二度と見られないものを愛せ
「鹿島茂コレクション2 バルビエ×ラブルール展」のために、練馬区美術館まで行って来た。
遠かったが、素晴らしいコレクションだった!
展示されているコレクションは全て、鹿島茂氏の個人コレクションである。仏文学者というより、熱狂的古書マニア兼コレクターとして有名である氏は、天井突っ張り本棚「カシマカスタム」生みの親でもある。
氏は、18世紀から20世紀初頭のフランス文学を得意とされており、マダムの世紀末フランスネタは、全て氏の著書が元ネタである。
氏が執着する対象が少々変わっていて、当時の馬車の値段であったり、娼婦が一ヶ月にかける生活費であったり、世紀末の歓楽街及びキャバレーの歴史であったり、オスマンの大改造計画前のパリであったりして、下世話というかなんというか、B級好きマダムの興味をそそる物件ばかりなのである。
そんな氏が「惚れた」という挿絵画家二人のコレクションである。購入した図録からピックアップして紹介する。
まずバルビエの、鮮やかな色が美しい豪華装丁本である。20世紀初頭はブルジョワ相手によく売れたという。
ニジンスキーに捧げたイラストアルバムも、有り得ないほどの保存状態の良さである。伝説になっている奇跡の跳躍は、バルビエの美しいイラストによって永遠を与えられた。
無駄のない線描と構図、すっきりと平面的なイラストは、いま見ても全く古さを感じさせない。版画なので多色使いは難しいのだろうが、抑えた色彩が、よりモダンを引き立てて大変シックである。
こちらは、浮世絵の研究家でもある版画職人と共同で作成されたイラスト集である。計算しつくされたモダンなイラストが、当時最高の精緻を極めた版画技術により、まったく絢爛豪華な素晴らしさ、溜息が洩れる程の美しさである!
こういった贅沢な豪華本は、制作に時間がかかるし発行部数も多くは出来ないらしいので、一度コレクターの手に渡ったら最後、一般人が目にすることはないという。
それを考えると、自身のコレクションを惜しげもなく一般公開してくれた鹿島氏は、なんと太っ腹な人物だろうか!
(ま、一部は「自慢したい」欲求、これを氏の言葉でドーダという)
他に、淑女の読む小説の挿絵、服飾メーカーの広告、ファッションイラスト、舞台や映画の衣装を手がけていた。
ちょいと王道から外れた位置に置かれている挿絵というジャンルは、マダムも大好きである。
最初はバルビエの作品を「武井武雄や蕗谷虹児に似てるなぁ~~」と思いながら見ていたが、それは全く反対で、武井武雄や蕗谷虹児がバルビエに似てるんだ!!ということに思い当った。
戦前の挿絵画家では蕗谷虹児が一番好きなマダムは、もちろんバルビエも大好きになった。
(花嫁人形のオルゴールを持ってたなー、そういえば)
また、マルセル・シュウォッブの挿絵も手掛けていて、思いがけずこの作家の名前に再開したので嬉しくなった。マルセル・シュウォッブの作品は「少年十字軍」しか読んだことはないが、もっと日本で読まれてもよい作家の一人だと思っている。
というか、そもそも翻訳本が少ないので読みたいのに読めない作家のひとりなのである。
続いてラブルールである。こちらはバルビエほどの派手さはないが、バルビエとはまた違ったモダンな作風である。
パリに遊学していた蕗谷虹児が、最も参考にしたのがラブルールであったらしい。
パリのサロン・ドートンヌ(秋の展覧会)に蕗谷虹児が出品した作品がこちら。
超ラブルールじゃねえか。
さて、この鹿島茂コレクション、今回は実は2回目で、昨年行われた一発目のコレクションは、やはりフランスの挿絵画家「グランヴィル」であった。(残念なことにマダムは行けなかったけど)
「2度あることは3度ある」というし、きっと次のコレクションもあるだろう。今から楽しみである。