世紀末幻想 カルーセル・エルドラド
19世紀末、自然界の曲線をモチーフにした新しき美が生まれた。アール・ヌーヴォーである。優雅で典雅なアール・ヌーヴォーは絵画や装飾に影響を及ぼした。
技術が大幅に進歩した当時、パリ万博から始まったアトラクションが次々と生まれる。パノラマや機械仕掛けの人形、自動オルガンなどである。その中で最も人気を博したのがカルーセルである。
アール・ヌーヴォーで豪奢な木製のゴンドラと馬がサロン・ド・ミュージックの流れる中を回転する遊具はまるで魔法であった。世紀末の夢の具現化、それがカルーセルなのである。
さて、そういった遊具があるということは、それを作る職人がいるということだ。有名なカルーセルビルダーといえばドイツのヒューゴ・ハッセ(Hugo Haase)である。知ったかぶって書いているが、いま調べたところだ。
19世紀後半から20世紀初頭に活躍したヒューゴさんは自前の会社でアミューズメントに必須のゴーカートやコースター、カルーセルを作りまくった。
そして1907年、ヒューゴさんはとうとう最高傑作を作り上げた。否、作ったというより創造したと表現すべきか。それが「カルーセル・エルドラド」である。
黄金郷という名の回転木馬、アール・ヌーヴォー様式の装飾、ひとつひとつ色が違う木馬、ゴンドラを飾る天使、音楽を奏でるニンフ、19世紀末を照らし出すライティング。すべてが夢のような芸術品である。
え?やけに詳しいって?だって乗ってきたんだもの。エルドラドは日本で現役なんだ。なぜかって?そりゃまた後で説明する。ということで雨の降る日曜日、としまえんに行ってきた。
なんか閑散としてる
初めてのとしまえんなのに、雨のローカル遊園地は懐かしい感じがした。
練馬区なのになぜとしまえんなのかというと、その昔豊島氏の城があったからだと女神が教えてくれたので、江戸時代くらいの話かなあと思ったら戦国時代だという。ええっ、そんなに古くからとしまえんがあったの!?などとバカ話をしながら向かうはエルドラドである。
あっ、なんかモフモフしてるのが居るよ!君がエルドラド?
妙な生物はどうやらエルドラドではないようだ。確かにフォルムが変というか全然アール・ヌーヴォーではないし、ヤギさんがもらってるおやつを盗み食いしたりしてエルドラド感はまるでない。我々はエルドラドを求めて彷徨った。
あっ!
エルドラドはその雄姿をいきなり我々の目の前に現した。どっしりと構えた堂々とした姿は、ここが練馬区のローカル遊園地であるということを忘れさせるのに充分であった。
想像以上の美しさ
装飾や画がマジでアールヌーヴォー
素晴らしい!
付随する外燈がオシャレ
我々はいそいそと列へ並んだ。待ち時間はあれども、世紀末の夢の欠片を堪能しながらの待ち時間なので全然苦にならない。では待ち時間の間にエルドラドの数奇な運命を説明しよう。
1907年ドイツの機械技術者ヒューゴー・ハッセによって彼の最高傑作となるカルーセルが造られました。ヒューゴーはこれにより「遊園地業の王様」と呼ばれるようになり、ヨーロッパのカーニバルを巡業しながら、各地で歓迎を受けていました。ドイツでは戦争が起こりそうな不穏な空気が流れ出します。
そんな時、アメリカのルーズベルト大統領がドイツを訪れます。それをきっかけに、ヒューゴーは大切なカルーセルをアメリカへ移すことを思いつき、1911年に弟を同行させてニューヨークの遊園地へと移動させました。豪華なカルーセルは「エルドラド(黄金郷)」と名付けられアメリカの人達にとても愛される存在となります。
1950年代に入ると土地代が値上がりし、遊園地経営が困難になります。1964年には、ついに遊園地を閉鎖することとなり、市民に愛されたエルドラドは解体され倉庫に収められました。
それから4年。売りに出されたエルドラドを豊島園が買い取り、2年の歳月を掛けて修復され、1971年から再び、豊島園で回り始めました。
ドイツで生まれアメリカを経由して練馬区へやってきたエルドラド。100年以上に渡り世紀末の夢を乗せて優雅に回り続けてきたエルドラド。現役カルーセルとしては世界最古のエルドラド。2010年には機械遺産に認定された。
エルドラドの歴史に想いを馳せたら、さあ、いざ往かん、我らのエルドラドへ!ということで、待ちに待った順番がやってきてカルーセル内に侵入した我々はどの席に座るか悩んでウロウロした。だって全部素敵なんだもの!
カップル席
おうちに一台欲しい
御伽噺の馬車ってこんな感じ?
アニマルライドは固定されていて上下の動きはないが、乗り場が3段階に分かれていて中央へ行くほど回転が速くなる。ってことで我々は一番中央の座席を陣取った。
近くで見ると装飾が本当に細かい。これらは全て手彫りであるという。
欧州お得意の顔面彫刻
劣化しても優雅
ロストテクノロジーといってもいいのではないか
こういった細かな装飾が本当に素敵
マジで木製だ
よくぞここまで
中央の柱にはニンフのスタチュー、ミステリアスな赤いカーテン、ドイツ語で書かれた料金表を装飾しているフクロウの眼が光る。
天井には天使が舞い、風景画は旅情を誘う。正真正銘ベルエポックの真空パックである。
ミュシャみたいだ
写真を撮ったりゴジラ先輩の写真を撮ったり写真を撮られたりしてたらゆっくりと回り始めた。
先輩!こちらでよろしいでしょうか
いい表情です、先輩!
先輩が喜んでくれて嬉しいです
ゆっくりだったのは一瞬だけで、一番回転する中央に座ったのでみるみる回転が速くなっていく。優雅にみえるが中央座席はあんまり優雅ではないと動き始めてやっと気づいた。ってゆーか、コレGかかってない?なんか遠心力を感じるよ。バターになりそうだ。あっ、ゴジラ先輩がぶっ飛んだ。とぎゃあぎゃあ騒いでいるうちにアールヌーヴォーな世紀末のローリングベルエポックは終了した。儚い夢のようだった。
そんな儚い夢をみなさまに少しだけおすそ分け。
美しい夢は本当に一瞬だ。儚い夢を追体験するため、我々はもう一度列に並んだ。今日を逃したらもう乗れないかも知れないからね。
カルーセル・エルドラドが設置されているとしまえんは8月いっぱいで閉園する。閉園後のエルドラドの行き先はまだ未定である。歴史的価値を有する芸術品を破棄するようなことはよもやあるまいとは思うが、もしもということもある。どれだけ人気があるかでエルドラドの処置が決まるだろう。
だからみんな、としまえんでエルドラドに乗りまくるんだ!
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