大詩人の色懺悔 女妖記 | 不思議戦隊★キンザザ

大詩人の色懺悔 女妖記

女妖記

西條八十

中公文庫

 

ランボー研究のフランス文学者であり詩人であり、また作詞家としても有名な(蘇州夜曲、青い山脈、王将など)ロマンティスト西條八十の女性遍歴譚。

 


西條先生の詩は「かなりや」が好き

 

優男のダンディだったことはうっすら知っていたが、まさかこれほど女性に弱いとは知らなんだ。しかも描かれている女性陣が揃いも揃って一筋縄ではいかない姐さんばっかりだ。玄人がいれば素人もいる。健気な半島の娘がいれば、盗癖を持った浮気性の芸妓がいる。フランス女もひとりいる。ちょっと惑わされ過ぎでは?とも思うが、西條先生はそんな女たちに振り回されながら振り回されている自分自身を愉しんでいる。


女好きのことを昔は「スケコマシ」と言ったが、西條先生はさながら「スケコマサレ」といったところか。特に「黒縮緬の女」では、自分を他人の誰かに間違われたまま女掏摸の姉御に抱かれるなど、怖いもの知らずというか冒険心溢れるというか、大胆不敵なスケコマサレっぷりである。

 


軍歌の作詞もしてました

 

西條先生は女性に対して絶対に怒ったりしない。そして何をおいても女性の欲望や希望を最優先する。それはまるで猫に対する人類のようである。我々人類は猫が花瓶を落として割ったりしても怒らない。反対に「こんな場所に花瓶をおいていた自分が悪い」と反省する。そう、西條先生にとって女性は猫なのである。相手が猫なんだから説得も出来ないし論理的行動を求めることも出来ない。西條先生は女性のことも自分のことも深く理解しているのだ。それも頭ではなく情緒で理解している。


ただし西條先生がこれほど女性に引っ掻き回されても怒らず懐かしがっているのは、育ちが良くてカネを持っているからである。貧乏人に西條先生の真似は出来ないだろう。旧き良きという形容が似合う一冊である。