徳川夢声の世界 | 不思議戦隊★キンザザ

徳川夢声の世界

徳川夢声の世界I、II(文学者編)
徳川夢声
深夜叢書社

 

戦前からのマルチタレント徳川夢声の対談集。文学者編ということで対談相手は当時売れっ子の豪華作家陣。とはいえ現在では忘れられている作家が大半だと思われる。そもそも徳川夢声を知っている若人がいるかどうか。

 

夢声の八面六臂ぶりに感心

 

登場する文学者も平林たい子丹羽文雄福田恒存子母沢寛石川達三など、名前は聞いたことあるけど作品は読んだことがないという作家も多い。現代ではほとんど忘れ去られた作家というか。まあ、流行作家はそんなもんかも知れんが、昭和29年の里見弴(さとみ・とん)との対談では、明治期に書かれた小説の漢字が分からない、用語の意味が分からないという話になり「鴎外、漱石でも数年のうちに読み手がなくなるだろうと悲観的な説を立てるひともいるね」と言った里見自身が現代では全く読み継がれていないという皮肉。マダムも読んだことない。まあ、読んでるひともいると思うけど漱石ほどではないだろう。

 

反対に今でもガンガン有名な作家の対談も多く、江戸川乱歩内田百閒尾崎士郎吉川英治松本清張石原慎太郎(!)などがいる。慎太郎は「太陽の季節」で芥川賞を受賞して翌年の対談である。30歳も年上の無声に対し礼儀ある態度で接しながらも、若者らしい野心が見え隠れするのが初々しい。

福田恒存は「最近はどこに行っても聞きたくもない音楽が不躾に流れてくるので腹立たしい」と述べていて、聞かせる側の余計なサービス精神は昔から蔓延っていたことが分かる。マダムも自分の聞きたい音楽以外は聞きたくないので福田の腹立たしさはよく理解できる。

 

対談なので口調や対談内容に作家の個性がにじみ出ているのが興味深い。川口松太郎はべらんめえ調、武者小路実篤は品の良い東京弁、志賀直哉は気取った東京弁、松本清張はロジックに重点を置いたしゃべり方、辰野隆は相変わらず豪放磊落といった具合である。作家のひとりひとりにヒストリーが感じられるのはホスト役の無声によるものか。

作家たちの横の繋がりや噂話も面白い。岡本かのこを暗にバケモノ呼ばわりする平林たいこ、タダで手に入れたルオーの画をさりげなく自慢する志賀直哉、漱石の虞美人草を芥川は認めてなかったとバラす小島政二郎、相変わらずいろんな作家のしくじりをバラす辰野隆(笑)。ピカソから直接画をもらったときのことを話す武者小路が少々興奮気味でカワイイ。

 

昔日の世相や流行が見えてなかなか面白かったので文学者以外の対談もそのうち揃えたい。政治家対談が面白そう。

 

 

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