃん！食ってる途中で店閉められて軟禁されたら（客はほかに入ってきていない）、「絶っっっっっ対残せねええええ！」って思っちゃうじゃんかさ！馬鹿！そんなことはおかまいなしに上機嫌で話し続ける店主のおやじに、笑顔で相づち打ちながら冷や汗をかき続け、そのうえ話聞きながらなもんだから全然味わえない。
かくしてごはんを少々残しただけでカツ地獄、いやさ豚肉地獄からなんとか解放された。実際は講釈が食後も続き、地獄はまだ終わっていなかったのだけど。
「マタ、来マス」
精一杯のぎこちない笑顔を残し、店を後にした。ともあれ疲れた。しかし、「地獄」を感じさせた時点でだいぶ間違った店だとは思うが、不思議とそのあと胃がもたれるということはなかった、あれだけ食べたのに。まあ、味はそんなに悪くなかったし、肉はまあまあ柔らかかったし。いいとするか。・・・と思い口の中でまわした舌先に、ざらざらとした感触をおぼえた。またもや、みごと口内を切っていたのであった。あーあ。 〈アルプス廃児〉
味：★★★☆☆ 量：★★★★☆ コストパフォーマンス：★☆☆☆☆
＜今日のお店＞
店名：上野とんかつ 平兵衛
住所：台東区上野6-7-13
（オーダー）
とんかつ定食 2300円
（他メニュー）
カキフライ定食 1300円